日本語の面白い語源・由来(と-①)土砂降り・唐辛子・唐変木・ドンファン・戸惑い・ドッジボール・ドロンする・尊い

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土砂降り

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.土砂降り(どしゃぶり)

土砂降り

土砂降り」とは、雨が非常に激しく降ること(また、その雨のこと)です。

土砂降りの「土砂」は当て字で、土や砂が降ってきたり、跳ねたりすることを表したものではありません。

「どしゃ」は、雨が激しく降って発する音や、その様子を表す擬音語(オノマトペ)「どしゃどしゃ」の「どしゃ」です。

雨が激しく降る音の「ざあざあ(ざーざー)」を使って「ざあざあ降り」というように、どしゃどしゃ降ることを「どしゃ降り」といいます。

土砂降りの「どしゃ」は、どさくさの「どさ」に由来するといわれることもありますが、これは俗説です。

2.唐辛子(とうがらし)

唐辛子

唐辛子」とは、南アメリカ原産のナス科の一年草です。果皮や種子に強い辛味があり、香辛料として用いられます。

唐辛子は、「唐から渡来した辛子(からし)」の意味です。
唐は「中国」を意味する語ですが、ここでは広い意味で「外国」を表し、中国から入ったというわけではありません。

唐辛子の日本への伝来については、1542年にポルトガル人宣教師によって伝えられたとも、豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に種子を持ち帰ったともいわれます。

「唐辛子」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・青くても 有るべきものを 唐辛子(松尾芭蕉

・きざまれて 果てまで赤し 唐がらし(森川許六)

・うつくしや 野分の後の たうがらし(与謝蕪村

・唐辛子 からき命を つなぎけり(正岡子規

3.唐変木(とうへんぼく)

唐変木

唐変木」とは、気のきかない人、わからず屋を罵っていう語です。

唐変木は、近世以降見られる語です。
語源ははっきりとしませんが、漢字表記の「唐変木」を元に、唐(中国)から伝わった風変わりな木の意味に由来する説があります。

センダン(下の写真)やセンダン科の香椿(チャンチン)を「唐変木」と呼ぶ方言もあり、元々は木を指した言葉であった可能性は高いようです。

栴檀の花栴檀の実

風変わりな木の意味から、分かるはずのことが分からない人を意味するようになったのは、当時、道理の分からない人を罵って言った「唐人」と重ね合わせられたものと考えられます。

そう言えば「唐人の寝言(とうじんのねごと)」(訳のわからない言葉。また、筋の通らないことをくどくどと言うこと)という言葉もありますね。

4.ドンファン

紀州のドン・ファン

「ドンファン」と言えば、最近では「紀州のドンファン」と自称していた資産家の男性が殺害された事件を思い出します。

ドンファン」とは、女たらし、好色漢、プレイボーイのことです。

ドンファンは、スペインの伝説上の人物「ドン・ファン(Don Juan)」に由来します。
ドン・ファンは次々と女性を渡り歩くプレイボーイの貴族であったことから、女たらしの代名詞となりました。

「Don」はスペインで男性の名前の前につける敬称で、日本で「首領」や「親分」を意味する「ドン」の語源でもあります。

スペイン語では「ドン・ホワン」が近く、日本語の「ドン・ファン」は英語風の読みで、フランス語風の読みは「ドン・ジュアン」、イタリア語風の読みは「ドン・ジョヴァンニ」です。

スペインのティルソ・デ・モリーナが、1630年にドン・ファンの話を描いた戯曲『セビリアの色事師と石の客』を発表し、大ヒットしました。

その後、フランスのモリエールによる喜劇『ドン・ジュアン、あるいは石像の宴』(1665)や、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』(1787)など、ドン・ファンは沢山の作品に取り上げられています。

日本では、高村光太郎の詩集『道程』(1914)に「丁髷太きどんふあんの眼こそ痛はしけれ」とあるのが古く、大正初期までには「ドンファン」が女たらしの代名詞となっていたようです。

5.戸惑い(とまどい)

戸惑い

戸惑い」とは、手段や方法がわからなくて困ること、どうしたらよいかまごつくことです。

戸惑いは、本来、入るべき家や部屋がわからなくてまごつくことを意味した語で、文字通り、「戸(入り口)に惑うこと」が語源です。

アパートの玄関

そこから、寝ぼけて方角を失いまごつくことや、進む方向がわからなくなることを意味するようになり、戸惑いはどうしたらよいか迷うことを表す言葉となりました。

動詞の「戸惑う」が見られるのは名詞「戸惑い」よりも遅いため、「戸惑い」が動詞化した語と思われます。

6.ドッジボール

ドッジボール

「ドッジボール」は、皆さんも小学生の頃によくやったのではないでしょうか?

