日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.書き入れ時(かきいれどき)
「書き入れ時」とは、商売が繁盛して、最も利益の上がる時のことです。
書き入れ時は、帳簿に書き入れることに由来します。
商売で売れ行きが良い時には、帳簿に取引の数字を書き入れることが多くなります。
そのことから、商売が繁盛するときを「書き入れ時」というようになりました。
語源からも分かるとおり、かきいれどきの漢字は「書き入れ時」ですが、「掻き入れ時」の誤字も多いようです。
これは、お客や儲け(お金)を掻き集める意味から。また、福を掻き集める縁起物の「熊手」のイメージからと思われます。
2.髪(かみ)
「髪」とは、頭に生える毛、髪の毛のことです。
髪の語源は、「上の毛」の下を略して「かみ」なったと考えられます。
その他、「身(み)」に生えた「毛(け)」に、上部を表す原語「頭(か)」が付いた「頭身毛(かみけ)」の略など様々な説がありますが、いずれの説も「か」もしくは「かみ」が「上部」を表す語に由来するとしています。
「脇毛」や「胸毛」のように場所によって毛を区別する場合、髪は「頭の毛」か「髪の毛」と表現がされます。
「頭」と同じように、「髪」が身体の部分とされることも、「上部」との関係が考えられます。
「髪の毛」の表現には、他と区別するために軸となっている語が、「髪」と「毛」の二通りあります。
ひとつは、「腕」や「脇」などの他の毛と区別するために、「髪」で明確にした「髪の毛」。
もうひとつは、「かみ」の音には「上」「神」「紙」などもあり、それらの「かみ」と区別するために、「毛」で明確にした「髪の毛」です。
3.楓/カエデ(かえで)
「カエデ」とは、ムクロジ科カエデ属の落葉高木の総称です。
カエデは、葉の形がカエルの手に似ていることから、古くは「カヘルテ(蛙手)」と呼ばれていました。それが、「カヘンデ」や「カヘデ」となり、「カエデ」になりました。
『万葉集』には、カエルの意味で「蝦」の文字を使い「蝦手(カヘルテ)」と表記された例が見られます。
元々、漢字の「楓」は中国原産のマンサク科の落葉高木「フウ」を表す字で、「カエデ」とは別品種です。
日本では平安中期頃から「楓」を「カヘデ」と読むようになりましたが、『万葉集』では「カツラ」と読ませており、別の植物を指していました。
カエデは秋に美しく紅葉し、紅葉を代表とする植物とされているため、「もみじ」を「カエデ」と呼んだり、「カエデ」を「もみじ」と呼ぶこともあります。
なおカエデとモミジの違いについては、「紅葉(もみじ)と楓(かえで)の違いは何か?見分け方は?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「楓」は秋の季語で、「楓の花」は春の季語です。
・楓林に 落せし鬼の 歯なるべし(高浜虚子)
・楓橋は 知らず眠さは 詩の心(各務支考)
・実に紅の 見え出るまでを 花楓(原石鼎)
「楓の花」については、「もみじに花と実が出来るのご存知ですか?太田道灌の山吹伝説もご紹介します」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
4.雁(かり)
「カリ」とは、ガンの異名です。
カリの語源は、「カリカリ」と鳴く鳴き声からとする説が有力ですが、
その他、秋に来て春には北へ帰ることから、「帰り(かへり)」の中略とする説、
「カ」を水に棲む鳥を呼ぶ語とする説、「ガン」が転じたとする説などがあります。
「帰り(かへり)」の説は、上略や下略ではなく中略で、鳴き声の説に比べると説得力に欠けます。「カ」を水に棲む鳥とする説は、カリの「リ」について触れられていません。
「ガン」の転呼とする説は、上代に「雁」を「ガン」と読んだ例はなく、古くは「カリ」が一般的であったことが考慮されていません。
このようなことから、カリの語源は鳴き声と考えるのが妥当です。
「雁」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・病雁の 夜寒に落ちて 旅寝かな(松尾芭蕉)
・初雁に 羽織の紐を 忘れけり(与謝蕪村)
・胸の上に 雁行きし空 残りけり(石田波郷)
5.鵞鳥/ガチョウ(がちょう)
「ガチョウ」とは、野生のガンから作られた家禽です。ヨーロッパ産のガチョウはハイイロガンを原種とし、中国・シベリア産のガチョウはサカツラガンが原種です。くちばしの上にこぶがあります。
ガチョウは、現代では「鵞鳥」と表記されますが、古くは「鵝」の文字が用いられ、単に「ガ」と呼ばれていました。
「鵝」は「ガガ」と鳴く声を写した「我」と「鳥」との会意で、ガチョウの「ガ」は鳴き声が語源となります。
その「ガ」に、鳥類であることを表すため「鳥(チョウ)」が加えられ、「ガチョウ」となりました。
「ガチョウ」の呼び名が一般化したのは、江戸時代以降です。