1.タレント本のゴーストライターにまつわる有名な「失言事件」
タレント本と言えば、思い出す有名な「失言事件」があります。
当時女性人気アイドルだった松本伊代さんが、自身のエッセイ集出版を宣伝告知する番組で、本の内容について聞かれて、「私も今日初めて見たんで。まだ読んでないので、内容は知らないんです。」と答えたというものです。
司会者から、「自分が書いたんじゃないの?」と聞かれて、「いいじゃん、そんなのどうだって!!」と逆ギレするおまけまで。
40代以上の方には、懐かしい話ですが、40代より若い方にはピンとこない話でしょう。
当時、タレント本と言えば、大抵の場合ゴーストライターが、忙しいタレントに代わって、執筆するのが普通だったようです。今でも、ゴーストライターに書いてもらうケースが多いのかも知れません。
その「公然の秘密」を、この人気アイドルは、何も事情がわからずに、正直に言ってしまっただけでしょう。
しかし、上記の事件のような「薄っぺらいタレント本」とは違って、内容のしっかりしたタレント本、これはタレント自身が書いたに違いないと思われる魅力いっぱいの内容の本もありますので、ご紹介します。
2.自ら執筆する「芸能人作家」たち
(1)又吉直樹さん
2015年に、ピースの又吉直樹さんが、「火花」という小説を書いて芥川賞を受賞しましたね。
この本の評価については、「ニュースステーション」のキャスター・古舘伊知郎さんが「みんなすごいなぁって思うんですけど」と称えつつも、「それとは別に、芥川賞と本屋大賞の区分けがだんだんなくなってきた感じがする」と語ったことが物議を醸しました。
「芥川賞にも、又吉さんにも、本屋大賞にも失礼」「お笑い芸人が書いた作品が何で芥川賞に?という色眼鏡で見ている」などなど
キャスターの彼が、「火花」を読んでみて「あまり面白くなかった。芥川賞にはふさわしくない。せいぜい本屋大賞どまり。」という感想を個人的に持ったとしても、何ら不思議ではありませんし自由です。
しかし、多くの人が見ている報道番組で、そこまで個人的な感想をぶち上げるのは行き過ぎというものでしょう。
久米宏さんのように、思ったことを本音でズバズバ言うのと、同じレベルの発言だと勘違いしたのでしょうか?思い上がりは怖いですね。
(2)山口百恵さん
「蒼い時」は、彼女の自伝的小説です。
当時の山口百恵さんの人気は、AKB48や安室奈美恵さんはもとより、松田聖子さんと同じくらいか、あるいはもう少し上だったのではないでしょうか?
楽屋でも、高校の勉強をしっかりしているという噂も聞いていましたから、やっぱりしっかりした文章が書けているなと感心しました。
若いけれど、彼女の思慮深さ、語彙力の豊富さ、芯の強さがよく表れている小説です。
(3)高峰秀子さん
彼女は、戦前の昭和4年にデビューし、天才子役スターとして活躍した後、戦後も大女優として多数の映画に出演しています。
映画監督の松山善三さんの奥様で、彼の作品「名もなく貧しく美しく」にも出演していますね。
私は、リアルタイムでは、彼女の映画をあまり見ていません。「二十四の瞳」を学校から見に行ったような記憶がありますが、その他は「名作映画の再上映会」か何かで「浮雲」「女が階段を上る時」を見た程度です。
彼女は、ハリウッドスターのエリザベス・テイラーと同様「子役に大女優・名優なし」のジンクスを見事に打ち破った珍しい女優ですが、もともと「役者希望」だったわけではなく、多くの係累を養う必要に迫られて、子役・女優になられたそうです。
ところで、彼女は「名エッセイスト」です。私は、「わたしの渡世日記」という本(最初、週刊朝日に連載)を読みました。
この本では、関係者を実名で登場させ、国民的女優かつ一人の女性としての半生を回想したものです。
どこか、山口百恵さんのケースに似たところがありますね。
