日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.郵便(ゆうびん)
「郵便」とは、「はがきや手紙・小包などを送達する通信制度。また、それによって送られるもの」です。
「郵便」は、和製漢語です。
郵便の「郵」は伝令の中継をするための頓所や、飛脚の中継をする宿場を意味します。
「郵」を使った漢語には、宿場から宿場へ文書を送ることを意味する「郵伝」、駅伝で送る便りを表す「郵信」、文書を送る意味の「郵送」などがあります。
郵便の「便」は「便り」や「手紙」の意味があり、この二つを合わせて「郵便」と名付けられました。
近代日本の郵便制度はイギリスの制度を真似たもので、明治4年(1871年)、前島密によって国営事業として発足され、それまでの飛脚に取って代わりました。
2.結納(ゆいのう)
「結納」とは、「婚約成立の証として家同士が金品を取り交わす儀式。また、その金品」のことです。
結納は、結婚の申し込みや婚約の際の儀式をさす「言ひ入れ(いひいれ)」が変化した語です。
動詞「言ふ」が語形の変化で「ゆふ」となったのに伴ない、「言ひ入れ」も「ゆひいれ」に変化しました。
「ゆひいれ」に合わせた形で、新たに「結納(結ひ納れ)」の漢字が当てられ、「結納」が湯桶読み(上を訓読み、下を音読みにする読み方)されて「ゆひのう」となりました。
さらに、ハ行点呼音によって「ゆひ」が「ゆい」となり、「結納」は「ゆいのう」となりました。
3.ユーモア/humor
「ユーモア」とは、「上品で気が利いた洒落」のことです。
ユーモアは、英語「humor」からの外来語です。
「humor」は、「湿気」「体液」を意味するラテン語「フモール」に由来し、中世の医学用語として「ユーモア」の語は用いられていました。
中世の医学では、4種の体液「血液」「粘液」「胆汁」「黒胆汁」のバランスによって人間の気質が変化するという、体液学説の概念が重要視されていました。
ユーモアに変化を与えることで人の気質が変わり、笑いにも繋がることから、人の心を和ませるような洒落を意味するようになりました。
4.湯葉(ゆば)
「湯葉」とは、「豆乳を煮立て、表面にできる薄い膜をすくい取った食品」です。生湯葉と干し湯葉があります。
古くは「うば」と言い、室町時代の文献には「豆腐のうば」の例も見られます。
湯葉を「うば」と呼んでいたことに合わせ、シワがある少し黄色い肌にも見えることから、老婆の顔に見立て「姥(うば)」を語源とする説もありますが、上端の意味で「上(うは)」から変化して「うば」となり、「ゆば」になったと考えるのが妥当です。
「うば」が「ゆば」と呼ばれるようになったのは18世紀の終わり頃で、「うば」の漢字は「豆腐皮」か「湯葉」でした。
「ゆば」の漢字は「湯波」や「油皮」とも書きますが、いずれも当て字です。
5.雪(ゆき)
「雪」とは、「気温が摂氏0度以下の大気の上層で、雲中の水蒸気が結晶して地上に降る白いもの」です。
雪の語源は、以下の通り諸説あります。
・「神聖であること」「いみ清めること」を意味する「斎(ゆ)」に、「潔白(きよき)」の「き」。
・「潔斎(けっさい)」を意味する「斎潔(ゆきよし)」から。
・「緩水(ゆるやかひ)」や「冷気(ひゆけ)」の転、「深雪(みゆき)」の上略。
雪は古くから信仰の対象とされており、大雪の年は豊年の兆しと考えられていました。
そのため、「斎(ゆ)」に「潔白(きよき)」の「き」。もしくは、「斎潔(ゆきよし)」の説が有力とされています。
「雪」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・たふとさや 雪降らぬ日も 蓑と笠(松尾芭蕉)
・我雪と おもへば軽し 笠のうへ(宝井其角)
・花となり 雫となるや けさの雪(加賀千代女)
・寝ならぶや しなのゝ山も 夜の雪(小林一茶)
6.浴衣(ゆかた)
「浴衣」とは、「木綿で作った単衣(ひとえ)の着物」です。
漢字の「浴衣」は当て字で、ゆかたは「湯帷子(ゆかたびら)」の略です。
「湯帷子」は入浴時や入浴後に着る「帷子(かたびら)」のことで、「帷子」とは夏用の単衣の着物を意味し「片枚(かたびら)」とも書かれます。
平安中期の『和名抄』には、「内衣 布で沐浴の為の衣也」とあります。
江戸時代以降、入浴に関係なく夏に着る単衣も「ゆかた」と言うようになりました。
「浴衣」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・鬼灯の 種にきはづく 浴衣かな(森川許六)
・おもしろう 汗のしみたる 浴衣かな(小林一茶)
・老が身の 着かへて白き 浴衣かな(村上鬼城)
・降り濺(そそ)ぐ 灯影(ほかげ)うれしき 浴衣かな(日野草城)
7.指切りげんまん(ゆびきりげんまん)
「指きりげんまん」とは、「約束を必ず守る証として、互いの小指を曲げ絡み合わせて誓うこと」です。「指きり」とだけ言うこともあります。子供の場合は「指きりげんまん嘘ついたら針千本飲ます」と歌うように唱ることが多いようです。
指切りげんまんの「指切り」は、遊女が客に愛情の不変を誓う証として、小指を切断していたことに由来します。
やがて、この「指切り」が一般にも広まり、約束を必ず守る意味へと変化しました。
指切りげんまんの「げんまん」は、漢字で「拳万」と書きます。
約束を破った時は、握りこぶしで1万回殴る制裁の意味で、「指切り」だけでは物足りず、後から付け足されたものです。
「げんまん」と同様に、「針千本飲ます」も後から付け足されたものです。
「針千本」は魚の「ハリセンボン」とする説もありますが、魚の「ハリセンボン」であれば「食わせる」と表現されるべきで、全くの俗説です。
これはそのまま、針を千本の意味と捉えればよいでしょう。
8.夢(ゆめ)
「夢」とは、「睡眠中に見る幻覚体験」です。
夢の語源は「寝目(いめ)」で、「寝(い)」は「睡眠」、「目(め)」は「見えるもの」の意味です。
平安時代頃より「ゆめ」に転じ、「はかなさ」など種々の意味で比喩的にも用いられるようになりました。
夢が「将来の希望」の意味で使われ始めたのは、近代以降です。