エモい古語 言葉(その4)四字熟語 槿花露命・神韻縹緲・游雲驚竜・雲蒸竜変・百鬼夜行

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朝顔

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.はかなさの四字熟語

・槿花露命(きんかろめい):アサガオの上の露のようにはかない命。

・鏡花水月(きょうかすいげつ):鏡に映る花や水に映る月のように、目には見えても触れないもののたとえ。はかないまぼろし。

・酔生夢死(すいせいむし):酔ったような夢心地のまま、ぼんやりとむなしく一生を終えること。遊生夢死(ゆうせいむし)とも言います。

・生寄死帰(せいきしき):いま生きているのはこの世に仮に身を寄せているだけで、死ぬことは本来いるべきところに帰ることだという考え。「生は寄(き)なり死は帰(き)なり」とも言います。

・電光朝露(でんこうちょうろ):はかなく消えやすいもののたとえ。稲光も朝の露もすぐに消えてしまうことから。

・飛花落葉(ひからくよう):咲いた花も風に散り、青葉も枯れ落ちることから、人生や世の中のはかなさをたとえた言葉。

・泡沫夢幻(ほうまつむげん):はかなさのたとえ。水の泡と夢まぼろし。

2.芸術の四字熟語

・神韻縹緲(しんいんひょうびょう):自分の語彙では言い表せないほどに神レベルにすぐれた作品の趣。「神韻」は芸術作品などの神がかっている趣。「縹緲」はかすかではっきりしない様子。

・神工鬼斧(しんこうきふ)神レベルのすぐれた技術や作品のこと。「鬼斧」は鬼神が斧で細工したような見事な工作物。

・光焔万丈(こうえんばんじょう):詩文や議論などに勢いがあって、素晴らしいことのたとえ。「光焔」は燃え上がる炎。「万丈」は非常に高いこと。

・游雲驚竜(ゆううんきょうりゅう):生き生きとした筆遣いを、空を流れる雲と天がける竜にたとえた言葉。

・琳琅珠玉(りんろうしゅぎょく):美しい宝玉。また、美しい詩文のたとえ。「琳琅」は美しい玉の意。

・驪竜之珠(りりょうのたま):黒い龍のあごの下についているとされていた宝玉。めずらしいもののたとえ。驪竜頷下の珠(りりょうがんかのたま)。

・探驪獲珠(たんりかくしゅ):黒い龍のあごの下についている宝玉を取るくらい、危険を冒して利益を得ること。または詩や文章がすぐれていることのたとえ。驪(り)を探(さぐ)り珠(たま)を獲(う)。

・気韻生動(きいんせいどう):生命力と気品にあふれた、今にも動き出しそうな絵。五世紀末の中国の画論家・謝赫が、「画の六法(りくほう)」の第一に挙げました。

・徴羽之操(ちうのそう):正しい音楽。「徴羽」は中国の音楽で使われる階名である「五音」(宮・商・角・徴・羽)のうちの二音。

・余韻嫋嫋(よいんじょうじょう):音が鳴りやんでもかすかに残る響き。

・霓裳羽衣(げいしょううい):薄絹などで作った、女性の美しく軽やかな衣装のこと。また、仙人と月宮殿に出掛けた唐の玄宗が仙女が舞っていた曲の調べを覚え、楽士に作らせたとされる楽曲のこと。「霓裳」は虹のように美しい裳(スカート)。「羽衣」は天人や仙人が着て空を飛ぶという天のはごろも。

・戯作三昧(げさくざんまい):たわむれに詩や文章を書きまくること。

・彫心鏤骨(ちょうしんるこつ):心に彫りつけ骨に刻みつけるくらい大きな苦労をすること。特に、苦労して詩文などを作り上げること。

・屠竜の技(とりょうのぎ):架空の生き物である竜を殺す技を身につけても役に立たないことから、すぐれているが学んでも役に立たない技術のたとえ。

・狂言綺語(きょうげんきご):道理に外れた言葉と表面だけを飾り立てた言葉。おもに仏教の立場から、小説などの作り事を卑しめて言う言葉。

3.戦いの四字熟語

・雲蒸竜変(うんじょうりょうへん):雲がわきおこるのに乗じてヘビが竜に変わるように、英雄が時機を得て活躍すること。

・雲竜風虎(うんりょうふうこ):似た者同士が互いに引きつけ合うこと。竜は雲とともに、トラは風とともに現れることから、英雄や豪傑のたとえ。

・竜吟虎嘯 (りょうぎんこしょう):同じ考えを持った者同士、相通じ合うこと。竜が鳴けば雲がわきおこり、トラがうなれば風が生まれるとされていたことから。

・蛟竜雲雨(こうりょううんう):埋もれていた英雄や豪傑が時機を得て活躍すること。「蛟竜」は古代中国の想像上の生き物「みずち」のことで、水中にすみ、雲や雨を呼んで天にのぼるとされます。訓読は「蛟竜、雲雨を得(う)」です。

