エモい古語 天文(その3)宇宙 乾坤・玉兎・十六夜・月虹・積尸気・北辰・真珠星・星合

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宇宙

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.宇宙

・天地(あめつち):天と地。宇宙。世界全体。

・乾坤(けんこん):天と地。陰と陽。

「乾坤一擲(けんこんいってき)」という四字熟語は、「運を天にまかせて、のるかそるかの大勝負をすること(天下をかけて一度さいころを投げる意から)」という意味です。

・日月星宿(じつげつせいしゅく):太陽と月と星と星座。

・日月星辰(じつげつせいしん):太陽や月、星などの天体が交わるところ。天空。空。「星辰」は星々のこと。「辰」は、時間の経過につれて動く天体で、日・月・星の三つを「三辰(さんしん)」と言います。

2.月

・玉兎(ぎょくと):月の異名。月の中にウサギが住むという伝説から。「銀兎(ぎんと)」「兎影(とえい)」「霊兎(れいと)」という異名もあります。

月

太陽には三本脚のカラスがいるという想像から生まれた太陽の異名「金烏(きんう)」と対になっており、「金烏玉兎(きんうぎょくと)」で太陽と月のことです。

・玉兎銀蟾(ぎょくとぎんせん):月の異名。「銀蟾」は中国の伝説で月にいるというヒキガエル。嫦娥(じょうが)という美女が不老不死の薬を盗んで飲み、ヒキガエルに姿を変えて月にのぼったとされます。

・月人壮子(つきひとおとこ):月の舟を漕いで天の川を渡る男。または月を擬人化した言葉。

中国の伝説で、呉剛という男が罪を犯した罰として月に流され、切るそばから元に戻る桂(中国では木犀のこと)の大木を切り続けているとされたことに由来します。

この「桂男」(かつらお/かつらおとこ)は、日本文学において美男の代名詞となりました。

万葉集」に次のような歌(詠み人知らず)があります。

「天(あめ)の海に 月の舟浮け 桂楫(かつらかじ) 懸けて漕ぐ見ゆ 月人壮子(つきひとをとこ)」(意味:広大な夜空の天海に月の舟を浮かべ、桂で作った楫を操って海を渡っていく月男が見える)

・細好男(ささらえおとこ):細身でかっこいい男。月の異名。

「ささら」は細い、「えおとこ」はいい男の意。

・月の都(つきのみやこ):月の中にあるとされる宮殿。「月宮殿(げっきゅうでん/がっきゅうでん)」とも言います。秋の季語。

・天の印(あめのおしで):天に押した印という意味で、月のこと。または天の川の異称。

・天満つ月(あまみつつき):空いっぱいに輝く月。満月。

・月天心(つきてんしん):天頂近くを通る冬の満月。「天心」とは、天の中心のこと。中国・北宋の邵康節(しようこうせつ)の詩「清夜吟」の一節「月天心に到る処(ところ)」を踏まえたもの。

与謝蕪村に次のような俳句があります。

「月天心 貧しき町を 通りけり」(意味:月が天心に高く照る夜半、貧しい町を通り過ぎたなあ)

・月魄(げっぱく):月の精。月神。

・上弦(じょうげん):新月から満月の間に出る右半円状の月。弓でいう弦の形を上にして沈んでいくことからついた呼び名。「上つ弓張(かみつゆみはり)」「上の弓張(かみのゆみはり)」とも言います。

上弦

・下弦(かげん):満月から次の新月の間に出る左半円状の月。弓でいう弦の形を下にして沈んでいくことからついた呼び名。「下つ弓張(しもつゆみはり)」「下の弓張(しものゆみはり)」とも言います。

