前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。
確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。
そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。
1.時空の四字熟語
・天地開闢(てんちかいびゃく):天と地ができた世界の始まり。
・天宇地廬(てんうちろ):天と地。この世。
・天造草昧(てんぞうそうまい):天地創造のときの混沌としている状態。
・永劫回帰(えいごうかいき):ドイツの哲学者ニーチェの言葉。砂時計が何度も巻き戻されるように、人間の生も同じことを意味も終焉もなく繰り返すだけであるというニヒリズムが極った世界像。
・花晨月夕(かしんげっせき):(花が咲く朝も月が出る夕方もという意味で)朝晩、一日中。
・千古不磨(せんこふま):すぐれた伝統などが永久に伝わり続けること。
・百世不磨(ひゃくせいふま):いつまでも消えずに残ること。
・天壌無窮(てんじょうむきゅう):天地と同じように永遠に果てがなく続くこと。
・白衣蒼狗(はくいそうく):白衣のように見えた雲が青いイヌの形に変化するように、世の中の変化が早いたとえ。
・来来世世(らいらいせせ):生まれかわり死にかわって繰り返される長い未来。
2.情景の四字熟語
・雨過天青(うかてんせい):雨上がりの青空。中国・北宋時代に宮廷の御用品を焼いていた汝窯(じょよう)の青磁(せいじ)の色を表します。
・雲外蒼天(うんがいそうてん):雲を突き抜けたその先に青空が広がっていること。困難を乗り越えれば明るい未来が見えるということ。
この言葉は、将棋の藤井聡太六冠が名人戦を制して「最年少名人」と「最年少での史上二人目の七冠」を同時達成する第5局の前に、色紙に揮毫したことで有名になりましたね。
・碧落一洗(へきらくいっせん):雨が降ったあとに、空が青々と晴れ渡ること。
・月白風清(げっぱくふうせい):静かで美しい夜。秋の月夜の形容。
・皓月千里(こうげつせんり):明るく白い月が千里のかなたまで照らしているさま。
・星河一天(せいがいってん):空一面に無数の星が川のように輝いて見える様子。「星河」は天の川のこと。
・星羅雲布(せいらうんぷ):星のように点々と連なり、雲のように多く集まること。
・翠色冷光(すいしょくれいこう):冷ややかな感じのする青白い光のこと。月の光の形容。
・天香玉兎(てんこうぎょくと):東洋画の画題。桂花、すなわちモクセイ(木犀)と月の構図。モクセイは月宮殿に開く花とされ、玉兎は月の異名。
・烈日赫赫(れつじつかくかく):太陽の光が激しく照りつける様子。
・水光接天(すいこうせってん):水面に映る月光が、はるか彼方で空に接していること。
・水天一碧(すいてんいっぺき):水と空が水平線で区別できないくらい青一色に溶け合っているさま。
・水天彷彿(すいてんほうふうつ):はるか彼方で海と空が接していて、どこまでが水でどこまでが空かはっきり見分けられないさま。
・万頃瑠璃(ばんけいるり):キラキラ光る青い瑠璃がどこまでも敷き詰められているような美しい水面などの形容。
・一碧万頃(いっぺきばんけい):海や湖の水面がはるか彼方まで青々と広がっているさま。
・空空漠漠(くうくうばくばく):果てしなく広いさま。また、とりとめもなくぼんやりしたさま。
・晴好雨奇(せいこううき):晴れでも雨でもそれぞれ趣があっていいということ。雨奇晴好(うきせいこう)。
・青天白日(せいてんはくじつ):よく晴れた天気。また、潔白であること。
・花天月地(かてんげっち):花が天を埋め尽くすほど咲き乱れ、月の光が明るく地面を照らす風景。美しい春の夜の形容。
・閑花素琴(かんかそきん):静かな春の雰囲気。静かに美しく咲いた花と簡素な琴の音の意。
・千紫万紅(せんしばんこう):色とりどりの花が咲き乱れるさま。
・千朶万朶(せんだばんだ):たくさんの花が咲き乱れている様子。
・落英繽紛(らくえいひんぷん):花びらがはらはらと乱れ散るさま。「落英」は散る花びら、「繽紛」は花の乱れ散るさま。
・火樹銀花(かじゅぎんか):灯火や花火がきらめくさま。または夜景の形容。「火樹」は灯火にいろどられた樹、「銀花」は銀白色の光。
・光彩陸離(こうさいりくり):まばゆいばかりの光や色彩が入り乱れてきらめく様子。
