日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.茣蓙(ござ)
「ござ」とは、い草の茎で編んだ敷物のことです。うすべり。ござむしろ。
貴人の座るところを「御座(ござ)」と言いました。
そこに敷かれる畳を「御座畳(単に「御座」とも)」と言い、座ったり寝たりするのに用いるむしろを「御座筵(ござむしろ)」と言うようになりました。
その「ござむしろ」の略が、「ござ」です。
漢字の「蓙」は、草冠と「座」からなる会意兼形声文字で国字です。「茣」は、ヨモギに似た草の名を表します。
「花茣蓙(はなござ)」「着茣蓙(きござ)」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・花茣蓙を 美しく敷く 庵かな(山口青邨)
・花茣蓙や ごろりと雨の 日曜日(湯川雅)
・演劇部 備品の着茣蓙 虫干す(茨木和生)
2.小結(こむすび)
「小結」とは、相撲の番付で関脇の次位、三役(大関・関脇・小結)の最下位のことです。
小結の語源は、他の位ほど明らかではありませんが、諸説ある中で最も一般に広まっている説には、「小口の結び」の意味というものがあります。
小口は、先端や物事の始まりを意味する語です。結びは、締めくくりや終わりを表し、最終の取組のことです。
小結・関脇・大関の取組をいう結びの三番のうち、最初の取組であるところから「小口の結び」で「小結」という訳です。
3.小首を傾げる/小首をかしげる(こくびをかしげる)
「小首を傾げる」とは、首を少し傾けて考えを巡らす。不審がったり、不思議に思ったりすることです。小首を傾ける。
小首を傾げるの「小首」は、体の部位ではなく、首のちょっとした動作についていう語で、「小(こ)」は接頭語です。
「傾げる(かしげる)」は、「傾ける」の意味です。
江戸時代には同義の「小首を傾ける」「小首をかたげる」が見られ、「小首を傾げる」は明治に入ってから用例が見られるようになります。
4.呉越同舟(ごえつどうしゅう)
「呉越同舟」とは、仲の悪い者同士が同じ場所に居合わせること。また、共通の利害のために協力しあったり、行動を共にすることです。
呉越同舟は、『孫子』第十一篇「九地」の故事に由来する四字熟語です。
呉越は、中国の春秋時代に戦争を繰り返していた「呉」と「越」という国名です。
同舟は、同じ舟に乗り合わせることを意味します。
『孫子』には、「中国の春秋時代、呉と越の国は戦争を繰り返すほど仲が悪ったが、もしも両国の人が同じ舟に乗り合わせていた時、暴風に襲われ舟が転覆しそうになれば、呉の人も越の人も普段の遺恨を忘れ、舟が沈まないよう互いに助け合ったに違いない」とあります。
上記の話から、 敵同士であっても、同じ目的や共通の困難のために協力することを「呉越同舟」と言うようになりました。
現代では、仲の悪い者同士が居合わせることも「呉越同舟」といいます。
5.駒鳥(こまどり)
「コマドリ」とは、全長約14cmのスズメ目ヒタキ科の鳥です。ウグイス・オオルリとともに日本三名鳥の一つとされます。
コマドリの「コマ(駒)」は、「馬」のことです。
「ヒンカラカラ」とさえずる声が、馬のいななきに似ているところから、馬(駒)の鳥で「コマドリ」と呼ばれるようになりました。
「駒鳥」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・駒鳥の 声ころびけり 岩の上(斯波園女)
・駒鳥や 崖をしたたる 露の色(加藤楸邨)
・駒鳥の聲 日をよぶ雲の 梢かな(幸田露伴)
6.昆布(こんぶ)
「昆布」とは、褐藻類コンブ目コンブ科の海藻の総称です。東北地方以北に分布。マコンブ・リシリコンブ・ミツイシコンブなど種類が多くあります。こぶ。えびすめ。ひろめ。
「昆布」の文字は、奈良時代の『正倉院文書』には既に見られますが、当時の訓は「ひろめ」や「えびすめ」でした。
「ひろめ」は幅が広い海藻の意味で、「えびすめ」は蝦夷地の海藻を意味している。
『色葉字類抄』に「コンフ」、『伊呂波字類抄』に「コフ」とあり、この頃から「昆布」が「コンブ(コブ)」と呼ばれるようになったと考えられます。
昆布の語源は、アイヌ語で「昆布」を意味する「kombu」からといわれます。
また他には、中国ではワカメを「昆布」と呼んでおり、この漢名からとする説。
アイヌ語の「kombu」と混同したことに由来する説。
古名の「ひろめ」を漢字表記した「広布」を「コウプ」と音読し、それが変化したとする説もあります。
「昆布」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・達磨忌の 口とりは昆布に 山椒かな(加舎白雄)
・滝行者 今あつあつの 昆布茶飲む(川端茅舎)
・竿昆布に 秋夕浪の しぶきかな(河東碧梧桐)
7.姑息(こそく)
「姑息」とは、根本的に解決するのではなく、一時の間に合わせ・その場しのぎのことです。なお、誤用から俗に、卑怯なさまのこともいいます。
姑息の「姑」は「しゅうとめ」ではなく「しばらく」を意味し、「息」は「休息」のことです。
「しばらくの間、息をついて休む」ところから、「その場しのぎ」の意味となりました。
姑息は「卑怯」の意味で用いられることも多いですが、姑息にそのような意味はありません。
「卑怯」の意味で用いられるのは、「姑息な手段(その場しのぎの手段)でごまかす」など、良くない場面で多く用いられる言葉であることや、「小癪」と音が似ていてることからの混同によるものと考えられます。