日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.内幕(うちまく/ないまく)
「内幕」とは、外からは分からない内輪の事情、内情・内実のことです。
内幕は、戦場で陣の周囲を二重に張った幕に由来します。
野営の陣には二重の幕が張られており、外側に張る幕を「外幕(とまく)」、内側に張る幕を「内幕」と言いました。
内幕は外幕より小さく、「半幕(はんまく)」「小幕(こまく)」とも言います。
内幕の中には軍の上層部だけが集まり、重要な作戦会議が行われていました。
そこで決められたことは、内幕の外にいる者には分からない機密事項となっていたことから、外からは見えない内部の事情(内情・内実)も「内幕」と言うようになりました。
また、江戸時代には、内幕が味方や一味、内々ですることを表す言葉としても使われていました。
2.独活(うど)
「ウド」とは、ウコギ科の多年草で、山野に自生するほか栽培もされます。若芽は柔らかく芳香があるため食用とされます。
成長すると高さ約2メートルに達しますが、中が空洞で建材にも使えないため「独活の大木」(体ばかり大きくて、何の役にも立たない人のたとえ)という慣用句があります。
ウドの語源には、次のように諸説あります。
①「ウヅ(埋)」の転
②「ウド(埋所)」の意味
③茎にトゲが多いことから、ウバラ(荊棘)の「ウ」にトゲ(棘)の「ト」
④「ウツホ(空)」の「ウ」に、「ト(土)」
⑤ウドは円柱形の茎が高さ2メートルにも伸びて、枝を茂らせることから「うで(腕)」の転
⑥「うまい(美味い)」の「ウ」に、フキノトウなど花軸や花茎を表す「トウ(薹)」
ウドは成長に従って、「ドゼン」や「シカ」とも呼ばれます。
呼び分けの際には、土中にあって食用とするものを「ウド」と言うため、これを元に考えると、「埋」や「埋所」、「うまい薹」の説が有力です。
漢字の「独活」の由来は分かっていませんが、風がなくてもひとりでに動くことからという説があります。
「独活」を「どっかつ」や「どくかつ」と読む場合は、薬用とするウドの根茎やシシウドの根を表します。
「独活」は春の季語で、次のような俳句があります。
・春寒(はるさむ)や のび損ねたる 日陰独活 ( 芥川龍之介)
・昼月(ひるづき)や 山独活(やまうど)を掌(て)に 匂はしめ(石田波郷)
・やうやうに 掘れし芽独活(めうど)の 薫るなり(杉田久女)
3.宴/讌(うたげ)
「宴」とは、酒盛り、宴会のことです。
宴の語源には、手をたたく意味の「うちあげ(打ち上げ)」が変化したとする説と、「歌酒」の意味や「歌い上げ」の略など「歌」に関連付けた説があります。
古くは、酒を飲み、手を叩いて楽しむところから、宴会をすることを「打ち上げる」と言い、『竹取物語』などでも「酒宴」の意味で「うちあげ」が使われていることから、「うちあげ」の音変化で「うたげ」になったとする説が有力です。
4.宇宙(うちゅう)
「宇宙」とは、全ての事物を包容する無限の空間と時間の広がり、全ての天体を含む空間、特に太陽系空間のことです。
宇宙の「宇」は元々「軒」や「屋根」を表した漢字で、四方に葺き下ろした部分のことから、上下四方で「空間」を意味します。「宙」は「時」を意味する漢字です。
この二つを合わせた「宇宙」は、三次元空間(上下前後左右)と往古来今(過去・現在・未来)の全体を表します。
日本で「宇宙」の語が見られるようになるのは『日本書紀』からですが、この頃は古訓で「アメノシタ」と読まれ、「地上」「天下」「国家」などを表しました。
また、時空間のすべてを表す言葉には、仏教語の「世界」があったことから、中古で「宇宙」の語はあまり用いられていませんでした。
「宇宙」に「ウチウ(うちゅう)」の読みが見られるようになるのは中世からで、「ウチウ」のほか「オホゾラ(おおぞら)」や「アメガシタ」などの訓も付けられています。
日本で「宇宙論」が論じられるようになったのは幕末からで、本格的には明治期に入ってからです。
5.頷く(うなずく)
「頷く」とは、承諾・同意などの気持ちを示して首を縦に振る、合点(がってん)することです。
頷くは、項(うなじ)を前に突くの意味から「項突く(うなつく)」が語源です。
「うなじ」の「うな」が語源となる言葉には、「項垂れる(うなだれる)」や「うながす(諸説あり)」などがあります。
漢字の「頷」は、「頁(あたま)」と「含」からなる字で、食物を含んだあごを表し、「頷」には「あご」や「おとがい(下あご)」の意味があります。
うなずくの漢字に「頷」が用いられるのは、あごを上下に動かし承諾の気持ちを表すところからです。
6.裏金(うらがね)
「裏金」とは、取引や事をうまく運ぶために表に出さずに支払われる金銭のことです。
裏金は、相手に与えることで、こちらの思うように事を進めるための手段として用いられます。
裏金は、雪駄の裏のかかとに打ちつける鉄の薄板や、鉋の刃の裏につける小さな刃の意味でも使われます。
また、侍大将など上級武士が用いた陣笠や、日本画の絵絹の裏に金箔をあてたものの意味でも使われます。
裏金という言葉の起源は江戸時代にさかのぼります。当時、藩札などを発行する際に、その兌換のために用意された金を指す言葉として使われていました。
この意味での裏金は、御備銀や備銭とも呼ばれ、裏金という語が広まる以前から存在していました。