10年ほど前までは、「インバウンド」(外国人が日本を訪れる旅行)という言葉も聞かなかったし、中国人の観光客もそれほど多くなかったと思うのですが、日本政府の「訪日外国人旅行者増加計画」の影響もあって、コロナ前には大阪の心斎橋筋商店街は「爆買い」する中国人観光客であふれ返っていました。
訪日外国人旅行者数は、「日本政府観光局」(JNTO)の独自推計によると、2018年に3119万人、2019年に3188万人に達しました。
ただし2020年から2022年までは、コロナ禍のために中国人を含む外国人観光客が激減しました。
しかしコロナが落ち着いた2023年になると、欧米や東南アジアからの観光客が目立つようになりました。
この動きが順調に進めば、観光立国をめざす日本政府の「訪日外国人旅行者数目標」(2030年に6000万人)も、あながち夢のような不可能な目標でもないような気がします。
ただ今年は、春節に来日する中国人観光客は少ないようです。原因は「福島第一原発処理水の海洋放出」問題のしこりや、日中間の航空便数がコロナ禍前の6割程度にしか回復していないこともありますが、最大の要因は、今まで海外旅行を楽しんできた中国の中産層が、経済不安から財布のひもを締めたり、さらには没落し始めたりしていることです。
「春節」に中国人が日本にあまり来ないのは、迷惑行為が減るので、私は個人的には歓迎です。
ところで、中国の「春節」とはどんなものなのでしょうか?また、なぜ中国人はこの時期に旅行(大移動)するのでしょうか?
今回は、これについてわかりやすくご紹介したいと思います。
1.中国の「春節」とは
「春節」とは、中国・中華圏における旧暦の正月(旧正月)のことです。全世界の華人にとって最も大切で伝統的な祝日です。
新暦(太陽暦)と違って旧暦(太陰太陽暦)の正月のため、毎年春節の日は変わります(1月後半~2月前半)。
2024年の春節は2月10日(土)で、休み期間は2月10日(土)から2月17日(土)まで8連休になります。
春節は中国で一番盛り上がる時期です。春節の数日前から春節に向けての準備が始まります。地方により、龍の舞や獅子舞など祝い方もありますが、下記の祝い方は最も伝統的で、全国各地で行われます。
- 赤い灯篭、春聯など縁起物を飾りつけ
- 爆竹や花火を打ち上げ
- 「団欒飯」を食べる
- お年玉をあげる(もらう)
日本の「お正月」(1月1日~1月3日)と「お盆」と「ゴールデンウィーク」を合わせたような感じですね。
また、家族で集まってご馳走を食べるのも定番です。中でもとくに大晦日の夕食が重要視されます。毎年いい収穫があるという意味の「年年有魚(年年有余)」という言葉から、大晦日の夜には魚料理が欠かせません。
ほかにも地域によって違いがありますが、水餃子や焼き餃子、肉料理、餅、春巻き、あんの入った団子などを食べることが多いようです。
2.中国人が「春節」に旅行(大移動)する理由とは
今年は2月10日に旧正月「春節」を迎えた中国ですが、この時期、民族大移動ともいわれるほど旅行や帰省で人々が移動し、日本にも経済効果があると期待されています。
この民族大移動、中国当局は、「1月26日からの40日間で過去最多の延べ90億人になる」(*)とアピールしていますが、中国経済の悪化(不動産市況と株式市場が低迷し、景況感が悪化)により、実質14%減の見通しだそうです。
(*)実はこの「90億人」には自家用車で移動する約8割の72億人も含まれ、しかも昨年までは数字に加算されていなかった、一般道の走行車も今年から加えられたのです。
このように、従来とは異なるマイカーを含めた算出方法で「過去最多」の大移動をアピールしていますが、公共交通機関に限ったこれまでの方法では延べ18億人で、前年予想(約21億人)から14%減る見通しです。
「中国経済は明るい」という見通しを示し続けなければならない中国政府が、経済状況の悪化を隠すため春節の移動規模も膨らませたのではないかと言われています。
こうした”粉飾”を施さねばならないということは実際には逆の動き、すなわち、人々の間でお正月の「出控え」が起きている可能性があります。
中国政府の発表がいかにデタラメかがよくわかるエピソードです。
ちなみに中国の人口は、2022年末の総人口は14億1175万人です。
中国人が「春節」に旅行(大移動)する理由としては、次のようなことが考えられます。
・故郷や実家への帰省のため
・年に2回の大型連休を利用して海外旅行や国内の観光旅行をするため
なお、「春節は民族大移動が起きる」と聞いて「大量の中国人が旅行に出かける」と連想する人も多いと思いますが、その主な目的地は故郷であり実家です。
中国には1~2月の春節と10月前半の国慶節と、1週間以上の連休が年に2回あります。
春節は家族親せきで一家団らん、気候に恵まれた国慶節は旅行というのが、中国人のスタンダードな過ごし方になっています。
もちろん経済力の向上などもあって、春節にレジャーに出かける人も増えていますが、それも家族や親族単位での旅行が中心です。中国の春節=一家団らんという価値観は、日本よりもはるかに強いものです。
3.中国人が「春節」に日本に旅行したがる理由
春節に日本を訪れる中国人が多い理由は、いったい何でしょうか?
Trip.comによると、最近はかつてのような「日用品の爆買い」は減り、冬の日本でウィンタースポーツをしたい、雪を見たい、温泉を楽しみたいといった「コト消費」や、投資目的で東京の高級マンションを買いたいという中国人が増えているということです。
ほかにはショッピングや観光を目的に来る方も多く、テーマパークで遊ぶ、食事をする、アニメや映画作品の舞台となった場所を訪問する(アニメの聖地巡礼)などの目的でも人気があります。また日本は治安がよいため、安全性の高さも理由の一つに考えられているようです。
なお最近は「医療ツーリズム」(日本で高度できめ細かい医療サービスを受けることを目的とした旅行)も人気があるようです。