日本語の面白い語源・由来(こ-③)五輪・五右衛門風呂・荒唐無稽・小賢しい・胡麻の蠅・黒一点

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東京五輪2020

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.五輪(ごりん)

東京オリンピック1964

<1964年の「東京オリンピック開会式」での日本選手団の入場行進>

五輪」とは、オリンピックの訳語、また、オリンピックシンボルを表す語です。

「五輪」という呼称は、新聞の見出しには「オリンピック」の文字が長すぎるため、スペースを節約する目的で作られた名でした。

初めて「五輪」が使われたのは、1936年8月6日付の読売新聞の見出し「五輪の聖火に首都再建」からです。

読売新聞の記者だった川本信正氏が、1940年オリンピックの東京招致を記事にする際、紙面の編集を担当する整理部から「オリンピックは6文字で長いから、なんとか略せないか」と相談を受けました。

川本氏は「国際運動」や「国際運競」なども考えましたが、シンボルマークの五つの輪から「五輪大会」を思いついたということです。

ちょうどその頃、菊池寛が『文芸春秋』に書いた宮本武蔵の『五輪書』のことを読んでいたことや、「五輪」とオリンピックの「オリン」で語呂が合うこともあり、「五輪」や「五輪大会」の名称で決まりました。

ちなみに、1940年の東京オリンピックは、史上初めて欧米以外のアジアで行われる五輪大会でしたが、日中戦争の影響で日本政府が開催権を返上したため、開催には至りませんでした。

2.五右衛門風呂(ごえもんぶろ)

五右衛門風呂

五右衛門風呂」とは、かまどの上に鉄釜を据え、下から火を炊いて沸かす風呂です。底板を浮かせて浮蓋とし、入浴時は底板を踏み沈めて入ります。湯船全体が鉄製の大釜のものもあります。

私が子供の頃に住んでいた明治20年代に建てられた京町家でも「五右衛門風呂」でした。

五右衛門風呂は、文禄3年(1594年)、京都三条河原で天下の大泥棒 石川五右衛門が釜ゆでの刑に処せられたという言い伝えにちなむ名です。

石川五右衛門

五右衛門風呂は「上方(かみがた)」(京都・大阪を中心とした近畿地方)で多く用いられたようで、『東海道中膝栗毛』に「水風呂桶は、上方にはやる五右衛門風呂といふ風呂なり」とあります。

3.荒唐無稽(こうとうむけい)

荒唐無稽

荒唐無稽」とは、言動に根拠がなく、でたらめなこと、また、そのさまのことです。

荒唐無稽は、中国古典の「荒唐之言」と「無稽之言」に由来し、「荒唐之言」は『荘子』、「無稽之言」は『書経』に見られます。

ただし、「荒唐」と「無稽」が一緒に使われた例は見られないことから、「荒唐無稽」は日本で作られた四字熟語と思われます。

四字熟語の形では、古いものでは坪内逍遙の『小説神髄』(1885〜1886年)に、「羅マンスは趣向を荒唐無稽の事物にとりて奇怪百出もて編をなし」とあります。

荒唐無稽の「荒」は何もなく虚しい意味、「唐」は「口+庚(ぴんと張る)」で、口を張って大言することを表すことから、「荒唐」は中身がなく、でたらめなことを意味します。

「稽」は考えるの意味で、それが「無」であることから、「無稽」は根拠がなく、でたらめであることを意味します。

4.小賢しい(こざかしい)

小賢しい

小賢しい」とは、利口ぶっていて生意気である、差し出がましい、ずる賢くて抜け目がないことです。

小賢しいは、「才知・分別があってしっかりしている」「かしこい」という意味の「賢しい(さかしい)」に、接頭語「小(こ)」が付いた語です。

「ちょっぴり」を意味する「小」を付けることで、智が足らないことを表し、けなす意味を含んでいます。

賢しいの文語「さかし」は『万葉集』にも見られ、小賢しいの文語「こざかし」は1113年頃成立の『俊頼髄脳』に見えるのが古いものです。

利口ぶって生意気であることの使用が古く、悪賢い意味では1477年の『史記抄』からです。

5.胡麻の蠅(ごまのはえ)

胡麻の蠅

胡麻の蠅」とは、江戸時代、旅人の姿をして、旅客の金品を盗み取った泥棒のことです。

胡麻の蠅は、「護摩の灰(ごまのはい)」が「ごまのはえ」と聞き間違えられたことから生じた言葉です。

胡麻にたかるハエがそれとなく近づき、しつこくつきまとうイメージとも合わさり伝承されました。

「胡麻の蠅」と書いて「ごまのはい」と読むこともあります。

6.黒一点(こくいってん)

黒一点

黒一点」とは、多数の女性の中に混じっている、ただ一人の男性をいう俗語です。

黒一点は、紅一点の対義語として作られた言葉で、は男性をイメージした色からです。

また、発音した際、紅一点と異なるのは二音節目のみで、それも「う」と「く」で母音が同じであるため、受け入れやすい言葉となっています。

その他、紅一点の対義語として作られた言葉には、「白一点」「蒼一点」「緑一点」などもあります。

しかし、これらは文字や語源から考えらた言葉で、黒一点のように発音から入った言葉ではないため受け入れられにくいものです。

白一点は、紅白歌合戦など、紅の対に白が使われることからです。

しかし、白は直感的に男性をイメージしにくい色で、黒一点のように瞬間的に通じる言葉ではなく、紅一点の対義語として使っている前提が必要となるため、あまり使われません。

蒼一点は、男性の色を青、女性の色を赤とイメージし、赤が「紅」なので、青を「蒼」としたものです。

しかし、「紅」と「赤」、「蒼」と「青」の関係が複雑になっている上、「蒼」は「紅」ほど使われる色ではないため、ほぼ使われていません。

緑一点は、紅一点の語源である「万緑叢中紅一点」を知らないと理解できない上、知っていても突然言われたら何のことか通じません。

賢いふりをした馬鹿が考えるような言葉で、まず使われることはありません。