「内閣官房機密費」というブラックボックスは一体どんなものなのか?巨額の実質的裏金?

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官房機密費

前に「自民党派閥の裏金問題の内情をリークした下村博文氏は捜査対象外!?」という記事を書きましたが、この「裏金」と似て非なるものに「内閣官房機密費」(官房機密費)があります。

しかし具体的にどういう用途にいくら使われたかは公開されませんので、「闇の中」というか「ブラックボックス」のようになっています。これは毎年14億円以上の予算が計上される「巨額の実質的裏金」とも言えます

今回はこの「内閣官房機密費」について考えてみたいと思います。

1.「内閣官房機密費」とは

官房機密費

「内閣官房機密費」は、正式には「内閣官房報償費」と呼ばれます。

領収書不要で、総理・官房長官の判断で自由に使えるお金です。

政府の公式見解では「情報収集、調査に必要な経費」としています。

政府の答弁書には、次のようにあります。

国の事務または事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費

しかしある関係者は「政権運営の維持のために使うお金」だと説明しています。

第2次安倍政権下では、約95億4000万円が支出されています。

(1)「報償費」とは

報償費(ほうしょうひ)とは、官庁の勘定科目の一つで、役務、負担に対し償う費用です。このうち支出の内容を明らかにする必要がなく、機密の用途に充てる予算に計上される経費機密費とも呼ばれます。

(2)「報償費」の種類

国家予算における報償費には、「内閣官房報償費」(内閣官房機密費)と「外務省報償費」(外務機密費)があります。

「内閣官房報償費」(内閣官房機密費)は、国政の運営上必要な場合に、内閣官房長官の判断で支出される経費です。「権力の潤滑油」という表現もあります。

会計処理は内閣総務官が所掌します。2002年度予算で前年を10%下回る14億6165万円になって以来現在までほぼ同額が毎年計上されてきました

そのうち12億3021万円内閣官房長官に一任され、残りは内閣情報調査室の費用に充てられています。

支出には領収書が不要で、会計検査院による監査も免除されており、原則使途が公開されることはないため、以前から不透明な支出に疑惑の目が向けられています

旧首相官邸時代には官房長官室に大金庫があり、いつも数千万円の現金が金庫に入っており、使用した翌日には事務方が現金を補充する仕組みになっていました。

「外務省報償費」(外務機密費)は、外交政策において必要な場合、支出される経費です。全省庁のなかで最も高く、毎年30億円近く計上されています。

地方予算における報償費としては、三重県で河川の公共工事の際に内水面漁協に立ち会いを要請した時に「報償費」として予算がつけられた例があります。

このほかに「捜査報償費」があります。これは警察が聞き込みや張り込みなどの捜査活動を行う際にかかる諸費用や、情報提供者への謝礼に使用できる経費で、国と県の予算からそれぞれ支出されます。

2.「内閣官房機密費」の歴史

「内閣官房機密費」は、1947年度(昭和22年度)から予算計上されるようになりました。

第二次世界大戦以前にも類似の制度があり、1928年アムステルダムオリンピックの選手団渡航経費に穴が空いた際には、内閣機密費(出典ママ)から1万円が充当された記録があります。

政府は1998年に支出の基準(内規)を設けましたが、2000年には官房機密費を渡した政治評論家の極秘リストとされるメモを入手したとする「FOCUS」の報道が世間を騒がせました

また、民主党は野党時代、「機密費流用防止法案」を国会に提出するなど、機密費の公開を時の政権に求めていましたが、2009年に政権党となった後は、「オープンにしていくことは考えていない」として公開はしない考えを示しました(平野博文)

一方、藤村修(野田内閣で官房長官)は2011年9月の会見で「将来的に相当の時間を経て公開されることはおかしいことではない。今後検討していく」と答えました。

2010年には、河村建夫元官房長官(自民党)が詐欺と背任容疑で告発された問題で、東京地検特捜部が官房機密費の使途を照会する方針を固めたとする報道がなされました

2018年1月19日の、上脇博之神戸学院大学教授らを原告とする裁判の最高裁の判断に従い、3月20日、最高裁が一部開示を命じた官房機密費の使途が一部明らかとなりました

今回の司法判断を受けてもなお個別の支出先や金額は明らかになりませんでしたが、内閣官房長官自らが管理し、領収書も不要な「政策推進費」(官房長官が受け取った時点で「支出完了」となるので、何に費消されたか知るのは本人のみ)として約9割が使われていたことが初めて明らかになりました。

これまで、国は「全面不開示」として黒塗りの文書さえ開示していません

3.「内閣官房機密費」に関して具体的に出てきた証言・発言

(1)『自民党はなぜ潰れないのか』という本の中での3人の発言

官房機密費について、「参院自民党の天皇」と呼ばれた村上正邦氏や元共産党参院議員、筆坂秀世氏、それに国会職員、参院議員をつとめた平野貞夫氏の三人が『自民党はなぜ潰れないのか』という本のなかで、次のように話しています。

