日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.捨て石(すていし)
「捨て石」とは、現在すぐに効果はないが、将来役に立つことを予想してする行為や、その要員のことです。犠牲。
捨て石は、元は囲碁用語で、後々の局面で自分の形勢を有利にするため、わざと相手に取らせるように打つ石のことです。
そこから、さしあたって効果がなく無駄なように見えるが、将来役に立つことを予想して行うことを「捨て石」と言うようになりました。
2.すっぽかす
「すっぽかす」とは、約束や仕事などの義務を果たさないでほうっておく、そのままにして捨て置くことです。
すっぽかすの「すっ」は、「素っ裸(すっぱだか)」「すっ飛ばす」「素っ頓狂(すっとんきょう)」などの「すっ(素っ)」と同じく、言葉の前についてその意味を強める語です。
「ぽかす」は、捨てる意味の「ほかす(放す)」を破裂音化したものです。
すっぽかすは、「素っ放かす」と漢字表記もします。
3.酢橘(すだち)
「すだち」とは、徳島県の特産のミカン科の常緑低木です。ユズの近縁。果実は酸味が強く、香気があり、調味料に使われます。
すだちは「酸っぱいタチバナ」の意味で、「タチバナ(橘)」の「タチ」に「酸っぱい(酸)」意味の「ス」を冠した名前です。
ここでいう「タチバナ」は「ヤマトタチバナ」のことではなく、古く、生食されたミカン類の総称です。
「酢橘」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・夕風や 箸のはじめの 酸橘の香(服部嵐翠)
・包丁の まへに玉置く 酸橘かな(百合山羽公)
・土瓶蒸し 京ならではの 鱧すだち(高木晴子)
・贈り来し すだちに鳴門 潮偲ぶ(野村くに女)
4.全て/総て/凡て(すべて)
「すべて」とは、全部、ひとつも残さずみんな、ことごとくという意味です。
すべては、多くの物をひとつにまとめる意味の動詞「統ぶ(すぶ)」「統べる(すべる)」の連用形に、接続助詞の「て」が付いた語です。
古くは、「一般的にいって」「総じて」の意味や、下に打ち消しの語を伴って「全然」「まったく」も意味しました。
5.図体(ずうたい)
「図体」とは、体つき、からだ、なりのことです。特に大きい体を指していいます。
図体は「胴体(どうたい)」が転じた語といわれ、漢字の「図」は当て字です。
「小さな図体」と言わないように、からだの大きさを強調する際に用いる語で、江戸時代にも大きい体を表した使い方がされています。
「胴体」の語は体の大小を表さず、「ずうたい」に音変化した後も残っていることから、「図体(ずうたい)」は、体の大きな様子を表現するために生まれた語と考えられます。
6.随分(ずいぶん)
「随分」とは、程度を超えているさま、著しいさまです。はなはだ。非常に。ひどい。
随分は「分(ぶん)に随う(したがう)」、つまり「身分相応」の意味で用いられた言葉でした。
そこから派生して、「分に応じてできる限り」「極力」の意味にもなり、「かなり」や「はなはだ」といった意味も持つようになりました。
明治時代になると、「非常に」「はなはだ」の意味から「ひどい」の意味も生じ、随分は良くも悪くも程度が超えたさまを表す言葉となりました。
7.ずんぐりむっくり
「ずんぐりむっくり」とは、背が低くて太っているさまです。物が太くて短いさまを強めていう語です。
ずんぐりむっくりは、丈が短く太い様をいう「ずんぐり」に「むっくり」を重ね強調した語です。
「ずんぐり」も「むっくり」も、個々には江戸時代から用例が見られるが、二つが合わさった「ずんぐりむっくり」が見られるのは明治以降です。
「ずんぐり」の語源は、独楽(こま)の古名「つむくり」で、独楽の形状からとする説。
上から下まで太さが変わらない意味の「ずんど・ずんどう(寸胴)」の「ずん」と、擬態語の語尾に使われる「くり・ぐり」が組み合わさったとする説があります。
「むっくり」は、「むくり」「むっく」などと同じく、やおら起き上がるさまを表す言葉ですが、丸みがあって弾力に富んださまも意味する言葉で、「むっちり」などと通じます。