・暮色蒼然(ぼしょくそうぜん):夕暮れ時に次第にあたりが薄暗くなっていくさま。
3.人の四字熟語
・雲遊萍寄(うんゆうへいき):雲や浮き草のように、何にもこだわらず、自然のなりゆきのままにうつろい行動すること。「萍」は浮き草のこと。
・閑雲野鶴(かんうんやかく):空に浮かぶ雲や野に遊ぶツルのように、何にも縛られず自然に親しんで暮らすことのたとえ。
・天馬行空(てんばこうくう):思想や行動が大空を駆け巡る天馬のように自由奔放なこと。天馬空(くう)を行(ゆ)く。
・秉燭夜遊(へいしょくやゆう):人生は短いのだから夜も明かりを手に遊ぼう、ということ。
・籠鳥恋雲(ろうちょうれんうん):籠の中の鳥が大空の雲に恋い焦がれるように、囚われの身の者が自由を望むこと。
・羽化登仙(うかとうせん):羽が生えて天にのぼっていく仙人のように、フワフワして浮かれた気持ち。蘇軾「前赤壁賦」から。
・春風駘蕩(しゅんぷうたいとう):春風がのどかに吹く様子。転じて物事に動じない人、おおらかでゆったりとしたさまを指します。
・優游涵泳(ゆうゆうかんえい):ゆったりとした心で学問や芸術を味わうこと。「優游」はゆったりとしていること。「涵泳」は水に浸って泳ぐこと。
・天空海闊(てんくうかいかつ):空や海が果てしなく広いこと。またそのように度量が広く、細部にこだわらないこと。
・放縦不羈(ほうしょうふき/ほうじゅうふき):何ものにも束縛されず、好きなようにふるまうこと。
・一片氷心/一片冰心(いっぺんのひょうしん):ひとかけらの氷のように心が澄み切って清らかなこと。王昌齢の漢詩「芙蓉楼送辛斬(芙蓉楼にて辛斬を送る)」の結句「一片氷心玉壺に在り」より。
・雲心月性(うんしんげっせい):名声や利益を求めない、雲や月のように清らかな心。
・光風霽月(こうふうせいげつ):光の中を吹き抜ける風のように爽やかで、雨上がりの空に出る月のように心が澄み切っていることのたとえ。
・雪魂氷姿(せっぱくひょうし):氷のような清らかな姿と、雪のようにけがれのない魂。またはウメの花のたとえ。
・八面玲瓏(はちめんれいろう):どこから見ても透き通っていて美しいこと。心にくもりがなく澄み切っていること。転じて、だれとでも円満に交際できることのたとえ。
・氷壺秋月(ひょうこしゅうげつ):心が清らかで澄んでいること。「氷壺」は白い玉でできていて中に氷が入った壺。「秋月」は秋の夜の澄んだ月の意味。
・冷艶清美(れいえんせいび):白い花や雪のように冷ややかで美しいさま。
・天花乱墜(てんげらんつい/てんからんつい):生き生きとした話しぶりで人をひきつけること。中国の梁の雲光法師が説法を始めると、その話に感動して天上の花が舞い落ちてきたという故事から。
・天香桂花(てんこうけいか):月にあるとされる伝説の桂(モクセイ)の花のこと。または美人の形容。
・貴顕紳士(きけんしんし):高貴で教養があり、名高い評判のある男子。略して貴紳(きしん)とも言います。
・塵外孤標(じんがいこひょう):汚れた俗世間から一人抜け出してすぐれていること。
・飛兎竜文(ひとりゅうぶん):才能のある子供、若者。「飛兎」と「竜文」はともに非常にすぐれた馬の名前。
・擲果満車(てきかまんしゃ):美少年のたとえ。中国・晋の潘岳(はんがく)は美少年すぎて町を歩くだけで車がいっぱいになるほどの果物を女性たちから投げられたという故事から。
・撲朔謎離(ぼくさくめいり):男か女か見分けがつかないこと。「撲朔」はオスのウサギが足をバタバタさせること、「謎離」はメスのウサギが目を細めてぼんやりすることで、ウサギの雌雄の見分け方とされました。木蘭(ムーラン)という女性が男装して十二年間出征し、故郷に帰ったあとで女性の身なりに戻ると皆が驚いたという故事から。
・孤影悄然(こえいしょうぜん):ひとりぼっちでさみしげなさま。
・屹度馬鹿(きっとばか):外面はいかめしく見えるが、内面は 愚かなこと。
・冬夏青青(とうかせいせい):常に変わらない信念。マツやコノテガシワ(児手柏)といった常緑樹は冬も青々と茂っていることから。
・匪石之心(ひせきのこころ):自らの志をかたく守り、決してゆらがない心のこと。石ころのように転がることはない心という意味。
・愛月撤灯(あいげつてっとう):何かをマニアックに偏愛すること。月を愛するあまり灯りを撤去させたという唐の蘇頲(そてい)の故事から。(出典「開元天宝遺事」)