村上「わしももらった、国対委員長のとき」

筆坂「それはそうでしょう」

村上「幹事長のときも持ってきたよ」

筆坂「やっぱり相当持って来ましたか」

村上「いや、それはそのときの官房長官によって違うね」

平野「それから与野党が激突するような案件があれば、やっぱりはね上がりますから」

村上「野党対策だけじゃない、与党内の対策にも機密費を使っている、それと私物化ですよ。飲み食いの費用にも、あるいは派閥の子分にも渡っている。闇の中ですよ」

会計検査院から使途のチェックを受けないのをいいことに、多くが自民党の党利党略に使われていたことは政界の常識です。

(2)野中広務の爆弾証言

その旨味を知り尽くした男が、このカネの使途をごく一部ながら暴露し、世間を驚かせたことがあります。小渕政権で官房長官をつとめた野中広務氏です。

野中氏は、官邸の金庫から毎月、首相に1,000万円、衆院国対委員長と参院幹事長にそれぞれ500万円、首相経験者には盆暮れに100万円ずつ渡していたということです。

衆参の国対関係者に機密費を渡していたのは野党工作のためでしょうが、首相経験者への高額な現ナマ贈答は単なる分け前としか思えません。

野中氏は「世論操作のため複数の政治評論家にカネをばらまいた」とも証言しました。

前の官房長官から引き継いだノートに、政治評論家も含め、ここにはこれだけ持って行けと書いてあった。持って行って断られたのは、田原総一朗さんただ1人

政治家から評論家になった人が、「家を新築したから3,000万円、祝いをくれ」と小渕総理に電話してきたこともあった

配った本人が言っているいるのだから、間違いありません。ペンや輪転機や電波をバックに金品をたかるなど、ジャーナリストの風上にも置けません。安倍官邸を取り巻いていた御用ジャーナリストたちはどうだったのでしょうか?

野中氏は官房機密費の実態を暴露した際、「国民の税金だから、政権交代を機に改めて議論し、官房機密費を無くしてもらいたい」と、証言にもっともらしい理由を付けました。むろん、年間十数億円もの資金を封じ込める圧力を新米の民主党政権にかけた感もありました。

しかしその意図はどうであれ、官房機密費そのものに疑念を生じさせる証言だったのは確かです。

官房長官からもらうカネほど安心して受け取れるものはありません。暗黙のうちに機密費から出ていると思えば、それを政治資金だろうと愛人だろうと遊興費だろうと、何に使っても誰にも咎められません。まさにブラックボックスのカネの出入り。絶対に表に出ない裏金です。

野中氏が「官房機密費を無くしてもらいたい」と先手を打ったために、鳩山政権の官房長官、平野博文官房長官は「そんなものがあるんですか」と空とぼけました。その後の会見で平野氏は「内閣・政府にとって重要な情報収集に対する対価であり、オープンにしていくことは考えていない」と建前論をぶって非開示を継続し、今に至っています。

「情報収集の対価として支払う」と言いますが、そんなことが毎月1億円を使わねばならないほどあるとは思えません。事実、他の目的でカネが配られていることをかつての官房長官が証言しているのです。

月に1億円ものカネを自由に使えるとなれば、使途公開という縛りはかけられたくないでしょう。しかし、「そもそも論」として、官房機密費が必要なのかどうかを考えてみなければなりません。実態と建て前がかけ離れたものに予算をつけるのは、官邸利権の温存に過ぎません。

(3)海部俊樹の証言

三木武夫内閣の内閣官房副長官で、第76・77代内閣総理大臣の海部俊樹は、文藝春秋で「何に使うかは、総理大臣の自由ですから、官房長官や官房副長官を使いにして各所へ配ったり、あるいは党から『資金が底をついた』と言って取りにくることもありました。そんなときは、『帰りに官房長官のとこへ寄って出してもらっていけ』と伝えるわけです」と証言しました。

(4)塩川正十郎の爆弾証言

塩川正十郎は宇野内閣の官房長官当時の状況について「外遊する国会議員に餞別として配られた」、「政府が国会対策の為、一部野党に配っていた」、「マスコミ懐柔の為に一部有名言論人に配られていた」など、実態を2001年1月28日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」で暴露しました。

そう言えば、明らかに政権寄りの発言をする「政治評論家」がいますが、彼らは「内閣官房機密費」をもらっていると見て間違いないと思います。

また逆に舌鋒鋭く政府を攻撃する「政治評論家」にも、懐柔策として「内閣官房機密費」が渡されていた可能性があります。

そういう意味で、「政治評論家」は、政権寄りの人も政権批判の人も「内閣官房機密費」の甘い汁を吸っているのは間違いないと私は思います。

しかし塩川正十郎は、財務大臣に就任後した2001年の国会でこれらの暴露について問われると、「 忘れてしまいました 」  、「 何であんなこと言うたのかなという気持ちでいっぱい」「何か週刊誌にいろんなことが書いてあったのが、何かさも自分が経験したようなことのつもりで錯覚に陥ってしまって、ああいうことを言ってしまったのかなと思う」などととぼけました。

