日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.大風呂敷を広げる(おおぶろしきをひろげる)
「大風呂敷を広げる」とは、実現できそうにない話をしたり、計画したりすることです。
風呂敷は包む物が何もなくても、広げた時の寸法は大きいものです。
これが大風呂敷(大きな風呂敷)となれば、なおのこと外形だけは大きくなります。
そこから、特に内容が無いのに大それたことを「大風呂敷」といい、現実性に乏しい大袈裟な話をしたり計画したりすることを「大風呂敷を広げる」と言うようになりました。
2.お裾分け/御裾分け/おすそ分け(おすそわけ)
「おすそ分け」とは、もらった品物や利益の一部を他の人に分け与えることです。「お福分け」とも言います。
おすそ分けは、「裾分け」に接頭語の「お(御)」が付いた語です。
「裾分け」の形では、1603年の『日葡辞書』に見られるのが古く、「お裾分け」は近世後期から見られます。
「すそ(裾)」は、衣服の下端の部分から転じて、主要ではない末端の部分も表します。
そこから、品物の一部を下位の者に分配することを「裾分け」というようになりました。
やがて、上下関係を問わず、他の人に一部を分け与えることを「おすそ分け」というようになりました。
3.鬼の霍乱(おにのかくらん)
「鬼の霍乱」とは、普段は健康な人が珍しく病気になることのたとえです。
鬼の霍乱「霍乱」は、もがいて手を振り回す意味の「揮霍撩乱(きかくりょうらん)」の略です。
日射病や暑気あたり、江戸時代には夏に起こる激しい吐き気や下痢を伴う急性の病気(今日の食中毒、コレラ、日射病などを複合した病気)を「霍乱」と言いました。
いつもは健康で強くて丈夫な人を「鬼」、珍しく病気になることを「霍乱(急性かつ苦しむ病気)」にたとえ、「鬼の霍乱」というようになりました。
「鬼の霍乱」は季語ではありませんが、「霍乱」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・霍乱や 一糸(いっし)もつけず 大男(村上鬼城)
・霍乱の さめたる父や 蚊帳の中(原石鼎)
・かくらんや まぶた凹みて 寝入る母(杉田久女)
4.狼(おおかみ)
「オオカミ」とは、食肉目イヌ科の哺乳類です。大型犬ほどの大きさで、吻が長く、耳は立ち、尾が太いのが特徴です。また、うわべだけ優しく装い、実際は恐ろしい人のたとえにも用います。
ニホンオオカミは、明治38年(1905年)に奈良県東吉野村鷲家口(わしかぐち)で捕獲されたのを最後に絶滅したと見られていますが、日本では昔から、オオカミが山神の使いとして敬われており、語源は「大神」の意味からと考えられています。
また、神は信仰の対象ですが、人を食い殺すような怖い猛獣も「神」と呼んでおり、その恐ろしさからオオカミは「真神(まかみ・まがみ)」とも呼ばれていました。
オオカミの語源には、大きな口をもつことから、「大噛み」の意味とする説もあります。
優しく装っているが、実は怖い人を「狼」と言うのは、「狼に衣(おおかみにころも)」ということわざに由来します。「狼に衣」は、衣を着せたオオカミは、一見して怖いことが分からないことからです。
「狼」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・狼の 声そろふなり 雪のくれ(内藤丈草)
・狼や 睾丸凍る 旅の人(正岡子規)
・狼の 群に入らばや 初時雨(寺田寅彦)
5.囮(おとり)
「おとり」とは、鳥や獣を誘い寄せて捕まえるための同類の鳥獣、ほかのものを誘い寄せるために利用する物のことです。
おとりの語源は「おきとり(招鳥)」の略で、「おく(招く)は「まねく」「呼び寄せる」を意味します。元々、おとりは鳥を捕らえるために使う同類の鳥を指しました。
それが獣などにも用いられるようになり、人を誘い寄せるために利用するものも「おとり」と言うようになりました。
漢字表記は、ふつう「囮」ですが、おとりとなる鳥を意味する「媒鳥(ばいちょう)」の字を当てて「おとり」と読ませることもあります。