難しい事柄を、誰にでも抵抗なくわかりやすく理解させる方法として「マンガ」がよく用いられてきました。「マンガ税金百科」「マンガでわかる七つの習慣」「マンガでやさしくわかるアドラー心理学」「マンガ日本の歴史」等々です。
近年、「わかりやすいニュース解説者」としてテレビで引っ張りだこの池上彰氏は、かつて「週刊子供ニュース」の「お父さん役」で出演していました。私も何回か見たことがあるのですが、子供の素朴な疑問や核心を突いた意外と鋭い質問にも、丁寧にやさしく答えていました。彼の解説は「マンガを用いた解説本」とよく似ています。
前に「訪日外国人向けのお手本動画」の記事を書きましたが、最近従業員教育用に紙ベースのマニュアルに代えて(あるいは補助教材として)、「短尺動画」を利用する企業が増えているそうです。
今回はこれについてご紹介したいと思います。
1.「クリップライン」
(株)クリップラインとは、「多店舗ビジネスを動画で改善することを目的としたクラウドサービス」を提供する会社で、2013年7月設立の日本の会社(本社:東京都港区)です。
同社は「iPadに短尺動画マニュアルを配信するサービス」を提供しています。
これを用いると、多店舗ビジネスにおける様々な業務や情報・ノウハウなどの「暗黙知」を「短尺動画」(クリップ)という「形式知」に変換・蓄積し、組織内に流通・循環させることができるわけです。
そのため、スタッフ教育、マネジメント、コミュニケーションにおける課題を効率的に解決し、従業員満足度、顧客満足度や業績アップも期待できるとのことです。
具体的な活用シーンとしては、次のようなものがあげられています。
「新人アルバイト教育、接客・応対力の強化、商品提供スキルの強化、新商品・サービスの展開、新設備・機器の導入、新店立ち上げ・業態変更、外国人教育・海外展開、店舗マネジメントの強化、ノウハウや優良事例の共有など」
2.動画投稿アプリ「Tik Tok」(ティックトック)
「Tik Tok」は、中国のByte Dance社が開発運営している「モバイル向けショートビデオ(短尺動画)のプラットフォーム」で、2016年9月にサービスを開始しました。日本市場には2017年8月に登場しました。
撮影時間は最大60秒の極めて短い動画です。しかし、店舗で従業員教育に使用する企業の担当者によれば、「3分を費やすなら、1分の動画を3回見せた方が定着する」とのことです。この「短さ」は、忙しい現場スタッフのニーズにもフィットしているようです。
フィットネスクラブの「ティップネス」では「アルバイトの離職を防ぐ効果も出ている」とのことです。
なお「Tik Tok」については、未成年者の使用の危険性、不適切な利用による社会問題や、中国に対する批判的な動画のアカウントを削除するなど中国当局による検閲もあるようなので注意が必要です。
3.今後の可能性
NHKの「新日本紀行」や「新日本風土記」では、失われつつある日本各地に根付いた文化・風習・風景などを記録した「映像遺産」ですが、職人技や無形文化財にも「短尺動画」が応用できそうな気がします。
「デジタルでの技術継承」ということです。実際に「機械加工品の検査」の様子を作業担当者が(株)フォトロンの「モバイルビデオクリエーター」という動画制作・編集アプリを利用してiPadを使って撮影から編集まで行っている例もあるようです。
今後は、職人技・名人技のような「伝統技術」の伝承・継承や、古くから伝わる祭りや演劇などの「無形文化財」の保存などにも、このような「短尺動画」を使えば、細かい部分の習得に役立つのではないでしょうか?
多店舗ビジネスのマニュアルのように、1分で説明できるほど単純ではないかもしれませんが、職人技・名人技もいくつかの工程にブレイクダウンした比較的短い動画を集大成したマニュアルが作れるのではないかと思います。
最近、大企業ではビジネスパーソン向けにパソコンやスマホを使った「e-ラーニング」という社内研修を実施するところが増えて来ましたが、この「e-ラーニング」は15分~30分程度の時間がかかるのに比べて、「短尺動画」は3分~5分程度の手軽な「マイクロラーニング」であり、今後増えて来そうな予感がします。