日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.棟梁(とうりょう)
「棟梁」とは、「一族・一門の統率者。集団のかしら。特に、大工の親方」のことです。
棟梁は文字通り、建物の「棟(むね)」と「梁(はり)」をいった言葉です。
棟と梁は建物を支える重要な部分であることから、棟梁は集団の統率する中心的人物(例:武士の棟梁)をいうようになり、一国の臣を指すようになりました。
建築に由来する言葉であるためか、やがて、棟梁は大工・左官・鍛冶などの集団の長を指すようになり、近世頃から、特に、大工の親方を「棟梁」と言うようになりました。
2.問屋(とんや)
「問屋」とは、「生産者・輸入業者などから商品を仕入れ、小売商に卸売りする店や商人。卸売商」のことです。
とんやは、「とひや(といや)」が転じた語です。
平安末期、荘園領主に年貢を運送するため、港で米の管理などをしていた「問職(といしき)」という職務がありました。
鎌倉以降には、問職が物資の保管・輸送・取引の仲介、宿屋の経営などを行うようになり、「問丸(といまる)」と呼ばれるようになりました。
問丸の中には、現代の問屋と同様に、卸売を業とする者もいたといわれます。
近世に入り、「問丸」は「とひや(問屋)」と呼ばれ、江戸で「とんや」に転じました。
問屋の由来となる「問職」「問丸」の「問」は、そのまま「問い」の意味と思われますが、「集い(つどい)」の意味とする説もあり、定かではありません。
3.馴鹿/トナカイ(となかい)
「トナカイ」とは、「北極周辺のツンドラに分布するシカ科の哺乳類」です。雌雄とも枝状の大きな角を持っています。
トナカイは、アイヌ語の「tunakkay(トゥナカイ)」、もしくは「tunaxkay(トゥナッカイ)」に由来します。
司馬江漢の『春波楼筆記』には、間宮林蔵が樺太を探検した話の中で、「唐太の地に、トナカヒと云ふ獣あり」と記されていることから、江戸時代に「トナカイ」の呼称が伝わったと考えられます。
トナカイは漢字で「馴鹿」と当て字されます。
「馴鹿」は、「飼い馴らされた鹿」を意味し、本来は「じゅんろく」と読みます。
トナカイは、シカ科の中では珍しく、メスも角を持つことで知られます。
オスの角はメスより大きく、晩秋には落ちて春から生え始め、メスは春先になってから落ちるため、クリスマスにサンタクロースのソリをひくトナカイは、メスではないかといわれます。
4.ドジ
「ドジ」とは、「間の抜けた失敗をすること。また、そのような人を罵って言う語」です。
ドジは近世中期以降に多く見られる語で、近世末期の『俚言集覧』には「鈍遅(どんち)」と関連付ける記述があり、「どんち」が転訛し「どじ(旧かなは「どぢ」)」になったとする説が有力とされます。
その他、ドジの語源は「とちる」の名詞形「とちり」の転訛とする説や、はっきりしないさまをいう近世語「どぢぐぢ」の下略とする説など諸説あり、正確な語源は未詳です。
雑学の世界では、江戸時代、相撲用語で土俵の外に出ることを「土地を踏む」と言っていたことから、「土地」が訛り「どじ」になったとしていますが、「土地を踏む」の用例は見られません。
「ドジを踏む」という語感から、そのような言葉があったものとして、後世に作られた俗説と考えられます。
5.どら焼き/銅鑼焼き(どらやき)
「どら焼き」とは、「小麦粉に卵・砂糖を混ぜて、丸く焼いた二枚の皮の間に、餡をはさんだ菓子」です。
漢字で「銅鑼焼き」と書くように、どら焼きの「どら」は、その形が金属製打楽器の「ドラ(銅鑼)」に似ていることからです。
ドラの上で焼いたことから、「どら焼き」になったとも言われますが考え難い説です。
どら焼きは近世に作られたものですが、当初は「金鍔焼き」のことを指し、現在のようなものは大正年間に作られたといわれます。
関西では、どら焼きを奈良の三笠山に見立てて、「三笠」とも呼ばれます。
6.丼(どんぶり)
「丼」とは、「食物を盛る茶碗より厚手で深い陶製の鉢。どんぶり鉢。また、どんぶり鉢に入れた料理」のことです。
丼の語源は、江戸時代、一杯盛り切りの飲食物を出す店を「慳貪屋(けんどんや)」と言い、そこで使う鉢が「慳貪振り鉢(けんどんぶりばち)」と呼ばれていたことから、それが略された「どんぶり鉢」といわれます。
慳貪とは「ケチで欲深い」という意味で、慳貪屋で出されるものは「慳貪めし」や「慳貪そば」と呼ばれ、それを運ぶものは「慳貪箱」といいました。
八丈島の方言で「どんぶり鉢」を「けんどん」と言うのは、この名残と考えられています。
しかし、江戸時代、更紗(さらさ)や緞子(どんす)などで作った大きな袋も「どんぶり」呼ばれています。
そのことから、どんぶりは物を無造作に放り込むさまを表したもので、「どぶん」「どぼん」と同じ、物が水中に落ちる擬音語の「どんぶり」と関係するとも考えられます。
漢字の「丼(たん)」は「井(せい)」の本字で、字面から井戸の中に物を投げ込んだ音を表す字として用いられて、擬音語の「どんぶり」に当てられ、さらに「どんぶり鉢」を表すようになったものです。
7.ト書き(とがき)
「ト書き」とは、「脚本でセリフの間に、俳優の演技、照明・音楽・効果などの演出を書き入れたもの」です。
ト書きは、江戸時代の歌舞伎で、現在の脚本にあたる「台帳」と呼ばれる本に、セリフや舞台装置以外の説明として、俳優の動きや演出が書かれたものでした。
その記入の仕方が「ト両人歩み寄り」や「ト悲しき思入れ」など、「ト」で始まる形であったことから「ト書き」と呼ばれるようになりました。
演出が「ト」で書き始められた理由は、「◯◯するとそこへ◯◯が現れ」などの「と」を簡略に表現したためです。