日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.文明(ぶんめい)
「文明」とは、「人間によって作り出された、精神的・物質的に生活が豊かになった状態。社会制度の整備などによって、経済的・物質的に快適である状態」のことです。
文明は、英語「civilization(シビリゼーション)」の訳です。
漢語での「文明」の意味は、学問や教養があって人格的にも優れ、世の中が開けて精神的・物質的に生活が豊かになった状態を表します。
一方、英語の「civilization」は、ラテン語で「都市」や「国家」を意味する「civitas」に由来する言葉で、ローマ時代の文明は「都市化」や「都市生活」を意味し、漢語の「文明」とはニュアンスが異なります。
「文化」と「文明」は同じ明治時代から使われ始めた語ですが、「文明開化」という成語が流行したことで、明治初期から一般的に使用された「文明」に対し、「文化」の語が一般に定着したのは明治20年前後です。
2.ブランコ/鞦韆(ぶらんこ/しゅうせん)
「ブランコ」とは、「吊り下げた二本の綱や鎖の下に横木をつり、それに乗って前後に揺り動かして楽しむ遊具」です。
ブランコは、擬態語の「ぶらり」や「ぶらん」から出た名前と考えられています。
揺れや振動を意味するポルトガル語の「balanço(バランソ)」に由来する説もあります。
しかし、江戸時代には「ぶらんこ」のほか「ぶらここ」や「ふらここ」とも呼ばれており、「ぶーらんこ」「ぶらりんこ」「さんげぶらりん」などの呼称もありました。
擬態語からであれば「ブランコ」を含むこれらの呼称に通じますが、「バランソ」から「ふらここ」や「ぶらりんこ」に変化することは考え難いものです。
ブランコを漢字では「鞦韆」と書き、「しゅうせん」とも読みます。
平安時代の『和名抄』や『色葉字類抄』では、「鞦韆」を「ゆさはり」と読ませています。
3.古い/故い/旧い(ふるい)
「古い」とは、「存在するようになってから長い年月が経過している。昔のことである。新鮮でない。珍しくない」ことです。
古いは、動詞「ふる(古・旧)」の形容詞形です。
動詞の「ふる」は、「へる(経る)」の古形「ふ」の連体形「ふる」から転生した語で、「ふるす」「ふるぶ」「ふるめく」など、多くの語を派生させています。
古いは、遠い昔に存在するもの、そうなってから長く経っているものの意味から、そのように感じるもの、変化がないもの、時代遅れなものについても表すようになりました。
4.プロポーズ/propose
「プロポーズ」とは、「申し込むこと。特に、結婚の申し込み。求婚」です。
プロポーズは、英語「propose」からの外来語です。
ラテン語で「前に置く」「見えるところに置く」を意味する「proponere」が、フランス語で「propose」となり、英語に入って「propose」となりました。
「proponere」の語構成は、「前に」を意味する「pro-」と「置く」を意味する「ponere」。
「前に置く」の意味から、「propose」は「提案する」「提出する」の意味となり、「申し込む」「求婚」も意味するようになりました。
日本で「プロポーズ」といえば、特に「求婚」を意味します。
5.相応しい(ふさわしい)
「相応しい」とは、「似つかわしい。よく似合っている。釣り合っている」ことです。
ふさわしいは、動詞「ふさう(相応う)」が形容詞化した語です。
ふさうは、平安時代に「ふれそふ(触添)」から変じた語で、「よく釣り合う」「似合う」という意味です。
漢字の「相応しい」は、意味から「相応(そうおう)」の字を当てたものです。
6.不貞腐れる(ふてくされる)
「ふてくされる」とは、「不平・不満があって、投げやりになったり反抗的になったりすること」です。ふてくさる。
ふてくされるの「ふて」は動詞「ふてる」で、漢字で「不貞」と書くのは当て字です。
ふてるは、「すねる」「投げやりな行動に出る」「強情を張る」などを意味する言葉で、「ふてぶてしい」の「ふて」と同じく、「ふとい(太い)」の「ふと」からと考えられます。
ふてくされるの「くされる」は「腐る」で、「いばり腐る」「まじめ腐る」というように、相手の動作に対して軽蔑や罵りの気持ちを表します。
7.不倫(ふりん)
「不倫」とは、「道徳に反すること。特に、男女関係で人の道に背くこと」です。
不倫の「倫」は、漢語では「仲間」「類い(たぐい)」の意味をもちます。
同列に並んだ仲間ということから、「倫」は人間同士のきちんと整理された関係を表し、「秩序」「道徳」という意味に派生しました。
「倫(道徳)に反する」という意味の「不倫」は日本で作られた言葉で、明治時代から見られます。
戦前から、「道徳的に許されない恋愛」の意味でも使われ始めましたが、その後は一時、死語となっていました。
再び、「不倫」の語が使われ始めるようになったのは、1983年頃です。
愛人契約の仲介をする「愛人バンク」の『夕ぐれ族』や、TBSのテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』などの影響によるもので、それ以降は、男女関係に限定した使い方がされています。
8.ブートレグ/ブートレッグ/bootleg
「ブートレグ」とは、「著作権者に無断で複製・販売されたレコードやCD、DVD」のことです。海賊盤。
ブートレグは、英語「bootleg」からの外来語です。
本来、「bootleg」は「密造酒」や「密売酒」を意味した言葉ですが、転じて海賊盤も意味するようになりました。
「bootleg」は「boot(ブーツ)」と「leg(脚)」からなる語なので、「ブートレッグ」とも言います。
ブートレグが「密造酒」を意味するようになったのは、密造酒を入れたスキットルをブーツに隠して密輸していたことに由来します。