日本語の面白い語源・由来(ね-③)佞武多・ネグリジェ・猫糞・捏造・根回し・寝耳に水・ネーブルオレンジ

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ねぶた

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.佞武多(ねぶた/ねぷた)

ねぶた

ねぶた(佞武多」とは、「紙貼りの扇・人形・動物などに火を灯して屋台や車に載せ練り歩く東北地方で行われる七夕行事のひとつ」です。特に、青森市・弘前市のものが有名です。弘前では「ねた」と呼びます。

ねぶたは「眠たし(ねむたし)」の語幹に由来する説が有力で、かつて各地で見られた「眠り流し」の行事が発展したものといわれます。

眠り流しの行事は、七夕に木の枝や藁人形を流すもので、秋の収穫期を前に、労働を妨げる睡魔をはらうために行われました。

ネムノキを目に擦りつけ、「ねぶた流し河流し」と唱えながら川に流す地方もあります。

青森市の「ねぶた」と弘前市の「ねぷた」の違いは、「ねむたい」を言うときの方言の違いと思われます。

「佞武多」「ねぶた」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・旅の夜の 佞武多囃子に 更けにけり(坂中紀子)

・武者佞武多 闇動かして 迫りくる(三浦恵子)

・眉月や 乙女の笛が ねぶた繰る(野田ゆたか)

・ねぶた舞ふ 燃え尽きさうな 一夜かな(八島厚子)

2.ネグリジェ/négligé

ネグリジェ

ネグリジェ」とは、「ワンピース型の婦人用寝巻き。部屋着。化粧着」のことです。

ネグリジェはフランス語「négligé」からで、英語では「night gown(ナイトガウン)」といいます。

「négligé」は、「無視する」という意味の動詞「negliger」、「だらしない」を意味する形容詞「neglige(e)」に由来し、ネグリジェは「だらしない服装」の意味で、寝巻きや部屋着を指すようになりました。

さらに遡ると、元はラテン語「neglegere」で、「neg」は否定、「legere」は拾い集めることです。
「後片付けや家事をしない」という意味から、「だらしない」「無視する」といった意味に転じた語です。

ネグリジェは17世紀頃からフランスで使われ始め、18世紀から19世紀には男女問わず着用されましたが、現代では婦人の寝巻きを指します。

3.猫糞/ネコババ(ねこばば)

猫糞

ネコババ」とは、「悪事を隠して知らんぷりすること。特に、拾った物を密かに自分の物にすること」です。

ネコババは、猫が糞をした後に砂をかけて隠すことからたとえたものです。
「糞(ばば)」は、大便など汚いものを指す幼児語です。

江戸時代後期頃から用いられた語と思われ、それ以前に「猫糞」の用例は見られません。
猫が自分の糞に砂をかけて隠すことにたとえたことわざに、悪いことをして知らん顔でいるさまをいう「にゃあが糞(ばば)した知らぬ顔」があるため、「ネコババ」も猫の習性に由来すると考えて間違いありません。

ネコババの本来の漢字表記は「猫婆」で、猫好きの老婆を語源とする説もあります。
この説は、猫好きの老婆が借金をなかなか返さなかったことから、知らんぷりする意味に転じたとするものですが、一人の無名な猫好き老婆の行動が、全国的に使われる言葉になるとは考え難いものです。

4.捏造(ねつぞう)

捏造

捏造」とは、「事実でないことを本当らしく作り上げること」です。でっち上げ。

捏造の「捏」は、土に水などを加えて練る意味の「捏ねる(こねる)」です。
つまり、「捏造」は「土をこねて形を造る」ことを意味しました。
そこから「形だけの偽物を造る」意味となり、「無から有を生ずる」という意味に転じました。

さらに転じて、事実でないことを本当かのように作り上げることを「捏造」と言うようになりました。

5.根回し(ねまわし)

根回し

根回し」とは、「関係者に意図や事情などを説明し、ある程度まで事前に了解を得ておくこと」です。

本来、根回しは木を移植する際、周囲をあらかじめ掘って根の一部を切り落とし、細根の発生を促進させることをいいます。
その「根回し」の意味から転じて、事をうまく運ぶために、あらかじめ手を打っておくことを言うようになりました。

本来の意味での「根回し」は、昭和初期の辞書にも見られますが、交渉などで「根回し」が使われ始めたのは昭和40年頃からで、一般化したのは昭和40年代半ば頃です。

6.寝耳に水(ねみみにみず)

寝耳に水

寝耳に水」とは、「不意の出来事に、ひどく驚くことのたとえ」です。

寝耳に水の「水」は、洪水などの濁流音のことです。

「耳」は「耳にする」など「聞こえる」という意味の「耳」で、「寝耳に水の入るごとし」の略です。

治水が完全でなかった頃は、よく川の水が氾濫しました。
寝ている時に突然、氾濫した川の水の音が聞こえてくると、非常に驚くことから、「寝耳に水」と言うようになりました。

寝ている時、耳の中へ水を注がれるような不意の出来事の意味で、「寝耳に水」になったとする説もあります。
しかし、多くの人が経験したことか、有名な人の経験話でなければ、この語源説は成立しません。

寝ている人の耳に水を注ぐイタズラ話は残っておらず、この説は「寝耳に水」をそのまま解釈しただけと考えられます。

7.ネーブルオレンジ/Navel orange

ネーブルオレンジ

ネーブルオレンジ」とは、「ブラジル原産のミカン科ダイダイ類の常緑低木で、オレンジの一品種」です。

ネーブル(navel)とは、「へそ(臍)」のことです。
果頂部(へたと反対部分)がへそ形に盛り上がっていることから、こう呼ばれるようになりました。

日本では「臍蜜柑(へそみかん)」や「臍橙(へそだいだい)」という地方もありますが、日本人がネーブルの形を見て名付けたのではなく、「ネーブルオレンジ」の訳からの命名と思われます。

ブラジルでオレンジの枝変わりとして発生したネーブルは、19世紀後半にカリフォルニアで2本の苗木から育成され、甘くて美味しい種無しオレンジとなりました。

ネーブルが日本へ輸入・移植されたのは、明治22年(1889年)といわれます。

「ネーブル」は春の季語です。