日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.親知らず(おやしらず)
「親知らず」とは、第三大臼歯の俗称で、人間の歯のうち、最も遅く生える上下左右4本の歯のことです。
親知らずの由来は諸説ありますが、乳歯を「親」、永久歯を「子」に見立てた説が有力です。
親知らずは他の永久歯と違い、乳歯が抜けた後に生えてくるものではありません。
そのため、親(乳歯)を知らずに育つ子(永久歯)の意味で、「親知らず」と呼ぶようになりました。
永久歯を「大人の歯」、乳歯を「子供の歯」と呼ぶため分かりづらいかもしれませんが、それらは人間の成長を軸にした呼称です。
歯の生まれる順番という視点で考えれば、先に生える乳歯を「親」、後に生える永久歯を「子」とするのは自然なことです。
なおこのほかに、親知らずの由来には、次のような説があります。
①親知らずが現れるのは20〜30歳頃ですが、昔の人の寿命は短かったため、親は子の「親知らず(第三大臼歯)」を見ることなく亡くなっていたことから。
②昔は若いうちに親離れしていたため、親が知ることなく生える歯の意味から。
③乳歯が生え始めた頃は親が子の歯を磨くが、第三大臼歯が生えてく頃には親が子の歯を見ていないことから。
上記三説はいずれも、親知らずの「親」の意味を「本当の親」とした解釈です。
余談ですが、「親知らず子知らず」という言葉があります。これは「危険な山道、海沿いの断崖絶壁の道などの難所のこと」です。
この言葉の由来は、険しい道が行く手を阻み、親は子を、子は親を顧みる余裕がないほどの難所という意味からです。
なお、新潟県糸魚川市の海岸に「親不知子不知(おやしらずこしらず)」と呼ばれる地帯があります。
2.お局(おつぼね)
「お局」は、もともとは宮中で局を与えられていた女官の敬称です。江戸時代、大奥で局を与えられていた奥女中や、女中を取り締まった老女の敬称になりました。現代では口うるさいベテラン女性社員を指し、「お局様」とも言います。
お局は、宮中や貴族の屋敷で、そこに仕える女房の私室として仕切った部屋を「局(つぼね)」と呼ぶことに由来し、「局(つぼね)」のみでも女房や女官を指すこともあります。
つぼねの語源には、「壺」や「坪」などに由来する説もありますが、小さく仕切って囲う意味の動詞「つぼぬ」の連用形「つぼね」が名詞化したとする説が有力です。
「つぼね」の漢字に「局」が使われているのは、「局」に細かく分かれた区切りの意味があることからです。
現代で言う、口うるさく、意地悪なベテラン女性社員の「お局」は、1989年のNHK大河ドラマ『春日局』の放送がきっかけとなり、流行語となった表現です。
また、このドラマからは「春日」という俗語も生まれ、世間で言う結婚適齢期を過ぎても未婚でいる女性社員のことを指していました。
前年の1988年に出版された『部長さんがサンタクロース』(羽生さくる)の中で、お茶汲み10年、キャリアが嫌味のお局様が描かれているため、こちらが現代で使われる「お局」の由来ともいわれます。
ふつうのOLの実態を観察し再現したドキュメントで、設定はこちらの方がマッチしますが、広く使われるようになったのは『春日局』の放送以降のため、語源と呼べるか微妙です。
ただし、「お局」は陰口に使われる言葉のため、この書籍に由来する形で一部では使われていた表現が、『春日局』の放送によって一般化した可能性は十分に考えられます。
3.鬼百合(おにゆり)
「オニユリ」とは、ユリ科の多年草です。日本全土に分布し、夏、紫色の斑点のある橙赤色の花を多数開きます。葉の付け根に「むかご(零余子/珠芽)」を付け、鱗茎は「ユリ根」として食用になります。
オニユリは、花の色が橙赤で外側に反った花びらが、赤鬼のようであることからの名です。
オニユリの鱗茎(ユリ根)は食用で、昔は飢饉に見舞われた際の非常食とされ、人々を救う糧でした。
現在でも、農家が庭先などでオニユリを栽培しているのは、非常食糧にしていた時代の名残りです。
「鬼百合」を含めて、「百合」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・大雄殿(だいゆうでん)の 背山鬼百合 犇(ひしめ)ける」(日野草城)
・百合の花 折られぬ先に うつむきぬ(宝井其角)
4.岡持ち(おかもち)
「岡持ち」とは、出前や仕出しで料理を運ぶのに用いる木製の浅い桶。または蓋と持ち手の付いた箱です。
岡持ちの「岡」は、「岡目八目」や「岡惚れ」などの「岡」と同じで「脇」や「傍ら」を意味し、「岡(傍ら)」の家に持ち運ぶことから「岡持ち」になったという説があります。
魚屋、寿司屋、うなぎ屋などが出前に使用するものなので、そのような解釈が出たのでしょうう。
しかし、元々は摘み草を運んだり、田植えに用いたカゴを「岡持ち」と呼んでいたため、「岡」は上記と同じ「傍ら」の意味ですが、由来は傍らに携えるところからと考えられます。