ドッジボール」とは、二組に分かれてコート内でボールを投げ合い、より多く相手にボールを当てたほうが勝ちとなる球技(また、それに使用するボール)のことです。「ドッチボール」ともいいます。

「ドッジ(dodge)」は「かわす」の意味で、ドッジボールを漢字では「避球(ひきゅう)」と表記します。

日本にドッジボールが紹介されたのは明治42年(1909年)のことで、この頃は「デッドボール」と呼ばれていました。

大正15年(1926年)、「学校体操教授要目」の改正の際に「ドッヂボール」と改名され、それ以降は「ドッジボール(ドッヂボール)」と呼ばれています。

改名には「死」を意味する「デッド(dead)」を忌み嫌ったという説もありますが、外国由来のスポーツなので、英語の呼称「dodgeball」に改めたと考えるのが自然です。

余談ですが、その他の外来スポーツの和名については、「外来のスポーツの名前を漢字でどう書くか(和名)を知っていますか?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

<雑学メモ>「ドジャース」の名前の由来

大谷翔平がエンゼルスからドジャースに、契約金7億ドル(約1015億円)で移籍しました。

ところで、「ドジャース」の名前の由来をご存知でしょうか?

ドジャース(Dodgers)は英単語の“dodge”が由来となっており、日本語訳では「よける、かわす」という意味です。

子どもの頃遊んだことがある「ドッジボール」は“Dodgeball”と書きますが、同じ単語です。

それに「するもの、する人」という意味を表す接尾辞“er”を付けて“Dodgers”(よける人たち)。複数形なので“s”が最後に付きます。

何をよける人たちなのかはチームの歴史を少し紐解く必要があります。

ロサンゼルス・ドジャースというチーム名は1958年から使用されているもので、それ以前はニューヨークのブルックリンに本拠地を置いているチームが前身でその歴史は1884年まで遡ります。

その頃の市内交通と言えば「馬車鉄道(horsecar)」が主なもので金属のレール上で大きな客車を引っ張る馬の姿が多くみられました。

馬車鉄道

速度は比較的ゆっくりとしたものでスピード感は歩行者とあまり変わらなかったそうです。

しかし1892年に電気で動く路面電車(trolley)が市内交通に導入されると、それから3年後の1895年には路面電車と歩行者の事故が増加。その頃のブルックリンにおける死者は130人あまり、負傷者は500人にも上ったといわれています。

電動路面電車

これがきっかけで「ブルックリンの人たち=路面電車をよける人たち(trolley dodgers)というパブリックイメージがその頃から形成されていき、広まることになりました。

1895年のシーズンの始め頃には徐々にスポーツ記者たちが“trolley dodgers”という名称でチーム名を表すようになっていき、そして1898年初頭には本拠地のブルックリン(Brooklyn)と合わせ、さらにtrolleyを省いて短縮させて「Brooklyn Dodgers」という名称が広く認知されるように変化しました。

長いチームの歴史ではDodgers以外にAtlantics、Grays、Grooms、Bridegrooms、Superbas、Robinsなどの名称が通称としてファンや記者から使われていましたが、これらは公式なものではありませんでした。

ユニフォームにDodgersという文字がプリントされるようになったのは1933年からです。

ドジャースのユニフォーム

遂に公式な呼び名として認められたのがこの年で肩から袖にかけて付いたBの文字はBrooklynの頭文字です。

そして1958年から本拠地をロサンゼルスに移し、ロサンゼルス・ドジャースが誕生したというわけです。

7.ドロンする

ドロンする

ドロンする」とは、急に姿を隠す、逃げて姿をくらます、退席することです。

ドロンは、歌舞伎の効果音に由来します。

大太鼓を連打した時の「どろどろ」という音から、歌舞伎では、幽霊や妖怪が出る時や消える時に連打する大太鼓を「どろん」と呼びました。
そこから姿を隠すことを「どろん」と言うようになり、忍者が消えることも表すようになりました。

ドロン

その場から退席することを「ドロンする」と言うようになったのは、1980年代、忍者のポーズをとりながら「お先にドロンします」と言うのが流行したことによります。

8.尊い/貴い(とうとい)

尊い

「尊い人命」という言葉があります。また「仰げば尊し」という定番の卒業ソングがありましたね。良い歌なのに今は歌われなくなったそうです。

尊い」とは、「重んずべきである。高貴である。価値が高い。貴重である」という意味です。たっとい。

尊いは「たふとし」の口語で、その語源には品位の高さを表す「高太シ」からや、「タフト(貴太)」の意味、「タフト(足太)」を活用させた語など、「太」に関連付ける説が多いようです。

その他、その事に当たってよく勝つ意味の「タフ(堪)」の異形に、程度の甚だしいことを表す「イタシ(甚)」が付いた、「タヘイタシ(勝甚)」から変化したとする説もありますが、特定は困難です。

元々、尊い(たふとし)は、崇め重んずるべきであるの意味として用いられていました。

対象に畏敬の念を払うところから、品位が高く優れているという意味にも使われ、尊いは、価値が高い、貴重であるの意味にもなりました