下弦

・月の舟(つきのふね):上弦の月のこと。形が舟を連想させることから。

・偃月(えんげつ):半円の形の月。半月。「弓張月(ゆみはりづき)」とも言います。

・片割れ月(かたわれづき):半分、もしくはそれ以上欠けた月。半月。秋の季語。

・繊月(せんげつ):三日月などの細い月。秋の季語。

三日月

・銀鉤(ぎんこう):新月をたとえていう語。銀製の釣り針という意味から。

・朧月(おぼろづき):雲や靄(もや)などに包まれてぼんやりかすんで見える春の月。春の季語。

朧月夜

・朧夜(おぼろよ):朧月の夜。「朧月夜(おぼろづくよ/おぼろづきよ)」とも言います。春の季語。

高野辰之作詞・岡野貞一作曲の文部省唱歌「朧月夜」を倍賞千恵子の歌でご紹介します。

・二日月(ふつかづき):陰暦二日の夜に出る月。特に八月二日の月を言います。日没後まもなく消える細い月なのであまり目立ちません。秋の季語。

・十三夜(じゅうさんや):陰暦十三日の夜。またはその夜の月。特に陰暦九月十三日の夜の月は、中秋の名月(陰暦八月十五日)に並ぶ名月とされ、お供えするものにちなんで、「栗名月(くりめいげつ)」「豆名月(まめめいげつ)」とも言われます。秋の季語。

演歌歌手・藤島桓夫(ふじしま たけお)の「月の法善寺横丁」という歌にも出てきましたね。

・十六夜(いざよい):陰暦十六日の夜。またはその夜の月。日没後にためらう(=いざよう)ように遅れて出る月の意から。秋の季語。

藤原為家の側室・阿仏尼によって記された鎌倉時代の有名な紀行文日記「十六夜日記」がありますね。

ほかに「十六夜咲夜(いざよいさくや)」というアニメ・ゲームのキャラクターがあるそうです。

十六夜咲夜

ただ、「鬼滅の刃」もそうですが、ほかのアニメにも古語がこのように使われているのは、やはり古語がエモいからかもしれませんね。

・月冴ゆる(つきさゆる):冷たい空気の中で冴えわたる冬の月の様子。冬の季語。

・暁月夜(あかときづくよ/あかつきづきよ):夜明けに月が残っている空のさま。また、その月。

有明の月

・残んの月(のこんのつき):明け方になっても残っている月。

・雨月(うげつ):満月が雨雲で見られないこと。秋の季語。

上田秋成(1734年~1809年)の「雨月物語」という読本がありますが、題名の由来をご存知でしょうか?

秋成自身が序文で、「雨は霽れ月朦朧の夜、窓下に編成し、以て梓氏に畀ふ。題して雨月物語と云ふ」(意味:雨がやんで月がおぼろに見える夜に編成したため、雨月物語という)と書いています。なお物語中、怪異が現れる場面の前触れとして、雨や月のある情景が積極的に用いられています。

・孤月(こげつ):さびしく見える月。

・蘿月(らげつ):ツタ(蔦)の葉の間から見える月。

「松風蘿月(しょうふうらげつ)」という四字熟語は、「(松に吹く風と、ツタカズラを照らす月の意から) 俗世に汚れていない自然を、象徴的にいう語。また、それを愛する境地のこと」です。

・弄月(ろうげつ):月を眺めて楽しむこと。

・月華(げっか):月の光。

・月映え(つきばえ):月の光に照らされて美しく映えること。

・月虹(げっこう):月の光により生じる虹。「月光虹」「ムーンボウ(moonbow)」とも言います。

ムーンボウ

・夜天光(やてんこう):月の出ない晴れた夜の自然な光。星明り。

3.星

・星斗(せいと):星の総称。星辰(せいしん)。

・五星(ごせい):中国で古代から知られている、肉眼で見える五つの太陽系の惑星。

「熒惑(けいこく)」(火星)・「辰星(しんせい)」(水星)・「歳星(さいせい)」(木星)・「太白(たいはく)」(金星)・「鎮星(ちんせい)」(土星)。

これに日・月(太陽と月)を加えたものを「七曜(しちよう)」と呼びます。

・熒惑(けいこく/けいわく):火星の古代中国名。「五星」のひとつ。

中国の伝説では、熒惑は子供の姿になって地に降り、子供たちにまじって遊びながら、未来を予言する歌を歌うとされます。すぐれた歌い手のもとを毎夜たずねてきて一緒に歌遊びをし、明け方海の中へ消える人の話を聞いた当時9歳の聖徳太子が、それは熒惑星だと言ったという話が伝えられています。(「聖徳太子伝暦」)

