1.昔の英和辞典の発音表記
私が子供の頃住んでいた明治20年代に建てられた家には、古い書籍が沢山ありました。夏休みのある昼のこと、古い「英和辞典」を見つけて中を見ると、英語表記の下に、括弧書きで「ひらがなの発音表記」があり、面白いなと思った記憶があります。
2.日本人にどう聞こえるかに忠実な表記
その当時、多分中学生だったと思いますが、私の持っている英和辞典の発音表記は、たとえば「beautiful」なら、「bjutəfəl」とか「bjuːtəfʊl」と表示されていました。それが「びゅぅらふぅ」のようになっていたのです。現在、英単語をカタカナで表現する時に使う「ビューティフル」という表示ではなく、「どう聞こえるか」に力点を置いた発音表記でした。「animal」は「あねまぅ」で、「thirty」は「さぁりぃ」といった調子です。この英和辞典の現物は、残念ながらとっくの昔に「五右衛門風呂の焚き付け」に使ってしまって、今はもうありませんので、おぼろげな記憶を頼りに書いています。
3.英米人に通じやすい発音
私が高校生の時だったと思いますが、英語教師から、「ニッケルはネコゥ、フィラデルフィアはデルヒャーと言った方が通じる」と言う話を聞いたことがあります。その教師はアメリカに住んでいたことがあるので、信憑性は高いです。これは昔の英和辞典のひらがなの発音表記に通じるものがあると私は思うのですが・・・
その教師が、フィラデルフィアに行く列車に乗ろうと、切符を買おうとするのですが、何度言っても通じません。諦めかけていた時、アメリカ人の男が「デルヒャー」と叫んだそうです。それで「あっそうか!フィラは声に出す必要はなく、後ろのデルフィアも私たちがカタカナ表記のように発音するのではなく、「デルヒャー」のような感じで叫べばよいのだ!」と気付いたそうです。すると、すぐに切符を買えたそうです。
また、もう一つ「ちかごろは、シカゴも『チカーゴ』という方が通じる」と駄洒落まじりに教えてくれました。
私がNHKのラジオで「BBC(英国放送協会)」の「evening news」を聞いていた時、「ファーロンメネスタ アイチー」という風に聞こえたのですが、これは「foreign minister Aichi」(愛知外務大臣)のことでした。「フォリンミニスター」とは聞こえませんでした。
このような経験からすると、昔の英和辞典の「ひらがな発音表記」(全ての英和辞典がそうだったとは思いません。中学生向けにわかりやすく表記していた辞典だったのかも知れません)は、決して捨てた物ではありませんね。
4.英語は発音記号で覚えるものではない
幕末や明治時代の人は、初めて聞く英語を自分の耳にどう聞こえるかを基準に覚えて話していたのではないでしょうか?明治時代に、鉄道の切符のことを「テケツ」と言ったのもその例でしょう。
英米人の赤ん坊にしても、「発音記号」など知りませんし、両親のしゃべる英語を自分なりに真似てだんだんちゃんとした英語を話すようになるのでしょう。
戦後、アメリカのポップスがどんどん輸入されて、日本の歌手も英語で歌っていましたが、彼らも聞こえてくる英語の歌を、聞こえてくるように「カタカナ」に直して覚えたそうです。イギリス英語に比べてアメリカ英語は流すように崩したり省略したような発音になっていますので、歌詞の英語の単語通りにカタカナに直したのでは、それらしく聞こえません。美空ひばりも英語はしゃべれないそうですが、ジャズなどの英語の歌をとても上手に歌っています。耳から入って来た通り歌っているので、英米人が聞いてもとても綺麗な英語だそうです。
エルビスプレスリーの「ハウンドドッグ(Hound Dog)」の冒頭の、
「You ain’t nothin’ but a hound dog」も「ユエンナサブラ ハウンドグ」と歌っているように聞こえます。
カーペンターズの「トップオブザワールド(Top Of The World)」でも「for you and me」は「ヒューアンミー」と聞こえます。
私たちも、これから英語をしゃべる時は、発音記号は忘れて、英米人が話したり歌ったりするのを聞いた自分の耳を信じて、そのように発音することを心掛けてはどうでしょうか?
ちなみに、中浜万次郎(ジョン万次郎)は土佐の漁師で、14歳の時漁船が遭難して漂流し、アメリカの捕鯨船に救助されて、アメリカに渡りアメリカの学校教育を受けた人物です。
彼は英語を覚えた際に、「耳で聞こえた発音をそのまま発音」しており、現在の英語の発音辞書で教えているものとは大きく異なっていたそうです。彼が後に記述した英語辞典の発音法の一例を挙げると、「こーる」=「cool 」「わら 」=「water」「さんれぃ」=「 Sunday 」「にゅうよぅ」=「New York」のようになっています。
実際に現在の英米人に中浜万次郎の発音通りに話すと、多少早口の英語に聞こえるが正しい発音に近似しており、十分意味が通じるという実験結果もあります。
5.小学校の英語教育では英米人に通じやすい発音を教えてほしい
今年(2018年)4月から、小学校での英語教育が始まったと聞いていますが、最初の段階で、「正しい発音」(英米人に通じやすい発音)を身につけるようにしないと、多くの団塊世代のように、なかなか英米人に通じる発音が出来ないことになってしまうのではないでしょうか?
小学生にとっては、初めて見る・初めて聞く英単語ですから、昔の英和辞典のように、「聞こえる通りのわかりやすい発音記号。即ちひらがな表記」で教えるのが適当だと思います。それと、教師の方も、団塊世代の時代の英語教師のように「ビューティフル」と発音するのではなく、「びゅぅらふぅ」のように正しく発音してほしいと思います。これには、「ネイティブの英語教師」の採用だけでなく、教師が民間の「英会話スクール」で勉強するというのも、一つの方法だと思います。
それと、団塊世代の英語教育のように「読む・書く」中心ではなく、「聞く・話す」も重視した「実用的な英会話」「意思疎通の手段としての英語」教育を実現してほしいものです。2020年の東京五輪を契機として、多くの日本人が英語を自由にしゃべれるようになることを期待したいものです。