日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.株(かぶ)
「株」とは、木を切り倒したり、稲を刈ったりしたあとに残った根元の部分、切り株、刈り株のことです。
株は、アブラナ科の「カブ(蕪)」と同源で、「かぶ(頭)」のことと思われます。
株が「頭」を意味するのは、木を切って残った部分ではなく、根の上の部分が頭を出しているといった認識によるものと考えられます。
最近は「根上がり」して歩道の通行の障害になる街路樹や、道路上に枝が張り出して見通しが悪くなって、自動車の安全な運転に支障を来たす街路樹が伐採される例をよく見かけます。
このような「街路樹の断捨離(伐採)」は是非とも必要です。
街路樹の根元周りは歩道のアスファルトがあり、根元から掘り起こして根こそぎ綺麗に伐採できないので、どうしても「切り株」が残ります。
2.黄鶏(かしわ)
「かしわ」とは、鶏肉の異名で、特定の部位を指す言葉ではありません。
かしわは、本来、羽色が茶褐色の鶏をいい、転じて、鶏肉も指すようになった言葉です。
かしわの漢字に「黄鶏」が当てられているのも、鶏の羽色に由来します。
茶褐色の鶏を「かしわ」と呼んだのは、柏餅に使う柏の葉の色に似ていることからです。
かしわの語源には、柏手を打つ姿と鶏の羽ばたく姿が似ているからとする説や、「膳・膳夫(かしわで)」という、宮中で食膳の調理をつかさどる人を指す名に関係するといった説があります。
しかし、これらの説は「かしわ」の語源ではなく、神を拝むときに手のひらを打つ「柏手」の語源と混同されたものです。
「鶏肉」の意味で「かしわ」が用いられるようになったのは、19世紀中頃のことです。
その当時は茶褐色の和鶏肉をさしていましたが、次第に「かしわ」は鶏肉の総称となっていきました。
現在「かしわ」は主に西日本で用いられる呼称ですが、茶褐色の鶏やその肉を指していた頃までは東日本でも用いられていました。
3.鰹(かつお)
「カツオ」とは、スズキ目サバ科カツオ属の魚で、体は紡錘形です。刺身やタタキで食用にするほか、鰹節・なまり節・煮物などにします。
カツオは、「カタシ(堅し)」の「カタ」に「ウヲ(魚)」で「カタウヲ」となり、転じて「カツヲ(カツオ)」になったと言われます。
加工されていないカツオは、鎌倉時代まで低級な魚として扱われ、主に干し固めて食用としていたことや、肉がしまっていること、『万葉集』などには「堅魚(カツヲ)」の表記があることから、「カタウヲ」の説が有力とされています。
また、カツオは釣り上げると木の棒で叩いたり、ぶつけたりして処置しておくことから、棒などで打ちたたく意味の「カツ(搗つ)」に「魚(うを)」で「カツウヲ」となり、転じて「カツヲ」になったとする説もあります。
魚の名前の多くは漁師から生まれたと考えられており、搗つことはこの魚の特徴的な処理法であるため、「搗つ魚」の説も十分に考えられます。
「鰹」「初鰹」は夏の季語で、「秋鰹」「戻り鰹」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・鰹売 いかなる人を 酔はすらん(松尾芭蕉)
・目には青葉 山ほととぎす 初鰹(山口素堂)
・はねるほど 哀れなりけり 秋鰹(椎本才麿)
4.ガリ
「ガリ」とは、生姜(しょうが)を薄切りにして熱湯に通し、甘酢に漬けたもので、鮨(すし)などでしに添えます。「平ガリ」とも言います。
ガリは、噛んだ時の「ガリガリ」という音が語源です。
古く、大きな生姜をガリガリと噛んで食したことから、生姜そのものを「ガリ」と呼んでおり、のちに、甘酢に漬けた生姜の呼称になったとも言われます。
ガリは魚の臭みを消すため口直しになるほか、殺菌作用があるため食中毒を防いだり、辛味成分の「ジンゲロール」によって、食欲増進や生魚で冷えた体を温める効果があります。
5.柿(かき)
「柿」とは、カキノキ科の落葉高木で山地に自生し、また古くから栽培されます。甘柿と渋柿があります。
柿は実がかたいことから、「カタキ」の意味。つやつやして輝いていることから「カカヤキ」など多くの説があります。
しかし、これらの特徴よりも、秋の山野になった実の赤い色の方が印象は強く、「アカキ」の上略が語源と考えられています。
「アカキ」の「キ」については、「赤木」の「木」、「赤き実」の「き」、「赤黄」の「黄」など考えられますが断定はできません。
柿は中国の長江流域に自生していたものが、栽培で東アジアに広がったもので、現在では日本の秋を代表する果樹となっています。
『日葡辞書』で「リンゴに似た日本の無花果(いちじく)」と分かりづらい紹介をしているように、柿はヨーロッパには無い果樹でした。
南蛮貿易によってヨーロッパへ伝えられたことから、学名でも「Diospyros Kaki(Diospyrosは神様の食物)」と「カキ」の名が使われ、食材としても「KAKI」と呼ぶ国が多いようです。
「柿」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・里古りて 柿の木持たぬ 家もなし(松尾芭蕉)
・柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺(正岡子規)
・渋かろか 知らねど柿の 初ちぎり(加賀千代女)
・渋いとこ 母が喰ひけり 山の柿(小林一茶)