・白河夜船(しらかわよふね):何が起こっていたのかわからないくらいぐっすり寝込むこと。または知ったかぶりをすること。京都の白河について聞かれた人が、川の名前と勘違いして、夜船で通ったから知らないと答えたという話から。(出典「毛吹草」)
・読書亡羊(どくしょぼうよう):大切なことを忘れて他のことに夢中になること。本を読みふけった羊飼いがヒツジを逃がしてしまったという「荘子」の故事にもとづきます。
・空華万行(くうげまんぎょう):まぼろしの世界で実体のない行いをすること。「空華」は目を患っているときに空中に見える花で、心の迷いによって作り出されるもののたとえ。
・掉棒打星(とうぼうだせい):棒を振り回して夜空の星を落とそうとするように、不可能なことに無駄な労力をはらうこと。
・蒟蒻問答(こんにゃくもんどう):とんちんかんな問答や返事。古典落語「蒟蒻問答」より。
・桃花癸水(とうかきすい):月経のこと。「桃花」は女性を意味する雅語。「癸水」は月経のこと。
・塗抹詩書(とまつししょ):幼児のこと。また、幼児のいたずら。幼児は大切にしている書物でも構わず塗りつぶしてしまうことから。
・已己巳己(いこみき):「已」「己」「巳」の3種の字形がそれぞれ似ていることから、互いによく似ているもののたとえ。
4.愛と友情の四字熟語
・寤寐思服(ごびしふく):寝ても覚めても人を思う気持ちが忘れられないこと。「寤寐」は目覚めていることと眠っていること。
・夙夜夢寐(しゅくやむび):寝ても覚めても一日中思い続けること。
・昼想夜夢(ちゅうそうやむ):昼も夜も想い続けていること。また、昼に思ったことを、夜の夢にまで見ること。訓読は「昼想(おも)い夜夢(ゆめ)む」。
・喋喋喃喃(ちょうちょうなんなん):男女が小声で仲睦まじげに囁き合うさま。
・甘言蜜語(かんげんみつご):人をいい気持ちにさせる蜜のように甘い言葉。または男女の甘い語らい。
・依依恋恋(いいれんれん):恋するあまり離れがたいさま。
・落花流水(らっかりゅうすい):川に落ちた花が水と一緒に流れていくように、恋人がお互いに離れがたく通じ合っているさま。
・鴒原之情(れいげんのじょう):兄弟姉妹の深い情愛。「鴒」はセキレイのこと。セキレイは兄弟の仲が良いとされ、尾を振って歩く姿が兄弟の難儀を救いに行くように見えることから。
・暮雲春樹(ぼうんしゅんじゅ):遠くに離れている友を思う気持ち。「暮雲」は夕暮れの雲、「春樹」は芽吹いた春の樹木。杜甫の詩「春日憶李白(春日、李白を憶う)」より。
・氷炭相愛(ひょうたんそうあい):この世では起こりえないことのたとえ。また、冷たい氷と熱い炭のように、まったく性質が相反するものが、相手の特性を利用しながら、助け合うこと。友人が互いの特性の違いを活かし、戒め合いながら助け合うこと。
「炭」は、炭火。氷は炭火で溶け、炭火は氷が溶けたあとの水で消える。ともに消し合うわけだから、本来両者が愛し合うことはこの世では起こりえない。しかし、炭火は氷を水に戻し、水に戻った氷は炭が燃えつきて灰になるのを防ぐから、相反する性質のものが作用し合って助け合うということ。「氷炭相(あい)愛す」と訓読します。
・桃園結義(とうえんけつぎ):中国の小説「三国志演義」の中で、劉備・関羽・張飛が桃畑で義兄弟の契りを結んだこと。事にあたって深い結びつきを誓うたとえ。桃園の誓い。
・韓雲孟龍(かんうんもうりょう):(雲と龍は切っても切り離せない関係にあり、中国唐代の詩人である韓愈と孟郊が相愛の関係にあったという俗説から)肉体関係をともなう男性同士の結びつき。
・比翼連理(ひよくれんり):男女の深い結びつき。雌雄それぞれ目と翼がひとつずつあり常に一体になって飛ぶ伝説上の鳥「比翼の鳥」と、二本の木が途中で合体した「連理の枝」にちなみます。出典は白居易の「長恨歌」で、玄宗皇帝が楊貴妃に語ったとうたわれます。
・法界悋気(ほうかいりんき):自分とは無関係な人に嫉妬すること。また、他人の恋を妬(ねた)むこと。
・晨星落落(しんせいらくらく):明け方に星がだんだん消えていくように、仲のよい人がだんだんいなくなっていくこと。
・伯牙絶弦(はくがぜつげん):自分を理解してくれるたった一人の親友を亡くすこと。中国春秋時代、琴の名手である伯牙が友人を亡くした時、自分の音楽をわかってくれる人はいなくなったと嘆いて琴の弦を断ち切ってしまった故事から。