・飛竜乗雲(ひりょうじょううん/ひりゅうじょううん)竜が雲に乗って空へ舞い上がるように、時代の流れに乗って英雄や賢者が才能を発揮すること。飛竜、雲に乗る。

・竜躍雲津(りょうやくうんしん):竜が空高く舞い上がり銀河までのぼっていくくらい勢いを得て出世すること。または才気があふれていること。「雲津」は銀河の意。

・竜騰虎闘(りょうとうことう):竜とトラのように互角の力を持つ二者が激しく戦うこと。竜闘虎争(りゅうとうこそう)とも言います。

・竜驤虎視(りゅうじょうこし):勢いよく天にのぼる竜や眼光鋭く獲物を狙うトラのように、勢いがある者が世の中を威圧すること。

・気炎万丈(きえんばんじょう):燃え上がる炎のように意気込みが非常に盛んであること。

・鬼気森然(ききしんぜん):ただならぬ鋭い気配が漂うさま。人を戦慄させる気配のするさま。

・剣戟森森(けんげきしんしん):人をぞっとさせるほど気性が激しく厳しいさま。「剣戟」は剣と矛(ほこ)。「森森」は数多く立ち並ぶさま。

・刀光剣影(とうこうけんえい):今にも戦いが起こりそうなほど殺気立った雰囲気。

・抜山蓋世(ばつざんがいせい):山を引き抜くほどの強い力と、世を覆(おお)い尽くすほどの気力があること。四面楚歌の状態で死を悟った項羽が愛人に贈ったとされる詩「垓下の歌」の一節。力(ちから)山を抜き、気は世を覆う。

・風檣陣馬(ふうしょうじんば):勇ましく意気が盛んなことのたとえ。また、文章の勢いがよいこと。「風檣」は風をはらんだ帆船のマスト、「陣馬」は戦地で戦う馬の意。

・暴虎馮河(ぼうこひょうが):トラに素手で立ち向かい、大河を徒歩でわたるくらい向こう見ずなこと。血気にはやった無謀さのたとえ。

・電光雷轟(でんこうらいごう):勢いが極めて激しいこと。「電光」は稲光(いなびかり)。「雷轟」は雷が鳴り響くこと。雷轟電撃。

・霹靂閃電(へきれきせんでん):激しく鳴り響く雷鳴やピカッときらめく稲妻のように、勢いがあって素早いことのたとえ。

・雷霆万鈞(らいていばんきん):雷鳴のように激しい勢いや威力を持っていること。「雷霆」は雷鳴。「鈞」は重さの単位で、「万鈞」は非常に重いこと。

・雷騰雲奔 (らいとううんぽん):現れたかと思うと、すぐに去ってしまうこと。「雷騰」は雷がわきおこること。「雲奔」は雲が流れ去ること。

・光芒一閃(こうぼういっせん):光が一瞬ピカッと光るように事態が急激に変わること。「光芒」は光の穂先。

・迅雷風烈(じんらいふうれつ):急に鳴る激しい雷鳴とすさまじい風。事態が急激に変わるさま。

・聚蚊成雷(しゅうぶんせいらい):小さなものでも多く集まると大きな力になることのたとえ。小さな蚊も集まれば羽音が雷のようになるという意から。

・星火燎原(せいかりょうげん):星の光ほどの小さな火でも野原を焼き尽くすほど広がるように、小さな力も放っておくと勢力を増して防ぎようがなくなること。「燎原の火」は勢いよく広がるもののたとえに使われます。

・烽火連天(ほうかれんてん):戦火が至る所に拡大していくこと。

・無手勝流(むてかつりゅう):戦わずに策略を用いて勝つこと。またはその方法。また、自分で勝手に決めた流儀。

・追奔逐北(ついほんちくほく):逃げる敵を追いかけること。

・鎧袖一触(がいしゅういっしょく):鎧(よろい)の袖がわずかに触れるだけで倒せるくらいのたやすさで相手を打ち負かすこと。

・快刀乱麻(かいとうらんま):鋭い刃物でもつれた麻糸を断ち切るように、こじれた物事を鮮やかに処理すること。快刀乱麻を断つ。

・活殺自在(かっさつじざい):生かすも殺すもこちらの思いのままということ。他人を思い通りに操ること。

・三尺秋水(さんじゃくしゅうすい):刃が澄み切った剣。「三尺」は剣の標準的な長さで、剣そのものを指します。「秋水」は冷たく澄み切った秋の水。鋭い刀剣を厳しく冷たく光る秋の霜にたとえて秋霜三尺(しゅうそうさんじゃく)とも言います。

