日本語の面白い語源・由来(か-⑧)楽屋・餓鬼・牙城・間髪を容れず・杜若・観光・癌

フォローする



楽屋

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.楽屋(がくや)

役者の楽屋

楽屋」とは、劇場や寄席・テレビ局などで、出演者が準備や休憩をする部屋のことです。

元々、楽屋は「樂之屋(楽之屋)」といい、舞楽で楽人が演奏するため場所のことでした。
楽屋は舞台の裏にあり、舞人が装束を着用たり、楽器を置いたりするための場所でもありました

能楽などでは舞台で演奏するようになったため、楽屋の主な用途が出演者の準備や休憩する場所に変化しため、控え室を指す呼称となりました。

「楽屋話」とは、楽屋裏だけで、舞台には出さない話の意から「楽屋内での話。転じて、内輪のはなし。内緒話」のことです。

最近のテレビのバラエティー番組では、時々「楽屋話」のような話題が出てきますね。「楽屋トーク」を売りにしている芸人もいます。

2.餓鬼/ガキ(がき)

餓鬼

ガキ」とは、子供を卑しめて言う語、子供の俗称です。

仏教語で、生前の悪業の報いで餓鬼道に堕ちた亡者を「餓鬼」と言います。

餓鬼

これは、「死者」を意味するサンスクリット語「Preta(音写は薜茘多(へいれいた)」の漢訳です。

」は「飢え」の意味から付け加えられたもので、「」は恐怖の対象となる鬼ではなく「死者」を意味し、本来は「鬼」のみで「Preta」の漢訳にあたります。

古代インドで、死者は子孫の供える食物などを期待している者とされており、この観念が仏教に取り入れられ、飢えと渇きに苦しむ亡者と考えられるようになりました。

子供を「ガキ」というのは、餓鬼のように食べ物をむさぼるところからです。

3.牙城(がじょう)

牙城

牙城」とは、城中で大将(主将)のいる所、城の本丸、敵の本陣、組織・勢力などの中枢、本拠のことです。

牙城の「」は、牙旗(がき)の意味です。
牙旗とは大将の旗のことで、爪と牙で身を守るのを模し、旗竿の頭を象牙で飾りつけるところからこのように言います
その牙旗が城の内郭で大将のいる所に立てられたことから、本丸・本陣・本拠地を「牙城」と言うようになりました。

そこから、大きな組織などの中枢のたとえにも、「牙城」が用いられるようになりました。

4.間髪を容れず/間髪を入れず(かんはつをいれず)

間髪を入れず

間髪を容れず」とは、即座に、とっさにということです。

出典中国の逸話集『説苑』「其の出づる出でざるは、間に髪を容れず」などからで、「間(かん)に髪(はつ)をいれず」とも言います。

間に髪の毛1本さえ入れる隙間もないということから、間髪を容れずは、事態が切迫して少しもゆとりがないことをいい、転じて、即座にする意味となりました。

本来は、「間、髪を容れず」と「かん」と「はつ」に間を置いて読みます。
それが間を置かずに読まれるようになったことで、「間髪」で一語と誤解され、「かんつ」という誤読が多く見られるようになりました。

5.杜若/燕子花(かきつばた)

カキツバタ

カキツバタ」とは、アヤメ科の多年草で、湿地に群生します。初夏、濃紫色の花をつけます。

カキツバタは、古くは「カキツハタ」と清音でした。

カキツバタの語源は、花汁を摺って衣に染めるための染料としていたところから、「カキツケハナ(掻付花)」「カキツケバナ(書付花)」の説が通説となっています。

ただし、音変化としては考え難いため、語源は未詳です。

漢字の「杜若」「燕子花」は漢名の借用ですが、中国で「杜若」はツユクサ科のヤブミョウガを指し、「燕子花」はキンポウゲ科ヒエンソウ属の植物を指します。

余談ですが、カキツバタについては有名な「折句」(おりく)があります。

「から衣きつつなれにし妻しあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」(伊勢物語・東下りの段)

らころも つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞおもふ

頭文字をとると、「かきつはた」(カキツバタ)という花の名前が折り込まれていることがわかりますね。

この和歌は、在原業平が三河国の八橋(愛知県知立市)のカキツバタ(杜若)の咲く沢で、「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて旅の心を詠め」と言われて作ったものだそうです。

「かきつばた」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・杜若 語るも旅の ひとつ哉(松尾芭蕉

・朝々の 葉の働きや 燕子花(向井去来)

・宵々の 雨に音なし 杜若(与謝蕪村

6.観光(かんこう)

観光

観光」とは、他の国や地方を訪ね、風景・史跡・風物などを見聞したり体験することです。

なお、一般的な意味では、「楽しみを目的とする旅行全般」のことです。

「観」ではなく「観」と書くのは、元々の意味が「国の威光を観察する」で「観に行く」ではないからです。

観光の語源は、中国『易経』の「国の光を観る、もって王に賓たるに利し」という一節に由来します。

日本では明治頃から「観光」の語が使われ始め、大正以降「tourism(ツーリズム)」の訳として用いられるようになりました。

7.癌(がん)

癌

」とは、悪性腫瘍で、細胞が無制限に増殖し、周囲の組織を侵したり、他の臓器に転移して生体を死に至らしめる病気です。また、組織の大きな障害となっているもののたとえにも用いられます。

がんは、江戸時代の医学書に「乳岩(にゅうがん)」が見られるため、「岩」の漢字音が語源と考えられます。がんを「岩」としたのは、触ると固いしこりがあるところからと思われます。

漢字の「癌」も、「岩」の異体字「嵒」に病垂れからなる文字です。

癌を英語で「cancer」といい、「かに座」も「cancer」です。
「cancer」は「カニ(蟹)」を表すギリシャ語「karkinos」に由来し、腫瘍とその周囲のリンパ節の腫れたさまが、カニの脚に似ることからの命名です。