日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.棒棒鶏/棒々鶏/バンバンジー(ばんばんじー)
「棒棒鶏」とは、「蒸した鶏肉を細切りにし、すったごまにラー油・ごま油・醤油・酢・唐辛子などを混ぜたソースをかけた四川料理」です。
棒棒鶏の由来は、木の棒で叩いていたことからというのが定説となっています。
鶏肉を蒸したり茹でたりすると、水分が抜けて固くなり、パサパサとした食感になります。
固くなった鶏肉を柔らかくするため、木の棒で叩いて調理していたことから、「棒棒鶏」という名前が付いたといわれます。
2.万事休す(ばんじきゅうす)
「万事休す」とは、「もはや施すべき手段がなく、すべて終わりである。全く見込みがなく、何をしても駄目だと諦める」ことです。「万事窮す」と書くのは誤りです。
万事は「すべてのこと」「あらゆること」。
休すには「休む」や「休息する」の意味もありますが、ここでは「おしまいになる」を意味します。
万事休すの出典は、『宋史』の「荊南高氏世家」で、次の故事に由来します。
荊南の国に保勛という王子がおり、王に甘やかされて育ったため、人が怒ってにらんでもにこっと笑っていた。
その王子の姿を見た荊南の人々が、「万事休すだ(これで国はおしまいだ)」と言った。もしくは、王が保勛を溺愛する姿を見た人々が、「万事休すだ」と嘆いたという。
その後、保勛が王の座につくと、政治が乱れて国は滅びた。
3.バンジージャンプ/bungy jump
「バンジージャンプ」とは、「命綱を足に結んで数十メートルの高さからさかさまに飛び降り、地面や水面すれすれの所で止まるジャンプ」です。
バンジージャンプは、伸縮性のあるゴムの綱「バンジーコード」を使ってジャンプすることからの名です。
バンジーコードの「バンジー」は、「太くてしゃがんだもの」を意味するイングランド南西部の方言に由来し、ニュージーランドの方言で「ゴム紐」を意味する「bungy」となりました。
方言に由来する言葉なので、英語のスペルには「bungy」のほか、「bungee」「bunjee」もあります。
また、英語でバンジージャンプは「ropejumping」とも呼ばれます。
バンジージャンプというスポーツの元となったのは、バヌアツ共和国ペンテコスト島の成人の儀式「ナゴール」といわれます。
この儀式は、背の高い木にやぐらを作り、そのやぐらに縛ったツタを足首に巻きつけジャンプするものです。
そのナゴールを見たイギリスのオックスフォード大学「デンジャラス・スポーツ・クラブ」のメンバーが、1979年4月1日、高さ76mのクリフトン吊橋からジャンプしたのが、バンジージャンプの起源となっています。
4.パッチ
「パッチ」とは、「股引(ももひき)のこと」です。
パッチは、朝鮮語で「ズボン状の袴」の意味の「パジ(ba-ji)」に由来します。
江戸では宝暦(1751〜64年)の頃から流行し始め、縮緬・絹製のものを「パッチ」、木綿製のものを「股引」と呼んで区別していました。
京阪(関西)では、布の素材に関係なく、股脚の長いものを「パッチ」、旅行用の短いものを「股引」といいました。
股引を表す方言には、全国に「ぱち・ぱっちり・ばっち・ばっちい・ぺっち・わっち」などがあるが、いずれもパッチから派生した語と思われます。
5.麦雨(ばくう)
「麦雨」とは、「五月雨。梅雨」のことです。
麦が熟する頃に降る雨なので、梅雨のことを「麦雨」ともいいます。
また、麦の収穫の頃に吹く爽やかな風は「麦嵐(むぎあらし)」といいます。
6.パフェ/parfait
「パフェ」とは、「背の高いグラスにアイスクリーム、生クリーム、チョコレートソース、果物、ジャム、シリアル、ナッツなどを豪華に飾りつけたデザート」です。
パフェは、「完全な」を意味するフランス語「パルフェ(parfait)」に由来し、「完璧なデザート」の意味で名付けられました。
日本で「パフェ」と呼ぶのは、英語の発音によります。
稀に「パフェ」は「パーフェクト(perfect)」を語源とする説も見られます。
しかし、「parfait」と「perfect」は共にラテン語の「perfectus」に由来する同源の語で、フランス語「parfait」の意味として「パーフェクト」と訳すことは問題ありませんが、「perfect」から「parfait」になったわけではないため、パフェの語源を「パーフェクト」とするのは誤りです。
「パフェの日」が6月28日に定められたのは、野球のパーフェクトゲーム(完全試合)に由来します。
1950年6月28日、巨人の藤本英雄投手が日本プロ野球史上初のパーフェクトゲームを達成したことにちなみ、「parfait」のフランス語の意味とかけて、6月28日が「パフェの日」と定められました。
7.筈(はず)
「はず」とは、「当然そうなるべき道理である、当然そうなるだろうと確信を持っていることを示す言葉」です。「そうするはずだ」「そんなはずはない」なとど使います。
はずは、本来、弓の両端の弦の輪をかける部分や、矢の端の弓の弦を受ける部分のことです。
このうち、矢のはずは弦とぴったり合うようになっていることから、当然そうなることを「はず」と表すようになりました。
この意味での使用は、中世末期頃より見られます。
弓や矢の「はず」は端にあるものなので、「はずれ(外れ)」や「はすえ(端末)」に由来すると考えられます。
両者を区別するため、弓のはずは「弓弭(ゆみはず)」(上の図)と言い、矢のはずは「矢筈(やはず)」(下の図)と言います。
当然であることを示す「はず」は、矢筈に由来することから、漢字では「筈」と書きます。
8.腹いせ/腹癒せ(はらいせ)
「腹いせ」とは、「怒りや怨みを他方に向けてまぎらせ、気を晴らすこと」です。
腹いせの語源には、「腹を居させる」の意味とする説があります。
「居させる」というのは、立てた腹を「座らせる(しずめる)」という意味ですが、「さ」が脱落する理由が不明、「居せる」という動詞の使用例がないなど、疑問点も多い説です。
気持ちを落ち着かせるという意味であれば、「いせ」は「なぐさめる」「いたわりねぎらう」を意味する「慰する」で、「腹を慰する」を語源とする説が妥当です。