日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.祭/祭り(まつり)
「祭り」とは、「神仏や祖先の霊に祈願、感謝する儀式」です。
祭りは、動詞「祭る」の連用形の名詞化です。
神仏に物を献上したり、差し上げることが祭りの原義と見られるため、謙譲語「たてまつる」と同じ意味の「奉る(まつる)」と同源と考えられます。
「待つ」を語源とする説もありますが、アクセントや意味から考えて不自然です。
「祭」は夏の季語季語で、次のような俳句があります。
・大雨に 獅子を振りこむ 祭かな(村上鬼城)
・値段立つ 繭天皇の 祭かな(菅原師竹)
・隣村の 疲弊目に見る 祭かな(島田青峰)
・真円き 月と思へば 夏祭(中村汀女)
2.マネキン/mannequin
「マネキン」とは、「衣料品店などで衣服を着せて展示・陳列する等身大の人形。マネキン人形。商品を使い宣伝・販売を促進する人」です。マヌカン。
マネキンは、フランス語の「mannequin(マヌカン)」が語源です。
「mannequin」は、「小人」「人体解剖模型」「美術・衣装店の人体模型」を意味する「manikin」と同じ語系です。
日本では「マヌカン」が「招かん(まぬかん)」に通じ、縁起が悪いことから、「マネキン」と発音するようになったといわれます。
この発音に決定された由来は、福助などの「招き人形」や招き猫などと「マヌカン」をかけたとする説や、「招金(まねきん)」とかけたとする説などがあります。
英語の発音から「マネキン」になったとも言われるが、英語でも「マヌカン」に近い発音です。
元々「mannequin」には、「ファッションモデル」のような意味と「マネキン人形」の意味がありますが、日本では「マネキン人形」の意味として使われる方が早く、大正14年(1925年)に登場しました。
実際に商品を身に付けて販売するマヌカンの意味で使われたのは、昭和3年(1928年)、上野公園で開催された『大礼記念国産振興東京博覧会』において、高島屋呉服店が登場させた「マネキンガール」が最初です。
3.幕の内弁当(まくのうちべんとう)
「幕の内弁当」とは、「俵形の握り飯と数種類のおかずを詰め合わせた弁当」です。単に「幕の内」とも言います。
幕の内弁当は、江戸時代の芝居見物に由来します。
芝居で舞台の幕が下り、次の場面で幕が上がるまでのことを「幕の内」や「幕間(まくあい)」と言い、その間に食べる弁当として、俵形の握り飯と数種類のおかずを詰めたものが考案され、「幕の内弁当」と名付けられました。
相撲の小結を「幕内力士」や「幕の内」とも呼ぶことから、小さいおむすびと小結をかけたとする説もありますが、小さな握り飯は芝居の幕間に食べやすくしたもので、相撲見物の時に食べるために作られた弁当でもないので、相撲の「幕内」が語源ではありません。
上記のように、本来の幕の内弁当の条件は、俵形の握り飯と数種類のおかずで、握り飯には胡麻がかかったものです。
しかし、一般にも「幕の内弁当」の名で販売されるようになってからは、数種類のおかずという点は変わりませんが、俵の型を押した白飯に胡麻をかけたものが登場しました。
やがて、元々は俵形の握り飯であったことも忘れられ、普通に白飯を詰めて胡麻をかけたものが販売されるようになり、更に白飯を詰めただけのものも「幕の内弁当」として販売されるようになりました。
現代では、白飯と数種類のおかずが入っていることのみが、幕の内弁当の条件となっているようです。
4.豆(まめ)
「豆」とは、「マメ科植物の種子。特に、大豆・小豆など食用になるものの総称」です。
豆の語源は、以下の通り諸説あります。
①「円実(まろみ)」や「丸味(まるみ)」が短縮され、「まめ」になったとする説。
②「旨き味(うまきみ)」の音変化が繰り返されたとする説。
③外皮に実がはめられていることから、「実填め(みはめ)」の短縮とする説。
古くから「豆」は「大豆」さすことが多く、ひらがな表記の「まめ」は健康なさまを表す言葉として使われた文献が多く見られます。
5.万引き(まんびき)
「万引き」とは、「客のふりをして店から商品を盗むこと。また、その者」です。
万引きは、商品を間引いて盗むことから、「間引き」が語源で撥音「ん」が入ったといわれます。万引きの「万」は当て字です。
「間」には「運」の意味もあるため、「間」と「運」が結合され、運を狙って引き抜くという意味で「まんびき」になったとする説や、万引きはタイミングを見計らい盗むことから、タイミングの「間」からといった説もあります。
江戸時代から使われている言葉なので、どの説も正しく思えますが、商品を間引いて盗む「間引き」の説が有力とされています。
6.マンネリ
「マンネリ」とは、「新鮮さや独創性がないこと」です。
マンネリは、英語「mannerism(マンネリズム)」の略で、芸術や文学、演劇などの型にはまった手法や、様式や態度への強い固執などを意味します。
「マンネリズム」は、「行儀」「作法」「礼儀」や、きまりきった癖や作風を意味する「manner(マナー)」から生まれた言葉です。
7.間抜け(まぬけ)
「間抜け」とは、「考えや行動に抜かりがあること。また、そのような人」です。「阿呆」「とんま」「のろま」などと同様に、愚鈍な人を罵っていう語です。
間抜けの「間(ま)」は、時間的な間隔の「間」です。
芝居や舞踏、漫才などで「間」は、音や動作の休止の時間的長短のことを言い、拍子やテンポの意味にも用いられます。
「間が抜ける」ことは、「拍子抜けする」「調子が崩れる」ことであり、テンポが合わないことを意味しました。
転じて、間抜けは行動に抜かりがある意味となり、さらに愚鈍な人を罵る言葉になりました。