日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.欅(けやき)
欅と言えば、最近は女性アイドルグループ「欅坂46」をまず思い浮かべる方が多いと思いまが、街路樹にもよく植えられていますね。
「ケヤキ」とは、山地に生えるニレ科の落葉高木です。防風林や庭木、並木・盆栽にもします。槻(つき)。槻ノ木(つきのき)。
ケヤキは材が堅く、木目が美しい貴重な木です。
そのため、「けや」は「際立って目立つ」「美しい」といった意味の「けやけし」に由来し、「けやけき木」の略と考えられています。
上代にケヤキは「つき(槻)」と呼ばれていましたが、これは「つよき(強木)」の略といわれます。
ケヤキの漢字「欅」は、中国ではクルミ科の落葉高木を指し、日本のケヤキとは全く異なる植物です。
余談ですが、私の故郷「高槻市」は、「槻ノ木」に由来する名前で、ケヤキは「市の木」になっています。高槻市には「けやき通り」があり、「槻ノ木高校」という府立高校もあります。
「高槻」の地名の由来は、2つの説があります。
- 『古事記』や『日本書紀』にある神武東征の時に、大和で長髄彦一族に苦しめられました。そこで道臣命と可美真手命を東征軍の長に任じ、征伐に成功したことから天皇は三島の土地を与えました。その軍隊の旗印が月をかたどっていたので、褒美に貰った土地を「高月」と呼ぶようになったという説。
- 安満庄にあった天月弓杜(あめのつきゆみのやしろ)が高月読杜(たかのつきよみのやしろ)とも呼ばれ、そこからその一帯は「高月」と呼ばれたという説。
「高月」が「高槻」に転じた理由は、槻(欅の古称)の大木があり、戦国時代に槻の近くに本陣が立てられたことから、月を槻に変えたとされます。
なお、アララギ派歌人島木赤彦(1876年~1926年)の「高槻のこずえにありて頬白のさへづる春となりにけるかも」という短歌がありますが、私は最初、高槻市のことを歌ったのかと勘違いしました。しかし、これは「ケヤキの梢」のことで、「山国の冬もようやく過ぎ去り、高い槻の木のてっぺんに頬白が朗らかにさえずる春になったことだ」という意味です。
2.外連味/ケレン味(けれんみ)
「ケレン味」とは、はったりを利かせたり、ごまかしたりすることです。
ケレン味の「ケレン」は、江戸末期、歌舞伎で宙乗りや早替りなど、大掛かりで奇抜な演出をいった演劇用語から一般に広まった言葉。
それ以前は、他流の節で語ることをいった義太夫節の用語で、「正統でない」「邪道だ」の意味を含む言葉であったことまでは分かっていますが、語源は未詳です。
「ケレン味」が用いられるようになったのは近代以後のことで、多くの場合「ケレン味のない文章」というように「ない」を伴なって用います。
「ケレン味」の「ケレン」の漢字「外連」は、当て字です。
3.けんもほろろ
「けんもほろろ」とは、人の頼みや相談などを無愛想に断るさま、取り付く島もないさまのことです。
けんもほろろの「けん」は、「けんどん(慳貪)」の「けん」や、「けんつく(剣突)」の「けん」にキジの鳴き声の「けん」を掛けたものと言われます。
しかし、つっけんどんなさまを「けんけんと」と言っていたことから、「けんけんと」とキジの鳴き声「けんけん(ケーンケーン)」を掛けたと考える方が妥当です。
けんもほろろの「ほろろ」は、キジが羽ばたくときの羽音と考えられており、これを語呂よく「けん」に付けて「けんもほろろ」となりました。
「ほろろ」をキジの鳴き声とする説もあるが、「けんけん」と無愛想に鳴きながら「ほろほろ」と羽音を立てて飛び去るさまと考えた方が、言葉の意味に近いと思われます。
また、キジの鳴き声を「ほろろ(ほろほろ)」と表現するのは、羽音を「ほろほろ」と表現したことから転じたもので、元々擬声語ではありません。
4.怪我(けが)
「けが」とは、不注意などのため、体に傷を負うこと(また、その傷のこと)です。負傷。
けがの語源は、「けがる・けがれる(穢る・穢れる)」の語幹からと考えられます。
「怪我の功名」や「慣れないことに手を出して怪我をする」など、けがは「思わぬ過ち」や「過失」、「思いがけない災難」などの意味で用いられます。
これらの表現は「負傷」の意味からたとえたものではなく、本来、けがが「過ち」などの意味に用いた言葉で、そこから不注意のため体に傷つけることや、その傷の意味で使われるようになったものです。
漢字で「怪我」と書くのは当て字です。
5.下足/ゲソ(げそ)
「ゲソ」とは、イカの足のことです。
ゲソは漢字で「下足」と表記するように、「げそく」の略です。
「げそく」と同様に、「げそ」は靴・下駄・草履など履物を指し、寄席や飲食店では客の脱いだ履物を指しましたが、転じて「足」の意味になりました。
「ゲソ」はイカの足のみを言い、タコの足を「ゲソ」と呼ばない理由は、料理する際、タコの足は細かくして提供されますが、イカの足は揃った状態でも料理されるため、足がハッキリ分かるイカの足のみ「ゲソ」と呼ぶようになったと考えられます。
演芸場や寄席の下足番が、下足札の紐を10本まとめていたため、足が10本あるイカの足のことを指すようになりました。
そのため、タコの足を「ゲソ」とは言わないという説もあります。
ただし、「イカの足」を「ゲソ」と呼ぶのはすし屋の隠語からなので、この説は定かではありません。
「足」の意味で「げそ」が使われた言葉には、「逃亡する」の意味の「げそを切る」、「足がつく」の意味の「げそがつく」など、盗人や香具師の隠語から広まった言葉が多くあります。
6.剣が峰/剣ヶ峰(けんがみね)
「剣が峰」とは、ぎりぎりの状態、絶体絶命、成否の決まる瀬戸際。相撲で、土俵の俵の一番高いところ。また、そこに足がかかって後がない状態を意味します。
剣が峰(剣ヶ峰)は、本来、火山の噴火口の周縁のことです。特に、富士山の山頂についていいます。
剣が峰に立つと今にも落ちそうで、そこを踏み堪えられるか否かによって生死が決まることから、余裕がなくぎりぎりの状態、成否の決まる瀬戸際を「剣が峰に立たされる」というようになりました。
相撲の土俵縁を「剣が峰」と呼ぶのも、そこを境に体が残るか否かで勝敗が決まるためです。