日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.切手(きって)
「切手」とは、郵便料金納付の証として、郵便物に貼る証票のことです。郵便切手。
切手は「切符手形」を略した語で、元は「切符」や「手形」と同じく、金銭の支払い証明や身分証明等の紙片を指す語として用いられました。
室町時代以前は、主に現金や現物の代用となる為替や、年貢などの預かり証を意味しました。
江戸時代には、「通行手形」「劇場の入場券」の意味として用いられ、吉原の大門から出る遊女の通行証も意味しました。
その他、切手は「借用証文」「金銭前払い証券」「営業許可証」などの意味でも用いられ、明治初期には鉄道の「乗車券」をいうこともありました。
世界最初の郵便切手は、イギリスのローランド・ヒルが発明し、1840年に発行されたものです。
日本はイギリスの郵便制度にならい、1871年に郵便料金の前払い証明「郵便切手」を発行し、以降、単に「切手」という場合は「郵便切手」を指すようになりました。
余談ですが、「切手」のような略語については「切手・電車・割り勘・ビー玉・演歌など意外と知らない略語(略称)の正式名称」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
2.喜寿(きじゅ)
「喜寿」とは、数え年で77歳。また、その祝いのことです。
喜寿は「喜の字の祝い」「喜の字の齢(よわい)」とも言うように、「喜」の字に由来します。
「喜」の字を草書体で書くと、「十七」の上に「七」が付いたような文字(上の画像)で、「七十七」に見えることから、77歳を「喜寿」と呼ぶようになりました。
喜寿の祝い方は、基本的に還暦と同じですが、祝いの色は古希・傘寿・卒寿と同じく紫です。
3.急須(きゅうす)
「急須」とは、葉茶を入れ湯を注いで煎じ出す、取っ手のついた小さな器のことです。
急須の「急」は、差し迫った意味の「急」。
「須」は「須いる(もちいる)」で、急須は「急な用に応じて用いるもの」が原義です。
古く中国では、酒の燗に用いた注ぎ口のある小鍋を「急須」といいましたが、煎茶器として用いられるようになりました。
急須を方言で「きびしょ」と言う地域もあります。ちなみに私の故郷である大阪府高槻市でも、私の親世代は「きびしょ」と言っていました。
「きびしょ」は江戸時代から見られる語で、「急須」もしくは「急焼」の唐音が転じた語です。
地方によっては、燗酒用の土瓶や醤油さしを指す語としても用いられます。
4.牛耳る(ぎゅうじる)
「牛耳る」とは、組織や団体などを自分の意のままに支配することです。
牛耳るは、中国の春秋戦国時代、諸侯が同盟を結ぶ際、盟主が牛の耳を裂き、皆がその血を吸って組織への忠誠を誓い合ったという『左氏伝(哀公十七年)』の故事に由来します。
この故事から、同盟の盟主となることを「牛耳を執る(ぎゅうじをとる)」と言うようになり、転じて、組織などを思いのままに動かす立場になることを言うようになりました。
牛耳るは、この「牛耳を執る」の「牛耳」を動詞化させたものです。
5.胡瓜(きゅうり)
「きゅうり」とは、インド原産のウリ科蔓性一年草です。黄色の五弁花をつけ、果実は細長く緑色で棘状のイボがあり、熟すと黄色になります。
きゅうりは、「きうり」の発音が長音化したものです。
現在では緑色の果実を食用としていますが、古くは熟して黄色になった果実を食べたことから、黄色の瓜で「黄瓜(きうり)」といいました。
長音化された「きゅうり」の発音は、明治以降といわれます。
きゅうりの漢字「胡瓜」は、「胡麻」「胡椒」「胡桃」などと同じく、中国の周辺外地を意味する「胡」で、「胡の瓜」という意味から「胡瓜」となりました。
きゅうりをインドから中国にもたらしたのは、漢の張騫(ちょうけん)といわれます。
きゅうりの漢字には「木瓜」もありますが、きゅうりは樹木に生るものではないことから、「きうり」に対する単なる当て字と見て良いようです。
「黄」が「木」に由来する説から、「木瓜」は「黄瓜」と同じ意味との見方もありますが、「黄」の語源が「木」というのは一説に過ぎないため、断定することはできません。
「胡瓜」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・朝採りの 胡瓜の先や 花の殻(長谷川櫂)
・爼(まないた)の 傷の歳月 胡瓜もむ(藤井寿江子)
・湖の 雨の涼しき 胡瓜もみ(富安風生)
6.銀行(ぎんこう)
「銀行」とは、預金を受け入れ、資金の貸付、手形割引、為替取引などを主な業務とする金融機関のことです。
銀行は、英語「bank(バンク)」の訳語です。
幕末から明治初期には「両替屋」「両替問屋」「為替会社」とも訳されましたが、「バンク」という語をそのまま用いることが多かったようです。
明治5年(1872年)には訳語の「銀行」が見え始めますが、官庁などの専門的な訳語として用いられるに過ぎず、一般にも定着したのは明治10年代になってからです。
日本で「銀行」が使われる20年ほど前から、中国では「bank」の訳語として用いられているため、その拝借と考えられますが、訳語を「金行」とする案もあったことから、単に拝借したわけではないと考えられます。
「金行」ではなく「銀」を用いて「銀行」とした理由は、当時の貨幣制度が銀本位であったことや、「きんこう」よりも「ぎんこう」の方が発音しやすかったためといわれます。
銀行の「行」は、中国で「同業商人組合」を意味します。
余談ですが、団塊世代の私が社会人になった頃は日本の都市銀行は13行もありました。しかし倒産や合併・再編によって今ではメガバンクと呼ばれる三菱UFJ銀行(三菱UFJフィナンシャルグループ)・三井住友銀行(SMBCグループ)・みずほ銀行(みずほフィナンシャルグループ)の3行と、りそな銀行・埼玉りそな銀行(りそなグループ)に集約されました。
7.貴様(きさま)
「貴様」とは、男性が親しくしている対等の者や目下の者に対して用いる語。おまえ。相手を罵る時にも用いられます。
貴様は、中世末から近世初期頃に武家の書簡で用いられた語で、文字通り「あなた様」の意味で、敬意をもって使われていました。
近世後期頃から口頭語として使用され始め、一般庶民も「貴様」を用いるようになったため尊敬の意味が薄れ、同等以下の者に対して用いられるようになりました。
その後、相手を罵って言う場合にも用いられるようになり、近世末には上流階級で用いられなくなりました。
現代では主に男性が用いますが、近世前期までは女性も「貴様」を用いていました。