日本語の面白い語源・由来(く-⑤)車海老・口コミ・口説く・薬・果物・踝・黒

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車海老

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.車海老/クルマエビ(くるまえび)

車海老

車海老」とは、体長約25cmのククルマエビ科のエビです。体色は薄い青褐色で、縞模様があります。

車海老の名は江戸初期から見られ、語源体を丸く曲げると、縞模様が車輪のように見えることに由来します。
車海老が遊泳するときの脚の動きが、坂道を転ぶ大八車の車輪のように見えるからとする説もありますが、関係ないと思われます。

体長が15センチ~20センチ以上の車海老は「大車(おおぐるま)」、10~15センチのものは「マキ」、それ以下は「サイマキ」、と大きさによって言い分けられることもあります。

「大車」は大きな車海老の意味ですが、「マキ」や「サイマキ」は、腰刀として用いられる葛藤のつるを巻いた鍔のない短刀「鞘巻(さやまき)」に由来します。

車海老は鞘巻にも似ていることから、別称として「サヤマキ」と呼ばれていました。
そこから、「サエマキ」「サイマキ」と音変化し、小さな車海老を指すようになりました。

「車海老」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・朝顔や 潮がしら跳ぶ 車海老(水原秋桜子)

2.口コミ(くちこみ)

大宅壮一

口コミ」とは、人の口から口へ個人的に伝えられる評判・噂のことです。

口コミの「コミ」は「コミュニケーション」の略で、1962年頃からジャーナリストの大宅壮一が使い始めた造語です。

大宅壮一は「テレビは一億総白痴化を招く」と評したことでも有名ですが、川端康成とともに私の母校茨木高校の大先輩(旧制茨木中学)です。余談ですが私が高校1年の時、創立70周年記念式典で、お二人の講演を聞きました。

「マスコミ(マス・コミュニケーション)」と対比する形で使われることが多いため、「マスコミ」をもじって「口コミ」になったとも言われます。

しかし、「マスコミ」をもじったのは確かだと思われますが、「マスコミ」と対比する言葉ではなかったようです。

大宅壮一は、講演会や座談会のほか、ラジオやテレビを通じて口で語って伝えることを「口コミ」とし、活字による著述を「手コミ」といって「口コミ」の対比的な言葉として使っていました。

現代ではインターネットが普及し、個人が情報を発するようになったため、口頭による伝達でなく、ブログやSNSなどに書かれる意見や噂も、「口コミ」と言うようになりました。

これらは文字で表現されているのに、「手コミ」ではなく「口コミ」と言う理由は、対象が意見や噂であることや、個人的な口伝えの感覚でされていること。また、「口コミ」ほど「手コミ」という言葉が一般に広まっていなかったことからと考えられます。

3.口説く(くどく)

口説く

口説く」とは、異性に対して自分の思いを受け入れてもらえるよう説得する。言い寄る。こちらの意向を相手に組み入れてもらおうと、しきりに説得したり懇願したりすることです。

口説くは「口で説く」が語源と思われがちですが、漢字は当て字です。

くどくの「くど」は、擬態語の「くどくど」や形容詞「くどい」などの「くど」が動詞化され、「くどく」になったと考えられています。

「くどく」は平安末期頃から見られる語ですが、この頃は、くどくどとしつこく言う意味や、祈願する意味で用いられました。

「女性を口説く」というように、異性に対する求愛の意味で「口説く」が用いられるようになったのは、室町時代頃からです。

4.薬(くすり)

漢方薬

」とは、病気やを治療したり、健康の保持や増進のために、飲んだり塗ったり注射したりするものです。医薬品。

古く、薬は「霊妙なもの」「特別な能力を与えるもの」「不思議なもの」といった意味で、生命の維持に特別な力を持つものとされていました。

そのため、「霊妙だ」「神秘的だ」という意味の形容詞「奇し(くすし)」と同源と考えられている。
また、草根木皮の漢方薬が中心であったことから、「(くさ)」を「くすり」の語源とする説もあり、「草」の語根に「奇し」の意味が加わったともいわれます。

