日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.大安(たいあん/だいあん)
「大安」とは、暦注の六曜の一つで、婚礼、旅行、建築、移転、新規事業の開始など、万事に良いとされる日のことです。現在では特に婚礼に良い日とされます。
大安は「大安日」の略です。
大いに安らかである日、きわめて穏やかで不安がない日を意味し、大吉のように、この上なく縁起や運勢が良いことを意味するわけではありません。
大安は漢音読みで「たいあん」ということが多いですが、呉音読みで「だいあん」ともいいます。
2.対岸の火事(たいがんのかじ)
「対岸の火事」とは、自分には無関係で、なんの苦痛も感じないことのたとえです。「対岸の火災」ともいいます。
向こう岸で起きた火事は、飛び火する心配がありません。
そのような火事にたとえて、当事者にとっては苦痛や災難であっても、自分には関係なく痛くも痒くもないことを「対岸の火事」と言うようになりました。
「対岸の火事だから自分には関係ない」といった使い方よりも、多くは戒めとして「対岸の火事とせず」「対岸の火事とは考えず」など否定の形で使われます。
3.尋ねる/訊ねる/訪ねる(たずねる)
「尋ねる」とは、質問する、探し求める、調べたり考えたりすることです。「訊ねる」とも書くきます。
「訪ねる」とは、訪問する、人に会うためにその人の所へ行く、目的があってわざわざその場所へ行くことです。
「尋ねる」と「訪ねる」は同源で、「問う」「探る」「訪れる」などを意味するという点では、「伺う」と「窺う」の関係に似ています。
尋ねる(訪ねる)の歴史的仮名遣いは「たづねる」で、「辿る(たどる)」や「たどたどしい」の「たど」と同じく、歩く音に由来すると考えられています。
4.大団円(だいだんえん)
「大団円」とは、小説や演劇などの最後の場面、特に全てがめでたくおさまる結末のことです。「大円団」と書くのは間違いです。
大団円は「大」と「団円」からなる語です。
「団円」は丸いことを形容する語で、円満であることや、欠けることなく完全に終わることの意味にも使われます。
そこから「団円」は、演劇や小説などで最終的にすべてが円満にまとまり、終了する意味として使われるようになりました。
「大」は程度の甚だしいさまや立派であることを表す接頭語で、「大団円」は「団円」よりも最初から最後まで非常に素晴らしいことを強調した表現になっています。
5.堪能(たんのう)
「堪能」とは、十分に満足すること、その道に深く通じていること、技芸や学問などに優れていることです。
漢字の「堪能」は本来「かんのう」と読む漢語で、和語の「たんのう」に当てた当て字です。
「料理を堪能する」など十分に満足することの意味は、和語の「たんのう」からですが、「英語に堪能だ」など優れていることの意味は、十分の意味が派生したのではなく、「堪能(かんのう)」の意味からで、この言葉は意味によって由来が異なります。
和語の「たんのう」は、満足する意味の動詞「足る」に完了の助動詞「ぬ」がついた「足りぬ」の音便形「足んぬ」が転じた語です。
「たんぬ(する)」の形で用いられ、江戸時代に「たんの(する)」「たんの(がる)」となり、長音化して「たんのう(する)」となりました。
十分に満ち足りる意味から、満足することのほか、気の済むことや納得することの意味でも用いられました。
江戸時代には、「たんのう」に「胆納」「湛納」「堪納」などの漢字も当てられましたが、最終的に「堪能」で定着しました。
「堪能(かんのう)」は、元々「よくものに堪える能力」を意味した仏教語で、転じて、技芸や学問に習熟しているさまを意味します。
「堪」の漢字に「タン」の音はありませんが、「湛」に「タン」の音があることから混同し、誤用で「堪能」の字が当てられたことで、「たんのう」に優れていることの意味が含まれるようになりました。
この誤りを正すためか、明治時代の辞書の中には、「たんのう」と読める「湛能」の漢字表記をしているものもあります。
6.戦う/闘う(たたかう)
「戦う(闘う)」とは、優劣や勝敗を競う、武力を用いて争う、苦痛や障害に打ち勝とうと努力することです。
たたかうの語源には、「叩く」の未然形に反復・継続の助動詞「フ」がついた語。
「タタキアフ(叩き合う)」の音変化。
「タタキカハス(叩き交わす)」の意味などがあります。
「たたかう」が「叩き続ける」の意味で使われた例もあるため、これらの説に共通する「叩く」についてはほぼ間違いないようです。
その他、「タテカフ(盾交)」が転じたとする説もありますが、防具に由来するとは考えられません。
7.段ボール(だんぼーる)
「段ボール」とは、波状に成形した中心(なかしん)原紙の片面または両面に、ライナーと呼ばれる平らな厚紙を貼り合わせて作った板紙(また、その板紙で作った箱)のことです。
段ボールは1856年のイギリスで、シルクハットの内側の汗を吸収するために開発されたものでした。
それがアメリカでガラス製品の包装に使用され、包装資材として利用されるようになり、1800年代後半には段ボール箱も作られるようになりました。
英語ではこれを「cardboard」と呼びますが、明治時代の日本では「なまこ紙」や「しわしわ紙」と呼んでいました。
「段ボール」と呼ばれるようになったのは明治42年(1909)、レンゴーの前身となる三盛舎の創業者 井上貞治郎が、日本で初めて段ボールを事業化した際、「段の付いたボール紙」の意味で「段ボール」と命名したことに由来します。
「ボール紙」は厚手の板紙の俗称で、明治時代、英語の「board(板)」の末尾の音を聞き取れなかったことから、「ボール」と呼ばれるようになったものです。