日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.絵に描いた餅(えにかいたもち)
「絵に描いた餅」とは、実際は何の役にも立たないもの、また実物でなければ何の値打ちもないことのたとえです。
どんなに上手に描いた餅であっても、見るだけのもので食べられないことから、「絵に描いた餅」とたとえるようになりました。
このことわざの出典は『三国志』魏志「盧毓伝」で、魏の文帝が「名声や評判というものは、地面に描いた餅の絵が食べられないのと同じで、何の役にも立たない」と言ったという故事に由来するといわれることがあります。
しかし、類語の「画餅(がべい/がへい)」の由来としては考えられますが、「絵に描いた餅」と「画餅」の関連性は明確ではなく、日本と中国で似た表現をしていたというのが大方の見方です。
2.演説(えんぜつ)
「演説」とは、大勢の人の前で自分の意見・主義・主張を述べることです。
漢語の「演説」は、「演」が「講釈する」、「説」が「道理・教義・意義」で、道理や意義を述べ解くことを言い、日本でも「演説」はこの意味で使われていました。
江戸時代末期、蘭和辞書『和蘭字彙』では「redevoering(スピーチの意味)」の訳語として当てられました。
これとは別に、福沢諭吉が、中津藩の藩士が上申する際に用いた「演舌書」という文書から、「舌」の字は俗であるとして「説」に替え、英語の「speech(スピーチ)」の訳語に「演説」という造語を用いたことから、明治以降は現在の用法が一般化しました。
『和蘭字彙』で「スピーチ」を意味する言葉として「演説」が扱われてはいますが、その時点では一般化されておらず、福沢諭吉の造語から広まっているため、現在多く使用される意味の「演説」と、道理や意義を説き明かす意味の「演説」は語源が異なると見るべきです。
余談ですが、現在「演歌」と言えば、昭和時代までは人気のあった歌謡曲・流行歌の一種ですが、明治時代の自由民権運動において、政府批判を歌に託した演説歌の略語としての意味もありました。隅
イギリスの「ハイド・パーク(Hyde Park) 」北東隅にある「スピーカーズ・コーナー(Speakers’ Corner)」は、さまざまな人が日々自説を論じる場所として有名です。ここでは、演説しようとする人は「イギリス王室への批判」と「イギリス政府の転覆」についての2つを除けばいかなる話題についても、法的問題を気にすることなく語ることができます。
3.栄養(えいよう)
「栄養」とは、生物が生命の維持、成長していくために、体外から取り入れること、また栄養となる個々の物質(栄養素)のことです。
648年に編纂された『晋書』では、栄養が「孝養(親に孝を尽くすこと)」「衣食住」の意味で用いられていました。
これが「栄養」の初出となりますが、現在意味する「栄養」と直接の繋がりはありません。
中国の医書『脾胃論』では、身体を滋養する意味で「営養」の表記が用いられるようになりました。
これが日本にも伝わり、明治から大正にかけては「営養」が多く用いられましたが、1918~20年頃から「栄養」が一般的となりました。
「営養」から「栄養」への転換は、栄養学の創始者である佐伯矩が「栄養」に統一するよう提言したことによります。
栄養の語源には、漢民族が生命を繋いでいくために必要なタンパク質を摂るために、羊を食べていたことに由来するという説もあります。
これは、栄養の漢字を分解して、「栄」は「繁栄」や「発展」の意味。「養」を「羊を食べる」と解釈したものです。
しかし、上記のとおり、「えいよう」の語が先にあり、のちに日本で「栄養」の字を使うよう決められたもので、羊のタンパク質と栄養の語源は一切関係ありません。
4.似非/似而非/エセ(えせ)
「エセ」とは、名詞に付いて、似ているが本物ではない、見せ掛けだけのもの、まやかしの意味を表します。「エセ関西弁」「エセ文化人」などと使います。
エセの語源については、次のように諸説あります。
①正しいものに為り得ぬ意味の「えせぬ」の略。
②「いせ(僻・癖)」に通じる語。
③「おそ(鈍)」が転じた語。
④「にせ(偽・贋)」に由来する説。
⑤古語「えしもの(荒物・荒賊)」の「えし」が転じたとする説。
古く、エセの語は、劣っているものや価値のないものを表していました。それが、悪質や邪悪の意味も持つようになり、さらに偽物の意味に転じたもので、初めからエセに偽物の意味があった訳ではありません。
そのため、エセの語源は「にせ(偽・贋)」以外の説と考えられますが、それ以上のことは不明です。