日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.矍鑠(かくしゃく)
単行本『九十歳。何がめでたい』がベストセラーになった佐藤愛子さん(1923年~ )(上の写真)は、現在99歳の「白寿」で11月5日には100歳になられます。
2021年に「断筆宣言」をされましたが、2022年には「婦人公論」9月号から「思い出の屑籠(くずかご)」と題した連載が始まりました。また、ここ数年は毎年のように過去の随筆を集めた本も出されています。
「矍鑠」とは、年を取ってっも丈夫で元気のよいさまのことです。
矍鑠は漢語に由来する言葉で、出典は『後漢書』の馬援伝です。
62歳という高齢の馬援が戦陣に立とうと光武帝に申し出ましたが、老齢を気づかった光武帝はこれを許しませんでした。
馬援は甲冑をつけて馬に乗り、威勢を誇示したところ、光武帝が「矍鑠たるかなこの翁は」と言って、感嘆したということです。
矍鑠の「矍」の漢字は、目をキョロキョロさせ、素早く反応するさま、「鑠」は、輝くさま、いきいきして元気がよいさまを意味します。
私が最近の日本の有名人で矍鑠としていると思うのは、89歳の女優草笛光子さん(1933年~ )です。
NHK朝ドラ「どんど晴れ」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のほか、養命酒のCMや健康ステッパー・ナイスデイのCMなどにも出演し、今でもはつらつとしておられます。
彼女は1950年に松竹歌劇団(SKD)に5期生として入団し、日本ミュージカル界の草分け的存在ですが、現在もトレーニングを欠かさないそうです。これが若さの秘訣かもしれませんね。
余談ですが、彼女は1960年に作曲家の芥川也寸志さん(1925年~1989年)と結婚していますが、2年で離婚しました。
2.悲しい/哀しい(かなしい)
「悲しい」とは、心が病んで泣けてくるようだ、つらく切ない気持ちだということです。
古く、悲しいは「心が強く痛むさま」「切ないほどいとおしい」「かわいくてならない」「悔しい」「残念」など、マイナス面に限らず、激しく心が揺さぶられる状態を言いました。
悲しいの語幹「かな」には、「しかねる」の「かね」と同源の語で、力及ばず何もできない状態のこととする説があります。
しかし、かなしいは心の動揺を自分で抑え切れない状態と考えたほうがよく、感動の終助詞「かな」の品詞転換と考えられます。
悲しいの「悲」の漢字は、「非」が羽が左右反対に開いたさまから、両方に割れる意味を含みます。
その「非」に「心」で、悲は心が裂けること、胸が裂けるような切ない感じを表します。
哀しいの「哀」の漢字は、「衣」が被せて隠す意味を含みます。その「衣」と「口」で、哀は思いを胸中に抑え、口を隠して咽(むせ)ぶことを表しています。
3.がらんどう
「がらんどう」とは、中に何もなく広々していること、誰もいないこと(また、そのさまのこと)です。
がらんどうの語源には、寺院の中で伽藍神を祭ってある堂の「伽藍堂(がらんどう)」に由来し、伽藍堂の中は何も無くて広々としていることからとする説があります。
また、「がらん」「からん」「からっ」「からから」などの擬態語からや、「から(空・殻)」が転じたとする説もあります。
がらんどうの語源は未詳ですが、擬態語の「がらん」に空間を表すため「伽藍堂」と掛けて、「がらんどう」になったと考えるのが妥当です。
4.格好/恰好(かっこう)
「格好」とは、外から見た物の形、外見、姿、身なり、体裁、世間体(せけんてい)のことです。
一般に使われる漢字の「格好」は当て字で、本来は「恰好」と書きました。
「恰」は「あたかも」「ちょうど」、「好」は「よい」の意味で、「恰好」は「ちょうど合う」「相応しい」の意味で用いられました。
「形がちょうどよい」というところから、姿・形そのものや体裁の意味で用いられるようになり、「格好」の字が当てられるようになりました。
5.考える/勘える(かんがえる)
「考える」とは、知識や経験から、物事を筋道立てて思いはかる、思考をめぐらすことです。
考えるの文語は「かんがふ」で、古くは「かむがふ」でした。
「かむがふ」の「むかふ(むがふ)」は、「むかう(向かう・対)」の意味。
最初の「か」は、「すみか(住み処)」「ありか(在り処)」などの「か(処)」と同じく場所を表す「か(処)」、もしくは、「かなた(彼方)」など指し向うところを表す「か(彼)」です。
考えるは、二つの物事を対比して思いめぐらすことから、「か・むかふ(かむがふ)」になり、「かんがふ」「かんがえる」になったと考えられます。
6.頑丈(がんじょう)
「頑丈」とは、体や物が丈夫で強いさまのことです。
がんじょうを漢字で「頑丈」と書くのは、明治以降の当て字です。
中世・近世には、「強盛(がんじゃう)」「岩乗(がんじょう)」「岩畳(がんでふ)」「五調(がんでう)」など、さまざま仮名表記・漢字表記がありました。
語源は未詳ですが、古くは馬の強健なことを意味したことから、名馬に必要な五つの条件を意味する「五調」からと考えられます。