私が小学生の時、東京から転校してきた生徒が「東京弁(標準語)」を喋るのを、気障(きざ)で気取っているように感じた同級生たちが囃し立てたことがあります。
それを知った担任の先生が、「お前たちが東京へ行ったら、逆にアチャコ、アチャコと馬鹿にされるだけや」と言って諭したので、それ以後転校生を冷やかすことはなくなりました。
「アチャコ」というのは、当時ラジオで浪花千栄子と共演した「お父さんはお人好し」という番組や、「横山エンタツ」との漫才で人気のあった「花菱アチャコ」(上の写真)のことです。「滅茶苦茶でごじゃりまするがな」とか「さいなもう・・・」という大阪弁のセリフで大人気でした。
1.大阪弁が「柄の悪い言葉」と誤解された経緯
エンタツ・アチャコの後、大村崑・芦屋雁之助の「番頭はんと丁稚どん」や、藤田まこと・白木みのるの「てなもんや三度笠」などで大阪弁は全国的に知られるようになります。
しかし、菊田一夫の「がめつい奴」や花登筺(はなとこばこ)の「どてらい男(やつ)」などの「根性もの」、「漫才ブーム」、「ミナミの帝王」などの影響で、「大阪人はみんな、どケチでど根性を持ち、お笑い好きで柄が悪い」というイメージが定着したようです。
しかし、明石家さんまやナインティナイン、ダウンタウンをはじめとする吉本興業のお笑い芸人や、笑福亭鶴瓶(松竹芸能)などが本格的に「東京進出」するに及んで、そういう大阪人に対する「ステレオタイプの悪いイメージ」は減って来つつあるようです。
ただ私が今でも気になるのは、東京人(といっても、本当の江戸っ子ではない地方出身者)の俳優が、「変なイントネーションの大阪弁や関西弁」を喋ることで、これは「エセ大阪弁」「エセ関西弁」なので非常に耳障りです。
「方言指導」の人が「大阪弁や関西弁のネイティブスピーカー」でないのか、下手な大阪弁しか喋れない大物俳優(小物俳優もいますが)に「ダメ出し」出来ないほど「方言指導」の人の地位が低すぎるのかどちらかでしょう。
2.温かみのある優しい大阪弁
・なんでやねん:なぜですか、・かんにんな:許してね、・あほちゃうか:馬鹿だなあ、・どないやねん:どっちなの、・おおきに:ありがとう、・けったいな:変わった、・いちびり:お調子者、・ごんた:腕白小僧、・おぼこい:幼い、・よう言わんわ:あきれてものが言えません、・せやねん:そうだよ、・かなん:困る、・さら(っぴん):新しい、・おはようおかえり:行ってらっしゃい・早く帰って来てね、・あまえた:甘えん坊、・よろしゅうおあがり:お粗末さまでした、・ほる:捨てる
大阪の人(関西人全体かも知れません)は、よく「あほちゃうか」と気軽に言いますが、大阪以外の地方の人には、「馬鹿にされたような非常に強い言葉」に感じられるようですので、気を付けたいものです。
私の母は大正12年生まれですが、私が子供の頃、父が朝出勤する時は必ず「おはようおかえり(お早うお帰り)」と声を掛け、夜に帰ってきたときは「おかえりやす(お帰りやす)」(「お帰りなさい」の意)と言っていました。
また、励ます時には「おきばりやす(お気張りやす)」(「頑張ってくださいね」の意)と優しく言いました。
これらの言葉は、私にとって心に沁みるような「温かみのある優しい大阪弁」です。私は今後も大阪人の誇りを持って大阪弁を使っていきたいと思います。
というよりも、私のように大阪府高槻市で生まれ育ちここ以外の土地に住んだこともない人間には大阪弁が染みついていますので、今さら標準語や東京弁を器用に使うことは無理な話です。