「甘井先竭」「大器晩成」「無用の用」は老子・荘子の老荘思想の含蓄のある言葉

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曺国

皆さんは古代中国の老子・荘子の「老荘思想」をご存知でしょう。その荘子に、「直木(ちょくぼく)は先(ま)ず伐(き)られ、甘井(かんせい)は先ず竭(つ)く」という言葉があります。また、老子には有名な「大器は晩成す」「無用の用」という言葉もあります。

含蓄の深い言葉ですので、今回はこれについて考えてみたいと思います。

1.甘井先竭(かんせいせんけつ)

(1)甘井先竭とは

真っ直ぐな木は、良い木材として使い道が多いため、真っ先に伐採されてしまう羽目になるということで、能力や才能があると、かえって災いのもとになるたとえです。

またおいしい水の出る井戸は、人々が争って汲むので、他の井戸より先に汲み尽くされてしまうことから、才能がある者ほどその才能が早く衰えやすいことのたとえです。また、才能を見せびらかす者は、他の者よりも先に災難に遭うというたとえです。

荘子は、「意怠」という鳥を例にして説明しています。

この鳥は、バタバタと羽ばたくだけでいかにも無能そうに見える。他の鳥にひきずられてようやく飛び上がり、尻を叩かれてやっとねぐらに帰って来る。進む時には先頭に立とうとせず、退く時にも殿(しんがり)をつとめようとしない。餌を取る時も決して先を争わないで、仲間外れにされることもなく、危害を加えられることもない。

この「意怠」は「控え目で地味な存在」ですが、ある意味で、結構「マイペースで世渡り上手な鳥」のようですね。

(2)小泉進次郎氏と曺国氏

この四字熟語を聞いて思い浮かぶ政治家がこの二人です。

小泉進次郎氏(1981年~ )は、小泉純一郎元首相の次男で2019年9月に田中角栄以来の男性最年少で入閣(環境大臣)しました。しかし、就任早々の福島での「浄化後の汚染水処理についての前大臣の発言に関する謝罪発言」や国連での意味不明の「セクシー発言」、水俣病被害者団体との懇談での「具体策のない発言」などで勉強不足を露呈し、あまり順調な滑り出しとは言えません。「言語明瞭、意味不明(不明瞭)」の発言を反省の上、しっかり勉強して具体的な政策を発信してほしいと思います。

韓国で2019年9月に法務大臣に就任し、1カ月あまりで辞任したいわゆる「タマネギ男」の曺国氏(1965年~ )は、史上最年少(年齢詐称で虚偽と判明)でソウル大学法学部に入学し、直前はソウル大学法学部教授だった超エリートです。しかし、法務大臣就任前から、娘の不正入学疑惑と不正進学疑惑、妻の私文書偽造容疑、息子の徴兵逃れ疑惑などの親族の不正疑惑のほか、弟や本人を含む私募ファンドの不正投資疑惑など次から次に出て来る疑惑で、結局早期辞任に追い込まれました。

普通の大学教授であれば、これほど不正が厳しく暴かれることもなかったのではないかという気もします。ただ、この人は、報道を見ていると、法務大臣になる前から、良い頭を悪用していろいろと悪事を働いていたようです。韓国の検察は厳正な捜査をして公正な裁きを受けさせるよう努力してほしいものです。

2.大器晩成

(1)大器晩成とは

大きな器は完成するまでに時間がかかることから、真に偉大な人物も大成するのが遅いということです。大人物は遅れて頭角を現すということですが、才能がありながら不遇な人に対する慰めの言葉としても用いられます。

「遅咲きの花」という意味で使ったり、「生涯現役へのエール」として使われたりもします。

老子にある大器晩成の元の文章は、「大方無隅 大器晩成 大音希声 大象無形(たいほうむぐう たいきばんせい だいおんきせい たいしょうむけい)」です。

大きな四角形は角が見えず、大きな器はなかなか出来上がらず、大きな音はかえって聞こえず、大きな形は形として見えないものだ」ということで、大きなものの全貌は測りがたく、完成までに時間がかかるという意味です。

なお、「大器晩成」の対義語は「栴檀双葉(せんだんのふたば)」です。

(2)野中広務氏と菅義偉氏

歴史上の人物で言えば、徳川家康や伊能忠敬がこの言葉にふさわしい偉人です。

しかし私がこの四字熟語を聞いて思い浮かぶ政治家はこの二人です。

野中広務氏(1925年~2018年)は、旧制園部中学卒業後、国鉄(現:JR西日本)に入り、京都府園部町長、京都府副知事、衆議院議員秘書などを経て衆議院議員となり、自治大臣、国家公安委員会委員長、内閣官房長官、沖縄開発庁長官や自民党幹事長などの要職を歴任した政治家です。