幸徳秋水

なお、社会主義者で「大逆事件」によって処刑された幸徳秋水(本名:幸徳傳次郎)(1871年~1911年)の「秋水」という名前は、師事していた自由民権運動の理論的指導者・中江兆民(本名:中江篤介)(1847年~1901年)から与えられたものです。「兆民」という号は「億兆の民」の意味で、「秋水」とも名乗り、後に弟子の幸徳秋水に譲渡しました。

・獅子乱刀(ししらんとう):剣術の刀法の一つ。獅子のように気を鋭くして片手で敵を払い撃つ太刀のこと。

・紫電一閃(しでんいっせん):剣をひと振りして一瞬ひらめく鋭い光。物事が急激に変化することのたとえ。

・湛盧之剣(たんろのけん):中国の呉の王が持っていたとされる黒く澄んだ宝剣。「湛」はたたえる、澄むという意味。「盧」は黒の意味。

・流星光底(りゅうせいこうてい):勢いよく振り下ろした刀が流れ星のようにきらめくさま。「流星光底長蛇(ちょうだ)を逸す」は、川中島の合戦をうたった江戸時代の詩で上杉謙信武田信玄を討ち損ねたことを表した言葉。

・硝煙弾雨(しょうえんだんう):火薬の煙がもうもうと立ち、弾丸が雨のように飛び交う激しい戦い。砲煙弾雨(ほうえんだんう)。

・弾丸雨注(だんがんうちゅう):弾丸が雨のように降り注ぐこと。

・屍山血河(しざんけつが):死体が山のように重なり合い、血が川となって流れる様子。激しい戦闘があったことを示すたとえ。

・鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう):亡霊が弱弱しく泣く声が悲しげにひびいているさま。

余談ですが、「海ゆかば」という日本の軍歌がありますが、この歌詞は『万葉集』にある大伴家持(おおとものやかもち)作の長歌から採られています。

4.闇の四字熟語

・昏天黒地(こんてんこくち):日が暮れて真っ暗な様子。意識がもうろうとしているさま。世の中が乱れているさま。

・暗香浮動(あんこうふどう):暗闇の中で花の香りがどこからともなくただようこと。特に詩などでウメの花を指します。

・空花乱墜(くうげらんつい):妄想や幻覚のたとえ。目の病気の時に、見えるはずのない無数の空花が乱れ落ちるように見えることから。「空花」はこの世には存在しない花のこと。一翳(いちえい)眼(まなこ)に在(あ)れば、空花乱墜す。

・異聞奇譚(いぶんきたん):珍しい話、変わった話。

・淫祠邪教(いんしじゃきょう):人心を惑わすいかがわしい教え。

・怪誕不経(かいたんふけい):でたらめで道理に合わないこと。

・快力乱神(かいりょくらんしん/かいりきらんしん):人知では説明できない、あやしく不思議な存在、事象。「論語」の「子(し)は快力乱神を語らず」より。

・悪鬼羅刹(あっきらせつ/あっきらさつ):人に害を及ぼす魔物のたとえ。「悪鬼」はたたりをなす妖怪。「羅刹」は仏教で人を食うとされる鬼。

・百怪魑魅(ひゃっかいちみ):たくさんの妖怪。

・百鬼夜行(ひゃっきやこう/ひゃっきやぎょう):さまざまな妖怪が夜に列をなして歩き回ること。転じて、多くの悪人が勝手に振る舞うこと。

・咄咄怪事(とつとつかいじ):驚くほど奇怪なできごと。「咄咄」は驚きの声。左遷された人がそのうらみを言葉にせずこの四文字を空に書いたという中国の故事(「晋書」殷浩伝)から。

・呑雲吐霧(どんうんとむ):神仙術を行う者が、その術で雲をのみ霧をはくこと。雲を呑み霧を吐く。

・幽明異境(ゆうめいいきょう):死に別れること。すむ場所が死後の世界と現世で分かれてしまったという意味。「幽明の境」は死後の世界と現世の境界。幽明境を異(こと)とす。