薬の起源は、太古、帝王であった神農(しんのう)が、百草をなめて医薬の法を教えたものとされますが、中国の古伝説中の帝王であるため定かではありません。

5.果物(くだもの)

果物

果物」とは、草木につき食用になる果実で、多汁でふつう甘味があります。狭義にはに生る果実をいい、広義には草本性植物の果実も含めます。水菓子。フルーツ。かぶつ。

果物は「木の物」の意味で、元は木の実を指しました

「くだもの」の「」は、「木」の古形
」は「けだもの(獣)」の「だ」と同じ「の」を示す助詞で、「水無月」や「神無月」の「な(無)」に通じる語です。

「くだもの」は「菓子」と書かれましたが、江戸時代に入り「菓子」が現在の意味になったため、果物は「水菓子」とも呼ばれるようになりました。

その「水菓子」が水分を多く含んだ菓子の一種と誤解されるようになったことから、「水菓子」とも呼ばれなくなり、現在では主に「果物」か「フルーツ」と呼ばれます。

いちごやスイカ・トマトといった草になる果実は、「果物」と「野菜」の境界線上にあり、果物か野菜かといった議論がよく行われますが、語源的には果物に含まれません。

しかし、世間一般にいちごやスイカは「果物」、トマトは「野菜」という認識が強く、その他、調理法や食べ方によっても異なり、生産地(国)によって草木の分類も異なることから、「果物」と「野菜」を正確に区別することは非常に困難です。

古く、これら草になる果実は「草果物(くさくだもの)」と称されており、いちごやウリのほか、ナスなども含まれていました。

また、古くは酒の肴や菓子類を「果物」と言い、のちに果実に限定されるようになったという文献が多く見られます。

しかし、これらは奈良・平安時代に唐から伝わった「唐菓子(とうがし)」や「唐果物(からくだもの)」と呼ばれるもののことです。

その名は、果物の形にして油で揚げたことに由来するため、間違った前後関係となっています。

なお、果物と野菜については、「野菜と果物の違いは?分かりやすくご紹介します」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

6.踝(くるぶし)

踝

くるぶし」とは、足首の関節の内外両側に突き出した骨のことです。内側は脛骨の末端、外側は腓骨の末端。

古くは、「くるぶし」を「つぶふし」と言いました。
つぶ」は「粒」の意味、「ぶし」は「節」の意味で、「つぶなぎ(「なぎ」は不明)」という語も見られます。

「くるぶし」の語は室町時代から見られ、近世後期の江戸では庶民の口頭語として「くろぶし」「くろぼし」とも言われました。

その丸みが「粒」とは言い難いため、「つぶぶし」の「つぶ」が「くる」に変わったと考えられる。
くる」は物が軽やかに回るさまの「くるくる」や、「くるま()」などの「くる」と同じと思われます。
近年、くるぶしが露出するスニーカーなどとの組み合わせに用いられる靴下は「くるぶしソックス」と呼ばれ、単に「くるぶし」と呼ばれたりもしています。

くるぶしソックス

7.黒(くろ)

炭

」とは、色の一種で、墨・木炭のような色、光線を一様に吸収し暗く感じられる色です。黒色。黒い色。

ちなみに、黒の碁石は、那智黒石(なちぐろいし)(三重県熊野市で産する黒色頁岩または粘板岩)が名品とされます。

碁石・黒

黒の語源は定かではありませんが、「暗い(くらい)」「暮れる(くれる)」などの意味と繋がりのある語です。

平安時代の辞書『和名抄』には、水底によどむ黒い土の「涅(くり)」を「和名久理 水中黒土也」とあります。

赤色を表す「丹(に)」が「赤土」をさしたのと同じで、色彩名と土の名称は関係が深いものです。

上代に「黒色」を表した「烏(ぬば)」も「沼(ぬま)」と同源で、「泥」の意味がありました。

余談ですが、「有機ELテレビ」と「液晶テレビ」との違いは「黒の表現力」だそうです。