私はかつて地方出身の友人と話していた時、雨が降ってきたので、「雨がぴりぴりして来た」と言ったところ、怪訝そうな顔をされました。
関西人(高槻市民)の私としては「雨がぽつぽつ降って来た」という意味で言ったつもりだったのですが、友人には通じなかったのです。「ぴりぴり」と言えば「辛(から)い」「痛み」「緊張」というイメージしか浮かばなかったようです。
これは関西(あるいは高槻)だけで通じる「方言オノマトペ」なのでしょうか?
夏川りみの「涙(なだ)そうそう」で有名になった「そうそう」は、涙が流れる音を表現した沖縄独特のオノマトペです。
1.「オノマトペ」とは
「オノマトペ」(擬声語)とは、「擬音語」と「擬態語」の総称で、さまざまな状態や動きや音・声などを字句で模倣した言葉です。
主に自然界にある音や声、たとえば犬の鳴き声の「わんわん」のように現実に聞こえる音を人の言語で表現した言葉(擬音語)です。
そのほか、「ワクワク」や「ふっくらもちもちのパン」「ふわふわとろとろのオムライス」のように、実際には音は聞こえないが感覚的な表現としてのオノマトペ(擬態語)もあります。日本語は特にオノマトペが多く用いられる言語と言われています。
オノマトペの語源は、古代ギリシャ語のオノマトポイーア(onomatopoiia)に由来します。古代ギリシャ語のonoma(名前)とpoiein(作る)という言葉が融合しオノマトポイーア(言葉を作る)という言葉が生まれました。
古代ギリシャ語のオノマトポイーアを語源とし、英語ではオノマトピア(onomatopoeia)、フランス語ではオノマトペ(onomatopee)という言葉になりました。
2.動物(犬猫・鳥・昆虫)の鳴き声のオノマトペにまつわる面白い話
動物(犬猫・鳥・昆虫)の鳴き声のオノマトペにまつわる面白い話は、以下の記事に詳しく書いていますので、ぜひご一読ください。
(1)犬猫の鳴き声
・犬の鳴き声は「びよびよ」、猫の鳴き声は「ねうねう」だった!?
(2)鳥(ホトトギス・ウグイス)の鳴き声
・「夏は来ぬ」は歌人佐佐木信綱の作詩で古き良き日本の原風景を知る格好の教材!
(3)蝉の鳴き声
(4)秋の虫の鳴き声
・「スズムシ」と「マツムシ」の名前の逆転など「スズムシ」にまつわる面白い話
3.オノマトペの歴史
日本語のオノマトペを遡ると、712年の『古事記』に行き着きます。「国生み神話」で、海を鉾で掻き回す様子を「こをろこをろ」と表現されています。
イザナギノミコト(男神)とイザナミノミコト(女神)が、国生みの際に、「天の浮き橋(あまのうきはし(天と地を結ぶ宙へ浮く橋。神はこの橋を渡って地へ降りるとされます)」に立ち、天の沼矛(ぬぼこ)をまだ何も出来ていない海原に下ろし、「こをろこをろ」とかき回し矛を持ち上げると、滴り落ちた潮が積もり重なって島となりました。これがオノゴロ島です。
他にも『日本書紀』や『万葉集』にもオノマトペの表現が見られ、『万葉集』には鼻の水をすする音として「びしびし」という表現があります。
4.オノマトペの効用
(1)スティーブ・ジョブズも活用
(2)力を発揮させる魔法の言葉
オノマトペは人の心を揺さぶり、人間の潜在能力を引き出す力があると言われており、アスリートもよく活用しています。例えば、ハンマー投げの室伏広治選手がハンマーを投げる時に「アー!」と雄叫びのような「掛け声」をあげます。テニスのシャラポア選手も「雄叫び」のような声を出します。
これは、パワーアップやリズムがとりやすくなるため、使用されているのです。引き出したい能力に合ったオノマトペを使うことで有効になります。このようにオノマトペには、「やる気スイッチ」を入れるなど脳科学的な効能があるそうです。
他にも、身体を柔らかくする「にゃ〜」や握力アップにつながある「グ〜ッ」などがあります。
(3)医療診断でも一役買うオノマトペ
5.若者言葉としてのオノマトペ
2013年頃から、TwitterなどのSNSの登場で数多くの若者言葉と呼ばれるオノマトペが生まれました。
次のような例がありますが、皆さんは意味が分かりますか?
・ぴえん:非常に感動して泣いてしまう又は泣きそうになった状態を表す擬音語
・ぱおん:「ぴえん」よりも、さらに強調された表現。「ぴえん越えてぱおん」と使用する場合が多いようです。
「ぴえん」の語源は可愛く泣いているこんな絵文字🥺が語源と言われています。
絵文字を使うより、この状態を表すオノマトペである「ぴえーん」を使った方が可愛い、そしてそれが省略されたのが「ぴえん」です。
「ぱおん」も象のもの悲しい鳴き声(泣き声?)である「ぱおーん」が「ぱおん」に変化したと言えます。