日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.恐竜(きょうりゅう)
恐竜と言えば、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画「ジュラシック・パーク」を思い浮かべる方も多いと思います。
「恐竜」とは、中生代の三畳紀後期から白亜紀末までの地球上に栄えた絶滅爬虫類の総称です。
恐竜は、英語で「恐竜類」を意味する「dinosauria」の訳語です。
「dinosauria」は、イギリスのリチャード・オーウェンによって作られた言葉で、ギリシャ語の「deinos(恐ろしいほどに大きい)」と、「sauros(トカゲ)」の合成語「deinos sauros」に由来します。
これを古生物学者の横山又次郎が『化石学教科書』(1895年)の中で、「deinos」を「恐ろしい」、大型爬虫類からの連想で「sauros」を「龍」と訳し、「恐龍」という訳語になりました。
これ以外に、トカゲの漢字「蜥蜴」から「恐蜥」や「恐蜴」などの訳もありましたが、「恐龍」で定着し、のちに「恐竜」の表記となりました。
英語で「恐竜」は「dinosaur」、「恐竜類」が「dinosauria」で、共に「deinos sauros」に由来する言葉のため混同されることもありますが、厳密には、恐竜の語源は「dinosaur」の訳語ではありません。
『附音挿図和訳英字彙』(1888年)では、「dinosaur」が「巨大ノ死虫」と訳されており、「恐龍(恐竜)」の語が見られるのは「dinosauria」の訳からです。
余談ですが、「恐竜のまち」として地元PRをしているのが福井県勝山市です。勝山市には、「世界三大恐竜博物館」の一つとされる県立恐竜博物館があり、大人も子どもも楽しめます。 化石発掘体験や自然にふれあう様々な体験が人気の恐竜の森。街中でも、恐竜に出会えるまちです。
2.金科玉条(きんかぎょくじょう)
「金科玉条」とは、守るべき大切な法律や規則、自分の絶対的なよりどころになる思想や信条のことです。また融通が利かないたとえにも用います。
出典は中国の詩文集『文選』にある揚雄の詩「劇秦美新」で、建国した王莽を絶賛した「懿律嘉量 金科玉條 神卦靈兆 古文畢發 煥炳照曜 靡不宣臻」に由来します。
金科玉条の金は「黄金」、玉は「宝玉」のことで、いずれも貴重なものや大切なもののたとえです。科と条は、法律や規則の条文のことです。
これらが合わさった金科玉条は、美しい金玉のように貴重な法律や規則を意味します。
そこから転じて、人が絶対的なよりどころとして守るべき大切な法律や規則、自分の主張や立場を守るために、絶対的なよりどころとなるものを意味するようになりました。
また、「金科玉条のごとく守る」などと、融通の利かないたとえに用いられることもあります。
3.金魚(きんぎょ)
「金魚」とは、コイ科の魚でフナの突然変異種の交配によって生まれた観賞用の淡水魚です。
『大草殿より相伝聞書』に「金魚とは口の黄なる鯉の事にて候」とあり、これを基に「黄の魚」が「黄ん魚」となり「金魚」に転じたとする説もありますが、光り輝く鱗を「金」と表現したと考えるのが自然です。
金魚は文亀2年(1502年)に中国から現在の大阪府堺市に渡来したもので、原産地の中国では1世紀頃から「金魚(チンユウイ)」と呼ばれています。
また、金魚の学名「Carassius auratus」は「黄金色の魚」の意味で、英語でも「goldfish(ゴールドフィッシュ)」、韓国語でも「金魚(キムポン)」といいます。
「金魚」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・いつ死ぬる 金魚と知らず 美しき(高浜虚子)
・一ぴきに 減ってしまひし 金魚かな(青木月斗)
・金魚大鱗 夕焼の空の 如きあり(松本たかし)
4.金字塔(きんじとう)
「金字塔」とは、ピラミッドのことです。歴史に残る偉大な業績の代名詞として「金字塔を打ち立てる」と使われます。
ピラミッドを「金字塔」というのは、漢字の「金」の字の形をした塔の意味からです。
後世に永く残る偉大な業績の代名詞として「金字塔」が用いられるようになったのは、ピラミッドがその時代の記念碑となる偉大な業績というところからです。
現代中国語ではピラミッドの意味で「金字塔」が使われていますが、古典漢語には存在しないことから、和製漢語と考えられています。
ピラミッドの意味の「金字塔」と、業績の意味の「金字塔」は、ほぼ同じ時期に使われ始めたようで、どちらも大正時代から例が見られます。
ピラミッドは建造物なので「金字塔を打ち立てる」ではなく「金字塔を打ち建てる」が正しいようにも思えますが、「うちたてる」には「打ち建てる」の表記がなく、実際に指しているのは建造物ではなく業績で、「新記録を打ち立てる」のように確立する意味で使っているため「打ち立てる」で問題ありません。
5.金鍔(きんつば)
「きんつば」とは、きんつば焼きの略で、小麦粉の薄い皮で餡を包み、鉄板の上で焼いた和菓子です。
現代のきんつばは四角形のものが多いですが、昔は日本刀の鍔のように丸く平らな形をしていたことから、この名前があります。
鍔の形の菓子を作るのは、唐菓子にヒントを得たものと考えられています。
きんつばの「きん(金)」は何かと言うと、「ぎんつば(銀鍔)」に対しての「金」です。
1600年代末に、うるち米の粉を皮にして、赤小豆の餡を包んで焼いたものが京都に登場し、その色と形から「ぎんつば(銀鍔)」と呼ばれていました。
これが江戸に伝わった際、「銀よりも金だ」ということで「きんつば」となり、その時に皮も小麦粉に変わりました。
四角形のきんつばが登場したのは、文化年間(1804年~1817年)の末頃、浅草馬道の「おかめのきんつば」という店から売り出された「みめより」という名のきんつばで、外見よりも中身の良さで人気を博しました。
この頃、日本橋の魚河岸付近の屋台できんつばを売っていたのが、老舗和菓子店「榮太樓總本鋪」の元祖といわれます。