また、「心宿(しんしゅく)」(さそり座アンタレス)のあたりでうろうろする現象は、「熒惑守心」と称され、不吉の前触れとされました。

・夏日星(なつひぼし):火星の和名。「火夏星(ひなつぼし)」とも言います。

・夕星(ゆうつづ/ゆうづつ):夕方、西の空に見える金星。「宵の明星 (よいのみょうじょう) 」「黄昏星(たそがれぼし)」とも言います。

・九曜(くよう):インド天文学が扱う九つの天体とそれを神格化したもの。

唐の時代に中国に伝えられました。日・月と五星(火・水・木・金・土)の七曜に、計都星(けいとせい)と羅睺星(らごしょう/らごせい)を加えたもの。

・計都星(けいとせい):九曜のひとつで架空の星。

インド神話では神々が飲む水(甘露)を盗み飲んだアスラ(中国に伝わって「阿修羅(あしゅら)」と表記された)が神に殺され、胴体が計都星、首が羅睺星になったとされます。両手に日月を捧げ、憤怒の顔で青龍に乗って現れます。

・羅睺星(らごしょう/らごせい):九曜のひとつで架空の星。

太陽と月を飲み込んでは日食や月食を起こすとされます。

・天満つ星(あまみつほし):夜空一面の星。

・星羅(せいら):星が空に羅列するように、ものがたくさん並ぶこと。

・綺羅星(きらぼし):「綺羅、星の如し」から生まれた語。きらきらと光り輝くたくさんの星。

「綺」は綾織の絹、「羅」は薄絹のことで、「綺羅」は美しい衣服の意。「煌星」とも書きます。

・かけら星(かけらぼし):欠片(かけら)のように小さな星。星屑(ほしくず)。

・雛星(ひなぼし):小さくてかわいい星。

・星彩(せいさい):星々のきらめき。またはサファイアやルビーなどの鉱物片に光を当てたときに見られる星形の光像。

・星芒(せいぼう):星の光。

・星の宿り(ほしのやどり):古代中国の星座である「星宿(せいしゅく)」を訓読みした語。

・積尸気(せきしき):かに座プレセペ星団の古代中国の呼び名。

「積み重ねた死体から出る気」という意味で、青白く見えることからこう呼ばれました。

・北辰(ほくしん):北極星の異名。ポラリス。紫微星(しびせい)。

北極星

団塊世代の私が子供の頃よく読んだ漫画の主人公「赤銅鈴之助(あかどうすずのすけ)」は、「北辰一刀流(ほくしんいっとうりゅう」の千葉道場で剣の稽古に励んでいましたね。

赤銅鈴之助

・天狼星(てんろうせい):太陽以外で最も明るく見える恒星シリウスの中国名。「天狼」とも言います。

シリウス

青白い輝きを狼の目の光にたとえたもの。「青星(あおぼし)」「雪星(ゆきぼし)」「光坊主(ひかりぼうず)」などの異名もあります。

・貪狼星(とんろうせい/どんろうせい):中国の星学で、北斗七星の第一星の名前。

「魁星(かいせい)」「文昌星(ぶんしょうせい)」とも呼ばれ、学問や文章をつかさどる神として信奉されました。なお、北斗の柄先の第七星は「破軍星(はぐんせい)」と呼ばれ、これが指す方角は凶とされました。

・雨降星(あめふりぼし):古代中国の星座二十八宿のひとつ「畢宿(ひっしゅく)」の和名。おうし座のヒアデス星団のこと。

・虚星(とみてぼし):古代中国の星座二十八宿のひとつ「虚宿(きょしゅく)」の和名。みずがめ座のβ星と、こうま座のα星を指します。

・魂緒の星(たまおのほし):古代中国の星座二十八宿のひとつ「鬼宿(きしゅく)」の和名。かに座の中心部の四星を指します。

・金星銀星(きんぼしぎんぼし):ふたご座のβ星ポルックスとα星カストルの色を金と銀に見立てた呼び名。ほかに「二つ星」「猫の目」「犬の目」「眼鏡星」などの呼び名があります。

・柘榴石星(ざくろいしぼし):ケフェウス座のμ星ガーネットスターの和名。赤く輝く星であることから、赤い宝石の名前がつけられました。

・五月雨星(さみだれぼし):うしかい座のα星アルクトゥルスの和名。梅雨入りする時期に南中することから。ほかに「雨夜の星」「鳩星」「麦星」などの異名があります。

ちなみに「雨夜の星」とは、「雨雲に隠れた星。あっても見えないもの、めったにないもののたとえ」です。

・真珠星(しんじゅぼし):おとめ座のα星スピカの和名。

初音ミクに「SPiCa」という曲がありますね。

・春の夫婦星(はるのめおとぼし):アルクトゥルスとスピカを夫婦に見立てた呼び名。春の時期に一緒にいるように見えることから。

・首飾り星(くびかざりぼし):埼玉県・秩父地方に伝わるかんむり座の呼び名。藤原秀郷が平将門(「日本三大怨霊」の一人)を破った際、平将門が自分を裏切った愛妾「桔梗の前」を斬りつけたところ、その死を憐れんだ秀郷が投げた桔梗の前の首飾りが星になったという伝説から。