(5)日本共産党による加藤紘一への追及

加藤紘一は宮沢内閣の官房長官当時、与野党政治家主催のパーティー券購入や会食背広の購入費出身高校同窓会費に使ったこと、さらには私的に流用したと、日本共産党が官邸の内部文書を入手して明らかにしました。なお、加藤当人は否定しています。

(6)野中広務の証言

野中広務は2010年に読売新聞の取材に応じ、小渕内閣の官房長官当時、毎月計5千万円最高で月計7千万円使ったと述べました。この証言は2009年9月に民主党への政権交代が起こり、使途を機密とする悪しき慣習の廃止を望んで行われました

使途は小渕恵三首相に月1千万円、自民党の国会対策委員長と参議院幹事長へそれぞれ月500万円。また、当時の議員の自宅建設費3千万円野党議員の北朝鮮訪問に際して要求に応じたとも述べました。一方複数の政治評論家にも盆暮れ等数百万円単位で配られたとも証言しており、マスコミの中立性を疑わせるものとして問題になっています

(6)鈴木宗男の証言

鈴木宗男は、2010年にTBSのインタビューで小渕内閣の内閣官房副長官当時の1998年沖縄県知事選挙で自民党が推薦する稲嶺惠一陣営に官房機密費3億円が渡されていたことを証言しています。

(7)自民党沖縄県連関係者の証言

なお、2001年にも自民党沖縄県連関係者が、同選挙に際して「官邸から知事選の資金が出たのは間違いない。私自身、選対の会議で報告を受けた。元は税金だからね。選挙に機密費を使ったなんて表に出たら大変なことになる」と証言しています。

(8)日本共産党による安倍晋三への追及

第3次小泉改造内閣で内閣官房長官を務めた安倍晋三が支出した官房機密費の使途公開を要求する行政訴訟がおこされました。日本共産党の塩川鉄也議員は、2010年3月10日の衆議院予算委員会にて、安倍が内閣官房長官在任期間中に「会合」の名目で計504回の官房機密費支出をおこなっていたことが判明したと主張しました。

(9)河村建夫が背任罪・詐欺罪で告発された事件

河村建夫が麻生内閣で官房長官当時、2009年8月の第45回衆議院議員総選挙で自民党が惨敗し下野が確定的になった翌9月5度に分けて合計2億5千万円を小切手で引き出していた(民主党が内閣官房を引き継いだ際には官房の金庫は空だった)ことが明らかになり、大阪市の市民団体「公金の違法な使用をただす会」から10年2月に背任罪・詐欺罪で告発されています(2011年10月に不起訴処分)。

また、この件に関しては、やはり、大阪市のオンブズマングループが国に対して使途の情報開示を求める訴訟を起こしています(一審・控訴審共に開示命令。これに基づき2018年3月、一部開示)

(10)鳩山由紀夫内閣の「河村建夫の2億5千万円支出は明らかに異様な支出」との答弁

鳩山由紀夫内閣は、2010年2月19日、この問題を質す衆議院議員鈴木宗男の質問主意書に対し、“前政権の個別の件については答える立場にない”としつつも、「明らかに異様な支出」とする答弁書を閣議決定しました。

2023年、河村は朝日新聞のインタビューに対し、選挙の陣中見舞いとして官房機密費を使ったと証言し、「官房長官として(応援に)呼ばれた際や、総裁が(応援に)行かないといけないケース」だと答えた。また、「野党対策とかの必要経費として(自民党の)国会対策委員会に渡した」と述べました。

(11)福田和也(文芸評論家)の証言

福田和也は「小泉時代にワタシが政権の悪口を書いていたら、内閣調査室の人間が来て、50万円を握らされそうになったことがある。ほしかったけど断ったけどね」と、石丸元章との共著『男の教養 ―トンカツ放談―』中で述べています。

(12)田原総一朗の証言

田原総一朗は「FOCUS」のスクープ記事が出た当時、「もらったことは一度もない」と否定。また2010年には、野中広務が自身の経験として持って行って断られたのは、田原総一朗さんだけと説明しました。しかし2012年1月26日の自由報道協会主催の会見において田原は、野中が述べた50万円という金額を明確に否定し、その金額が1000万円であったと明かしました

(13)馳浩・石川県知事の発言

馳浩・石川県知事は2023年11月17日、講演で、「国際オリンピック委員会委員への土産として1冊20万円のアルバムを製作した。安倍晋三首相に「馳、金はいくらでも出す。官房機密費もあるから」と言われてと発言しました。