彼のゆっくり噛みしめるように話す言葉には、重みが感じられました。今の政治家のような弁舌爽やかだが中身のない空疎で薄っぺらな発言ではありませんでした。

菅義偉氏(1948年~ )は、法政大学第二部法学部政治学科を卒業後、民間企業勤務、横浜市会議員を経て衆議院議員となり、拉致問題担当大臣や総務大臣などを歴任して2012年12月に内閣官房長官となり現在に至っています。在職期間歴代1位の官房長官です。

彼は安倍首相の片腕として、そつのない手堅い手腕を発揮しており、我々も安心して見ていられる「軍師型・参謀型」の政治家です。桜田義孝元五輪担当・サイバーセキュリティー戦略担当大臣や金田勝年元法務大臣のような勉強不足の「伴食大臣」とは大違いです。

また、日頃は温厚なタイプの人ですが、潔く引責辞任せず地位に恋々としがみつこうとした前川喜平元文部科学省事務次官に対して厳しく批判したことも、言うべきことはきちんと言う人だと強く印象に残っています。

3.無用の用

(1)無用の用とは

役に立たない実用性のないように見えるものに、実は真に有益な働きがあるということです。

老子では次のように書かれています。

三十の輻(ふく)は一轂(いっこく)を共にす。
其の無に当たりて、車の用あり。

埴(しょく)を埏(せん)して以て器を為(つく)る。
其の無に当たりて、器の用あり。

戸牖(こいう)を鑿(うがち)て以て室を為る。
其の無に当たりて、室の用有り。

故に有の以て利を為すは、無の以て用を為せばなり。

現代語訳は次のようになります。

30本の輻(スポーク)は1つのこしき(ハブ)に集まって(車輪を形成して)います。
そこ(ハブ)に何もない空間があるから、車輪としての役割を果たすのです。

粘土をこねて器を作ります。
そこ(器の中)に何もない空間があるから、器としての役割を果たすのです。

戸や窓を貫いて部屋を作ります。
そこ(部屋の中)に何もない空間があるから、部屋としての役割を果たすのです。

つまり形ある物が価値があるのは、形ない物がその役割を果たしているからです。

(2)無用の用の解釈と具体例

人や物の使い方に「適材適所」があること、無用と決めて捨て去るような態度を取るべきではないという解釈もあります。

逆に有用に見えるもの、知恵や才能のある者が、かえってその知能のために害を受けてその働きを遂げられなくなる、出る杭は打たれるということになるわけです。

「昼寝」は一見無用なように見えますが、昼食後にちょっと昼寝をするだけで、頭がすっきりすることがあります。じっと目をつむって「瞑想」するだけでも、昼寝によく似た効果が期待できます。

「夢」も一見無用なように見えますが、寝ている間の夢で、重要な発見や着想を得た人がいます。

一人は分子構造式のベンゼン環のひらめきを得たアウグスト・ケクレ(1829年~1896年)というドイツの化学者です。彼はロンドン滞在中に乗り合い馬車での移動中、次のような不思議な夢を見ました。

「夢の中に蛇が出て来て、自分の尻尾をくわえて回転を始めた。そこへ球が飛んで来て跳ねまわり始めた。最初は大きい球に小さい球が一つずつくっつく。やがて大きい球は小さい球を複数くっつけ、最も多い球は4つになった。それが回転すると蛇と一緒に回り出し、つながって鎖を作っていく。すると蛇は運動をやめて消えた」

もう一人はイタリアのヴァイオリニストで作曲家のジュゼッペ・タルティーニ(1692年~1770年)です。彼はある日「悪魔がヴァイオリンを弾いている。その曲は驚くほど美しいトリルを奏でている」夢を見ました。目覚めるとすぐに夢で聞いた曲を楽譜に書き留めました。それが無伴奏ヴァイオリンソナタ・ト短調「悪魔のトリル」です。ちなみに「トリル」とは、2つの音を繰り返し素早く鳴らすトレモロのことです。

「世間話」も一見無用で無駄なように思いますが、仲間との円滑なコミュニケーションに重要な役割を果たすとともに、その話題の中に仕事の重要なヒントが隠されていることもあるのです。

「微生物」は、一見無用な生物のように思います。しかし地中のバクテリアは、自然界の死んだ有機物塊を無機物に変える(分解する)という側面もあり、生態系(有機物を得る方法により、生物を「生産者」「消費者」「分解者」に分ける考え方)や食物連鎖(生物の「食べる&食べられる関係」を1本の直線的な鎖で表す考え方)を支える重要なメンバーです。また、乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌あるいは腸内微生物と呼ばれる生物群は消化や健康と深い関連を持っています。

蛇足ですが、私たち人間は60兆個の細胞からできていますが、一人の人間に棲みついている微生物は、腸内だけで100兆個以上、皮膚には1兆個もいるそうです。腸内にはビフィズス菌のような善玉菌もいればピロリ菌のような悪玉菌もいます。皮膚にいる1兆個の微生物の大部分は、体に害がない「常在菌」と呼ばれるものですが、中には水虫を引き起こす白癬菌のような微生物もいます。



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