日本語の面白い語源・由来(し-⑥)尻馬に乗る・所在ない・如才ない・斟酌・出張・遮二無二・失禁・ジグザグ

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尻馬に乗る

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.尻馬に乗る(しりうまにのる)

尻馬に乗る

尻馬に乗る」とは、無批判に他人の言動に便乗して軽はずみな行動をすること、人のあとに続き、調子に乗ってその真似をすることです。尻馬に付く。

尻馬とは、他人の乗っている馬の尻(後部)。また、前を行く馬の尻のこと。
つまり、尻馬に乗るは、他人が手綱をとる馬の尻に乗ったり、前を行く馬についていくことで、人任せにした状態を表します。

そこから、他人の言動に便乗して行動することや、調子に乗って真似をすることを、「尻馬に乗る」や「尻馬に付く」というようになりました。

2.所在ない/所在無い(しょざいない)

所在ない

所在ない」とは、することがなくて退屈だ。手持ち無沙汰だ所在が無いことです。

所在ないの「所在」は、漢語では「存在する場所」や「ありか」などの意味しかありませんが、日本では発展的用法で「仕事」「職業」「地位」、また「すること」や「行為」といった意味も持ちます。

所在ないは「すること」を意味する「所在」を「無い」で否定した語で、「することがない」から「退屈」も意味します。

3.如才ない/如才無い(じょさいない)

如才ない

如才ない」とは、気がきいて手抜かりがないことです。

如才は本来「如在」と書きますが、「在」の漢音が「さい」であることから、誤って「如才」と書くようになりました。

如在は、『論語』の「祭如在、祭神如神在(祭ることいますが如くし、神を祭ること神いますが如くす)」に由来し、眼前に神や主君がいるかのように、謹みかしこまることをいいました。

これが「形ばかりの敬意」「形式的」という意味に誤用され、「如才(如在)」は「手抜かりがある」「なおざりにする」という意味になりました。

この「如才」を「無い」で否定した語が「如才ない」で、手抜かりがないという意味となります。

4.斟酌(しんしゃく)

斟酌

斟酌」とは、相手の事情や心情を汲み取ること。手加減すること。照らし合わせて取捨選択すること。遠慮することです。

斟酌の「斟」は分量を探りはかりながら汲むこと、「斟」は柄杓で汲み上げる意味で、斟酌は酒や水の分量をはかってくみ分けることが原義です。

そこから、ほどよく行うという意味や、相手の意を汲んで行うといった意味になりました。

さらに、言動を控え目にすることや、遠慮する意味にも転じました。

5.出張(しゅっちょう)

出張

出張」とは、職務のため臨時に他の場所へ出向くことです。

「出張」は和製漢語で、もとは戦陣用語です。

戦場に出て陣を張る意味から、戦いのために他の場所へ出向くことを「出張り」といい、「出張り(出張る)」を音読みしたのが「しゅっちょう」です。

「出張り」も「出張」も室町時代には見られる語ですが、仕事で他の場所へ出向く意味として出張が使われ始めたのは、明治以降のことです。

6.遮二無二(しゃにむに)

遮二無二生きる

遮二無二」とは、一つのことをがむしゃらに行うさま。ただひたすらに。むやみにという意味です。

「しゃにむに」は、18世紀半ばに見られる語です。

「しゃにむに」と意味や語形が似ている言葉で、17世紀半ばに見られる「しゃりむり(差理無理)」があるため、「しゃにむに」は「しゃりむり」が音変化した語と考えられます。

「しゃりむり」の「むり(無理)」は字義通りと捉えて問題ありませんが、「しゃり(差理)」の意味は、道理と食い違う意味か、単なる当て字か不明であり、「しゃりむり」の語源は定かではありません。

「しゃにむに」の語源には、「遮二無二」という漢字を元に、遮るものが二つとない様子からとする説もありますが、「しゃりむり」が語義・語形・時代からみて妥当なため、「遮二無二」は意味も含めた当て字と考えた方が良いようです。

また、「斜に構える」の「斜に」に「無理に」を略した「むに」をつけた語で、なりふり構わずという意味からとする説もありますが、これは商品名や社名などを決める際の発想であり、言葉の成り立ちとしては不自然です。

7.失禁(しっきん)

失禁

失禁」とは、自分の意思と関係なく大小便を漏らしてしまうことです。

失禁は、「漏れ」を意味するオランダ語「lekheid」の訳語として、蘭方医が考案した語です。
失禁の「禁」には「ふさぐ」「とどめる」の意味があり、「失」は「あやまち」や「そこなう」の意味があります。

このことから、「失禁」は「とどめそこなう」の意味で作られた語と考えられます。

1793~1810年にわたって出版された医学書『西説内科撰要』の「小便失禁篇」には、「或ハ思ヒ保センコトヲ要スレドモ禁ズルコト能ハズシテ、意外ニ漏洩スル」とあります。

8.ジグザグ(じぐざぐ)

ジグザグ

ジグザグ」とは、直線が左右交互に繰り返し折れ曲がった形。また、そのようなさまのことです。Z字形。稲妻形。

ジグザグは、「稲妻形」や「Z字形」を意味する英語「zigzag」からの外来語です。
「zigzag」は、フランス語で「歯」を意味する「zag」が重複した語で、「のこぎりの歯」が原義です。

ドイツ語にも「尖った先」「のこぎりの歯」を意味する「Zacke」があり、同源と思われます。

なお、左右に蛇行して進行するデモの「ジグザグデモ」や、針棒が左右に振れてジグザグに縫うミシンの「ジグザグミシン」は和製英語です。