(4)池部 良さん
彼は、戦後の代表的な二枚目映画俳優のひとりですが、太平洋戦争に従軍し、中国山東省から南方戦線へと転戦し、乗っていた輸送船が潜水艦に撃沈されて10kmも泳いで逃げたり、上官たちが全員他の島へ逃げて彼の部隊だけがジャングルに取り残されて捕虜になったりと、大変な苦労を重ねた末に、昭和21年復員したそうです。
石坂洋次郎の小説を映画化した「青い山脈」に主演したり、「坊っちゃん」「雪国」「暗夜行路」などの「文芸作品」にも多数出演しています。
彼の父親は、風刺・風俗漫画家として一世を風靡した池部 鈞(ひとし)、母親は画家・漫画家の岡本一平の妹で、芸術家の岡本太郎(「芸術は爆発だ!」という言葉と万博の太陽の塔で有名)は従兄に当たるそうです。ちょっと不思議な感じもしますね。
彼は多くのエッセイを書いていますが、私は「そよ風ときにはつむじ風」を読んだくらいです。これは、彼の自伝的エッセイで、軽妙洒脱な文章が魅力的です。
生粋の江戸っ子で頑固者、そのくせ根はやさしくて人情家のお父さんと、世間知らずで飄々としたお母さんのてんやわんやの騒動が見ものです。
(5)三國連太郎さん
三國さんと言えば、映画「釣りバカ日誌」のスーさんこと鈴木社長役でおなじみですが、俳優の佐藤浩市さんのお父さんなんですね。
私などから見ると、一見「温厚な社長タイプ」の人物に見えますが、「役者馬鹿」「怪優」「奇人」とも呼ばれているそうです。かなり奔放な性格で家庭を顧みない人であったようです。
先日、図書館で彼の「親鸞」という本を見つけました。私は、少し前に五木寛之の「親鸞」を読んだばかりだったので、その時は少々親鸞に食傷気味で、パラパラと頁を繰った程度です。
彼は、どういう訳か、親鸞に非常にこだわりがあるようで、後で調べてみると、彼が書いた本はほとんど親鸞に関する本でした。
また、もう少し日数がたったら、彼の親鸞にも挑戦してみようと思います。
(6)矢部太郎さん
矢部太郎さんと言えば、お笑いコンビ「カラテカ」のボケ担当ですね。
そんな彼が、8年前から間借りしている大家さんのおばあさんとの「二人暮らし」を「四コマ漫画」の「大家さんと僕」として出版しました。
「漫画」は「文学」なのかと言われると、ちょっと違うかなという気はしますが、「絵本の一種」「一種のポエム(詩)」と言えなくもありません。
麻生太郎元首相は「漫画愛好家」として有名ですが、イギリスのチャーチル元首相も漫画が大変好きだったとどこかで読んだことがあります。
随分脱線してしまいましたが、閑話休題。この作品で彼は「手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞しました。これは、なんとも「ほっこり」する実話漫画です。
矢部太郎さんは、テレビのバラエティーでうまく喋れないのが悩み。同世代の女性より、大家さんの方が話が合う。
一方、大家さんのおばあさんは、とても上品な物腰で、挨拶は「ごきげんよう」。矢部さんとの「二人暮らし」が楽しく、寿命が延びたそうです。
好きなものは、伊勢丹とNHKと羽生結弦くんだそうです。なんだかとても面白そうでしょう?興味のある方は、ぜひご一読ください。
彼のお父さんは、絵本作家として有名なやべみつのりさんだそうです。彼はお父さんの影響を強く受けているそうで、確かにほっこりする漫画は、絵本に通じるものがありますよね。
(7)田村 裕さん
漫才コンビ「麒麟」の田村 裕さんですが、彼の「ホームレス中学生」は、発売当時大変な評判になりました。
しかし、私は個人的には、内容は確かに衝撃的ではありましたが、あまり文学作品としては面白くないと思っています。
今後、彼が何作かの作品を書いた後でなければ、「芸能人作家」と呼ぶべきかどうかわからないというのが、正直な気持ちです。