このほか、半円の形をかまどに見立てた「鬼のかまど」という呼び名もあります。

・蜜柑星(みかんぼし):香川県本島・女木島でのりゅうこつ座α星カノープスの呼び名。紀州の方角に見えることからこう呼ばれました。兵庫県播州地方では、寒くなると出ることから「寒寒星(さむさむぼし)」、四国のほうを低く通り芋畑の芋を食べているように見えることから「芋食い星」などと呼ばれていました。

古代中国では天の南極にあることから「南極老人星」と呼ばれ、南の地平近くに出て見つけにくいこの星を見ると長生きできるとされました。

・箒星(ほうきぼし):彗星の異名。ほかに「鉾星(ほこぼし)」「戈星(ほこぼし)」「妖星(ようせい)」「扇星(おうぎぼし)」「穂垂れ星(ほたれぼし)」などの異名があります。

・妖霊星(ようれぼし/ようれいぼし):天下が乱れる予兆とされる妖しい星。彗星のことと思われます。

・夜這い星(よばいぼし):流れ星の異名。ほかに「星の嫁入り」「片割れ星」などの異名があります。地表に達し隕石となったものは「星屎(ほしくそ)」「星石(ほしいし)」と呼ばれます。秋の季語。

・遊来星(ゆーらいぶし):沖縄県石垣島などでの流れ星の異名。流星を遊びに来た星に見立てたものです。

・星火(せいか):流星の光。物事が切迫していることのたとえ。

・天津甕星(あまつみかぼし):日本神話に現れる星の神(邪神)。「日本書紀」のみ記載。別名に「天香香背男(あまのかがせお)」があります。

4.七夕

天の川

・銀湾(ぎんわん):天の川の異名。「銀渚(ぎんしょ)」「銀漢(ぎんかん)」「星漢(せいかん)」「星河(せいか/せいが)」「水無川(みなしがわ)」「百子の池(ももこのいけ)」などの異名があります。

・星合(ほしあい):七夕の異名。牽牛(けんぎゅう。わし座。アルタイル、和名は「彦星(ひこぼし)」)と織女(しょくじょ。こと座ベガ)の星が天の川をわたって逢うこと。秋の季語。

陰暦七月七日の夜に両星が接近することから生まれた中国発の恋の伝説です。ほかに「星逢う夜」「星の契(ちぎ)り」「星祭(ほしまつり)」「星今宵(ほしこよい)」「星の恋」「星迎(ほしむかえ)」などの異名があります。

・鵲の橋(かささぎのはし):七夕の夜、牽牛と織女の星が出逢えるようにカササギが翼を並べて天の川にわたす橋をつくったという中国の伝説から生まれた言葉。秋の季語。

男女の恋の橋渡しのたとえにも使われます。小夜橋(さよはし)。

・秋去衣(あきさりごろも):秋になって着る衣服。牽牛と織女が七夕の夜着る衣。

・秋去姫(あきさりひめ):秋去衣を織る女。七夕の織女の別名。

織女にはこのほか「朝顔姫」「薫姫(たきものひめ)」「糸織姫(いとおりひめ)」「蜘蛛姫(ささがにひめ)」「梶葉姫(かじのはひめ)」「百子姫(ももこひめ)」「秋天姫(あきそらひめ)」「琴寄姫(ことよりひめ)」「灯姫(ともしびひめ)」「異夜姫(ことよひめ)」などの異称があります。

・星の薫物(ほしのたきもの):七夕の日に裁縫の腕が上がることを祈る宮中での儀式「乞巧奠(きっこうでん)」で、終夜香をたいて星をまつること。秋の季語。

・願いの糸(ねがいのいと):七夕に願いを込めて竹竿にかけた五色の糸。現代では短冊に願いを書くようになりました。秋の季語。