日本語の面白い語源・由来(よ-①)夜船・蘇る・呼び水・縒りを戻す・羊水・読む・邪

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夜船

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.夜船(よふね)

夜船

夜船」とは、「おはぎ(ぼたもち)をいう女房詞。夏のおはぎ」です。

夜船の語源は、二説あります。

ひとつは、おはぎの作り方に由来する説。
おはぎはもち米とうるち米を混ぜて炊き、すりこぎで半つきにして作るため、餅と違って杵を搗く(つく)音がせず、いつ搗いたか分からない。
夜の船は暗くて、いつ着いたか分からない。
そこから、「いつの間にか搗く」と「いつの間にか着く」を掛けて、おはぎを「夜船」と呼ぶようになったとする説。

もうひとつは、おはぎの見た目に由来する説。
おはぎは中が白く、外が黒いところから、中が明るく、外が暗い夜船にたとえたというものです。

断定はできませんが、おはぎの別名の多くは「搗く」に由来するため、夜船も「着く」に掛けたと思われます。

2.蘇る(よみがえる)

蘇る

蘇る」とは、「一度死んだもの、死にかけたものが生き返る。一度衰退したものが力を得て再び盛んになる」ことです。

蘇るの語構成は、「よみ(黄泉)」+「かえる(帰る)」。
死者が行くところとされる黄泉の国から帰るの意味で、生き返ることを表します。

720年の『日本書紀』では「ヨミカヘリ」に「蘇生」、850年頃の天理本『金剛般若経集験記』(平安初期点)では「ヨミカヘル」に「蘇活」の漢字が使われており、「甦る」よりも「蘇る」の方が古いことがわかります。

衰えたものが再び盛んになる意味で「蘇る」を用いた例は1900年代初頭から見られ、「復活」や「蘇生」の字が当てられています。

3.呼び水(よびみず)

呼び水

呼び水」とは、「ある事態を引き起こすきっかけになった事柄」のことです。誘い水。

呼び水は、ポンプで揚水しようとしても水が出てこない場合に、別に用意した水のことです。
この水をポンプの胴内に入れ、中の空気が逃げないようにして水を引き上げることから、水を誘い出すために用いる水なので「呼び水」といいます。

これが事態を引き起こす契機になった行為や出来事の意味にも広がり、「不用意な発言が呼び水となる」などと使うようになりました。

4.縒りを戻す/よりを戻す(よりをもどす)

縒りを戻す

よりを戻す」とは、「別れた男女が元の関係に戻ること。復縁すること」です。

よりを戻すの「より」は、糸などの細かいものを何本かねじり合わせることを意味し、漢字では「縒り」と書きます。

この絡まった「縒り」をほどいて元の状態に戻すことが、「縒りを戻す」の本来の意味です。
江戸時代後期から、複雑にこじれた人間関係を元に戻すことも、「よりを戻す」と表すようになりました。

当初は兄弟関係などにも使われましたが、現代では男女関係を修復する場合に限って使われるようになっています。

男女関係の意味で使う「よりを戻す」には、「こじれた関係」というニュアンスは含まず、「修復」に重点を置いて用いられます。

5.羊水(ようすい)

羊水

羊水」とは、「妊娠時に羊膜の内側を満たす液」です。胎児を保護し、分娩時に流出して出産を容易にします。

羊水は、羊膜の内側を満たす液であることからの名です。
羊膜は英語で「amnion」といい、「amnion」はギリシャ語で「仔羊」を意味する「amnos」に由来します。

羊膜の語源が仔羊であるのは、生まれたばかりの膜に包まれた羊からの連想や、柔らかさが仔羊に似ているからとする説。
生贄の羊の血を入れる容器を「amnios」といい、血が混ざっていて生贄の羊の血を入れた容器のように見えたことから、また、羊膜の形がその容器に似ていたことからなど諸説あります。

6.読む/詠む(よむ)

読む

読む」とは、「文章・詩歌・経文など文字で書かれたものを一字ずつ声に出して言う。文字や文章を見て意味や内容を理解する。推測する。数を数える」ことです。
詠む」とは、「詠ずる。詩歌・俳句を作る」ことです。

よむの語源は諸説あり、「よぶ(呼)」の意味や、「よびみる(呼見)」の意味とする説あたりが妥当と思われますが、断定が困難です。

「読む」にはいくつかの意味がありますが、数を数える意味で用いられた例が古いものです。
文章などを一字ずつ声に出して言うことも、数を数えるように一音ずつたどりながら唱えるという意味に通じます。

詩歌などを作る意味の「詠む」も、本居宣長の『古事記伝』に「又歌を作るを余牟(ヨム)と云も、心に思ふことを数へたてて云出るよしなり」とあるように、数えることに通じます。

7.邪(よこしま)

邪

よこしま」とは、「正しくないこと。道理にはずれていること」です。

よこしまは、「よこ(横)」に接尾語の「し」と「ま」が付いた語です。
接尾語の「し」は、方向を示す接尾語「さ」と同じもの。横の方向を意味する「横さ」「横し」という語もあり、よこしまは「横さま」ともいいます。

よこしま同様の構成の語には、「逆さま」「逆しま」「逆さ」があります。
よこしまは、本来、横の方向であることや、そのさまを意味し、そこから、心の向きが正しくない(横を向いている)ことを意味するようになりました。

よこしまは「横しま」からですが、その反対で道理をわきまえていることを「たてしま(縦しま)」とは言いません。

漢字の「邪」は、元々「琅邪」という中国の古地名を表した字ですが、「牙」に「食い違い」の意味があることから、よこしまに「邪」の字が当てられました。

「邪」の「牙」は、二本の柱に切りこみを入れ、噛み合わせて繋いださまを描いた象形文字で、ちぐはぐに噛み合う歯を表します。