「お灸を据える」というと、「きつく注意したり、罰を与えて懲らしめる」という意味で使われることが多いのですが、私は「灸で治療をする」という体験をしたことがあります。
方言かもしれませんが、私の家では「お灸」のことを「やいと」と言っていました。
1.私ががお灸を据えられた話
私は子供の頃、体が弱くよく風邪をひいたり下痢をしたりする「腺病質(せんびょうしつ)」の虚弱で神経質な子供でした。
小学校低学年のある夏の日のこと、腺病質を心配した母親が、私には事前に知らせずに「鍼灸師」を家に呼んだのです。私は白衣を着た知らないおじさんが家に来たのでびっくりしました。
私は服を脱いでうつ伏せに寝かされました。背中の下の方(腰の近く)に灸を据えると言うのです。おじさんは「熱くないから。動くとかえって熱いよ」と注意されたので、じっとしていました。
確かに少し熱い感じはしましたが、飛び上がるほどの熱さではなく、何分かして施療は終わりました。
お灸の効き目がどの程度あったのか定かではありませんが、その後私も体が次第に丈夫になって行きました。
2.松山善三がお灸を据えられた話
ある時、有名な映画監督の松山善三のエッセーを読んでいて、彼にもお灸を据えられた経験があることを知りました。
彼は、小学校に上がる前に、へその上に小さなお灸を二つ据えられたそうです。彼もよく腹をこわしたり、風邪をひいたりすることが多かったようです。
彼は発育が悪く、生まれるとすぐに一人住まいの祖母の家に預けられたそうです。彼女は近所の婆さん仲間を集めては終日「ご詠歌」をうなるのが日課だったようです。
ある日、「この子には灸を据えるのがよい」と婆さん仲間の意見が一致したので、彼はいきなり三人の老婆に押し倒され、全裸にされて両手足を押さえつけられ、祖母がモグサをへその上に唾でくっつけ、線香の火を点じたそうです。
その時、彼は恥ずかしさでいっぱいになったそうですが、終わった後「ザラメ」という砂糖を口に入れてもらったのが、砂糖との最初の出会いだったと書いています。白い砂糖を見たのは9歳になってからだそうです。