ギリシャ神話は面白い(その27)アレースは美形だが残忍・不誠実な嫌われ者

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アレース

『ギリシャ神話』はもともと口承文学でしたが、紀元前8世紀に詩人のヘーシオドスが文字にして記録しました。古代ギリシャの哲学、思想、宗教、世界観など多方面に影響を与え、ギリシャでは小学校で教えられる基礎教養として親しまれています。

絵画ではしばしばモチーフとして扱われ、多くの画家が名作を残しています。文学作品や映画などにも引用され、ゲーム作品でも題材になっていることがあります。たとえば、ディズニー映画の『ヘラクレス』はギリシャ神話をモデルにしたお話です。

『ギリシャ神話』(およびその影響を受けた『ローマ神話』)は、現在まで欧米人にとって「自分たちの文化の土台となったかけがえのない財産」と考えられて、大切にされ愛好され続けてきました。

欧米の文化や欧米人の物の考え方を理解するためには、欧米の文化の血肉となって今も生き続けている『ギリシャ神話』の知識が不可欠です。

日本神話」は、天皇の権力天皇制を正当化するための「王権神授説」のような神話なので、比較的単純ですが、『ギリシャ神話』は、多くの神々やそれらの神の子である英雄たちが登場し、しかもそれらの神々の系譜や相互関係も複雑でわかりにくいものです。

前に「ギリシャ神話・ローマ神話が西洋文明に及ぼした大きな影響」という記事や、「オリュンポス12神」およびその他の「ギリシャ神話の女神」「ギリシャ神話の男神」を紹介する記事を書きましたので、今回はシリーズで『ギリシャ神話』の内容について、絵画や彫刻作品とともに具体的にご紹介したいと思います。

原始の神々の系譜

オリュンポス12神

ギリシャ神話・地図

第27回は「アレースは残忍・不誠実な性格で神々の嫌われ者」です。

1.アレースとは

アレース

アレース(アーレース、アレス)は、ギリシア神話に登場する「戦を司る神」で、ゼウスとヘーラーの息子です。「オリュンポス十二神」の一柱となっています。ローマ神話のマールス(マルス、マーズ)と同一視され、また火星と同一視されます。

このため黄道上に位置し火星とよく似た赤い輝きを放つ天体である「さそり座」のα星はアンタレスと呼ばれます。火星の衛星フォボスとダイモスはアレースの子の名から採られています。

聖獣はオオカミ、イノシシで聖鳥は啄木鳥、雄鶏。聖樹はトネリコ。

本来は戦闘時の狂乱を神格化したもので、恩恵をもたらす神というより「荒ぶる神」として畏怖されました。「城壁の破壊者」という異名もあります。「戦争における栄誉や計略を表す女神」アテーナーに対して、戦場での狂乱と破壊の側面を表します。

アテーナーとアレース

その性格も粗野で残忍、かつ不誠実であったとされます。ただし、男神の中では1、2を争う程の美貌を持っています。身長も高く、人間の前には大抵人間サイズの大きさで現れますが、真の姿だと、その身長は200メートルを優に超えます。体重は不明です。

2.アレースにまつわる神話

(1)人間ディオメーデースや英雄ヘーラクレースから痛い目に逢う

戦いの神でありながら人間であるディオメーデースに敗北した(ただし、アテーナーがディオメーデースの支援をしていた)ほか、英雄ヘーラクレースからは半死半生の目に遭わされています

また、巨人の兄弟アローアダイ(オートスとエピアルテース)により青銅の壺の中に13か月間幽閉されるなど、神話ではいいエピソードがありません。これはアレースの好戦的な神格がギリシャ人にとって不評だったこと、主にギリシャにとって蛮地であるトラーキアで崇拝されていたことによります。

(2)アプロディーテーの愛人

基本的に神々の中では嫌われていますが、愛人のアプロディーテーや従者と子供達、そして彼が引き起こした戦争が冥界の住人を増やすことから、冥界の王・ハーデースとは交際があります。

戦場では普段は徒歩ですが、場合によっては黄金の額帯を付けた足の速い4頭の神馬に戦車を引かせ、青銅の鎧を着込んで両手に巨大な槍を持ち、戦場を駆け巡りました。

ヘーパイストスの妻であるアプロディーテーの愛人となり、息子ポボス(フォボス、敗走)とデイモス(恐慌)の兄弟、娘ハルモニアー(調和)をもうけました。

エロースをアレースとアプロディーテーの子に加える説もありますが、これは元々関係のなかったアプロディーテーとエロースを関連付けるために作られたものです。他にも、アマゾーンをはじめとする多くの蛮族の父です。

また、エリスやエニューオーも彼の従者であり一般的には妹とされていますが、姉や妻とされることも多く、また特にエニューオーは母や娘とされていることもあります。

(3)ポセイドーンとの確執と「世界初の裁判」

ポセイドーンの息子の1人・ハリロティオスがアレースの娘アルキッペーを犯し、激怒したアレースはハリロティオスを撲殺しました。ポセイドーンは激怒し、アレースを神々の裁判にかけることを主張し、それが認められました。

こうして「アレースの丘」で「世界初の裁判」が開かれることになりました。アレースは情状酌量の余地があるとして無罪となり、これ以降重大事件の裁判がアレースの丘で行われるようになりました

(4)ゼウスの怒りを買ったコリントス王シーシュポスを救出

コリントス王シーシュポスはゼウスの怒りを買い、死神タナトスによって冥界へ連行されようとしていましたが、シーシュポスはタナトスを騙して監禁し、地上の人間が死ななくなったため、アレースは彼を救い出しました。

(5)怪物デューポーンの攻撃を受けたときは魚に変身

怪物テューポーンがゼウスの王権を奪おうと攻撃し、神々は変身してエジプトへ逃げた時、アポローンは鷹に、ヘルメースはコウノトリに、アレースは魚に、アルテミスは猫に、ディオニューソスは山羊に、ヘーラクレースは子鹿に、ヘーパイストスは雄牛に、レートーはトガリネズミに変身しました。

(6)息子を殺したヘーラクレースと闘おうとするもゼウスが雷を落として制止

アレースとピュレーネー(またはペロピアー)の息子キュクノスをヘーラクレースが殺した際、アレースが息子の死を怒りヘーラクレースと闘おうとしましたが、ゼウスはそれを良しとせず二人の間に雷を落とし闘いを止めました。

(7)『ホメーロス風讃歌』の中の「アレース讃歌(第8番)」

『ホメーロス風讃歌』「アレース讃歌(第8番)」では槍の使い手であり、黄金の兜と青銅の鎧と楯をまとい、火を吐く馬どもの戦車を操り天空を巡り(火星のこと)、オリュンポスや都市を護り、人間たちに光と武勇を与え、強い力でもって勝利と平和をもたらす神であり、掟の女神テミスの支援者であり、勝利の女神ニーケーの父であると歌われています。

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