ソクラテスの妻クサンティッペは本当に悪妻だったのか?悪妻伝説の真相に迫ります

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クサンティッペソクラテスに水を浴びせるクサンティッペ

(ソクラテスに水を浴びせるクサンティッペ)

西洋では「悪妻の代名詞」となっているソクラテス(B.C.469年頃~B.C.399年)の妻クサンティッペ(Xanthippe)(生没年不詳)ですが、後年の作り話も多く、彼女の実際の姿はほとんど不明というのが真実です。なお、英語でXanthippeという単語は、「口やかましい女性」「口の悪いがみがみ女」「悪妻」を表す普通名詞となっています。

1.クサンティッペについてのエピソード

エピソードは主に「ソクラテスの言葉」として伝えられています。

(1)ある時、クサンティッペはソクラテスに対して激しくまくしたて、彼が動じないので頭から水を浴びせた。しかし、ソクラテスは平然と「雷のあとに雨はつきものだ」と語ったそうです。

(2)ソクラテスは「セミは幸せだ。なぜならものを言わない妻がいるから」と言ったそうです。

(3)ソクラテスは「ぜひ結婚しなさい。よい妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば私のように哲学者になれる」と言ったそうです。

(4)「そんなにひどい妻なら別れたらいいじゃないか?」と言う人に対して、ソクラテスが言った極め付きの言葉は、「この人とうまくやっていけるようなら、他の誰とでもうまくやっていけるだろうから」でした。

もう一つ、ソクラテスの弟子プラトン(B.C.427年~B.C.347年)は著書「パイドン」の中で、「クサンティッペは妻としても母としても何ら貢献をしなかった」と酷評していますが、一方で「死刑判決を受けて獄中にあるソクラテスを思って嘆き悲しみ、取り乱した」とも述べています。

ソクラテスはアテナイの民衆裁判によって死刑判決を受け、毒人参の汁を飲んで刑死しました。

ソクラテスは52歳の時、15歳のクサンティッペと結婚し3人の子供が生まれています。「老いらくの恋」ともいうべき「37歳の年の差婚」です。ジェネレーションギャップもあったでしょうし、15歳の少女には「哲学者」というものが理解できなかったとしても、無理はありません。

プラトンが著した「ソクラテスの弁明」によれば、ソクラテスは普段の生活と仕事内容について次のように語っています。

私は今もなお神意のままに歩き回って、アテナイ市民であれ、またよそ者であれ、いやしくも賢者と思われる者を見つければ捕まえて、このこと(彼らが実際に賢者であることの吟味と論駁)について探究し、真実を明らかにしているのである。

そして事実これに反することが分かれば、私は神の助力者となって、彼が賢者ではないことを指摘する

またこの仕事があるがゆえに、私は公事においても私事においても、言うに足るほどの成果を挙げる暇もなく、神への奉仕の事業のために極貧の内に生活しているのである。

(プラトン著、久保勉訳、岩波文庫『ソクラテスの弁明』、24頁)

夫であるソクラテスに十分な収入があって家計が豊かであれば、クサンティッペもそれほどがみがみ文句を言うおかみさんにならなかったと思います。家計が苦しければ、夫に何か定職に就いてほしいと願うのは妻として当然でしょう。そういう意味で幼な妻のクサンティッペには同情すべき点も多いのではないでしょうか?

2.ソクラテスの「悪夫説」

プラトンの描く「理想的な哲人ソクラテス像」とは別に、当時のほかの資料には、「まともに働かず、日がな一日おしゃべりに明け暮れる悪夫としてのソクラテス像」も存在するそうです。

ソクラテスの信念を知らなければ、彼はよそ目には、街中で喧喧囂囂の議論を繰り広げたり、井戸端会議のようなことをしたり、居酒屋で管を巻いている「無職のプータロー」のように見えたことでしょう。

ソクラテスは、当時賢人と呼ばれていた政治家や詩人など様々な人を訪ねて、「アポロンの宣託通り、自分が最も知恵があるのかどうか」を検証するために「対話」を行いました。そしてソクラテスが賢者であるという評判が広まる一方、無知を指摘された人々の反感・憎悪を買い、ついには「アテナイの国家が信じる神々とは異なる神々を信じ、若者を堕落させた」という罪状で死刑に処せられてしまいます。

3.私の結論

これらのエピソードなどを公平な立場から見ると、「哲学者としてのソクラテス」に理解のある人と「哲学者とは働かずに一日中議論したり、考え込んだりしているだけ」と理解のない人の意見の違いのようです。

「物にはすべて表と裏がある」「物事は一方向から見ただけでは真実・本質はわからない。必ず別の方向からも見よ」「一枚の紙にも裏表」「盾の両面を見よ」ということだと思います。

サラリーマンの評価でも、上司によって能力・才能を好意的に高く評価する人がいる一方、低い評価しか与えない人がいる「依怙贔屓」があるのと同じです。サラリーマンの哀歓もそこにあります。


ソクラテスの妻 (文春文庫)[本/雑誌] (文庫) / 柳広司/著

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