1.一粒万倍日とは
宝くじ売り場で「大安吉日」と並んで「一粒万倍日」と表示されているのを見かけたことはありませんか?
「一粒万倍」とは、「わずかなものから非常に多くの利益を得ること」を意味する四字熟語で、読み方は「いちりゅうまんばい」です。1粒の種子が万倍となって実る様を表しています。「稲」の異名でもあります。もともとは仏教の言葉で、ひとつの善行がたくさんの良い結果に結びつくことを意味していました。
「一粒万倍日」(いちりゅうまんばいび/いちりゅうまんばいにち)とは、占いの一つである「四柱推命(しちゅうすいめい)」(中国で陰陽五行説を元にして生まれた人の命運を推察する方法)において、大安と並んで運のいい日とされる吉日のことです。
開業や結婚など、新たな物ごとを始めると大きく実を結びやすい縁起のいい日とされています。
「一粒万倍日」は、「二十四節気」と、一日ごとに割り振られている「干支」との組み合わせによって決まります。二十四節気とは太陽の動きに合わせて1年を24等分し、それぞれに季節の名称を付けたもの。春分や夏至、大寒などのことです。
たとえば、立春(2021年は2月3日)から啓蟄の前日(3月4日)までなら丑の日・午の日が、啓蟄(3月5日)から清明の前日(4月3日)までなら寅の日・酉の日が一粒万倍日です。
2021年のこの後の「一粒万倍日」は次の通りです。
4月 | 10日(土)、13日(火)、22日(木)、25日(日) |
5月 | 4日(火)、7日(金)、8日(土)、19日(水)、20日(木)、31日(月) |
6月 | 1日(火)、14日(月)、15日(火)、26日(土)、27日(日) |
7月 | 9日(金)、12日(月)、21日(水)、24日(土) |
8月 | 2日(月)、5日(木)、8日(日)、15日(日)、20日(金)、27日(金) |
9月 | 1日(水)、9日(木)、16日(木)、21日(火)、28日(火) |
10月 | 3日(日)、13日(水)、16日(土)、25日(月)、28日(木) |
11月 | 6日(土)、9日(火)、10日(水)、21日(日)、22日(月) |
12月 | 3日(金)、4日(土)、17日(金)、18日(土)、29日(水)、30日(木) |
2.「お宮参り」の日取り
私は宗教を全く信じず、迷信もあまり信じない方で、今まで「六曜(ろくよう/りくよう)」についてもあまり気にしたことがありませんでした。ただし結婚式の日取りは、さすがに「仏滅」は避けました。
初孫が生まれて、1ヵ月が経って「お宮参り」をすることになった時も、「土曜日の午前なら都合がよかろう」と思い、近所の神社(野見神社)に予約を入れました。
しかし、間際になって妻から「ところで、今度の土曜日は大安とか友引とかで言うと何ですか?」と聞かれて、ハタと立ち止まりました。調べてみると、なんとその日は「仏滅」でした。
自分の生まれた日は「大安」でも「仏滅」でもどうすることもできませんし、自分の誕生日が「六曜」で何の日かを知っている人は少ないのではないでしょうか?
しかし迷信とはいえ、やはり孫の「お宮参り」となると気になり、わざわざ「仏滅」の日を選ぶ必要もないだろうということで、翌週の土曜日(大安)に延期しました。
3.「六曜」とは
「六曜」とは「暦注(れきちゅう)」(*)の一種で、中国で誕生したものです。
(*)「暦注」とは、「暦に記載される日時・方位などの吉凶、その日の運勢などの事項」のことです。我が家が初詣に行く京都・城南宮で祈祷を受けると貰える「離宮暦」には、細かく書いてあります。
「暦注」の大半は、「陰陽五行説」「十干十二支(干支)」に基づくものです。一般に暦の上段には、日付・曜日・二十四節気・七十二候などの科学的・天文学的事項や年中行事が書かれ、中段には十二直、下段には選日・二十八宿・九星・六曜などが書かれています。
昔は「六曜」がカレンダーや手帳には必ず書いてありましたが、最近では書いていないものも増えています。
六曜が書かれたカレンダーを見ると、1日~末日までどの日にもいずれかの六曜が該当しているのが確認できます。基本的に「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の順番でカレンダーに並びますが、時々「大安」の次にまた「大安」が来るなど、不規則的な順序になっていることがあります。
この理由は、旧暦の1日にあてはまる六曜が決まっているため。旧暦1月1日と7月1日は「先勝」、2月1日と8月1日は「友引」という風に、前日にどんな六曜が来ていても、旧暦1日になると強制的にリセットされるような仕組みになっています。そしてまた、旧暦1日から決まった順序で六曜が並んでいくというわけです。
4.「六曜」全ての意味
(1)大安(たいあん)
「万事進んで行うのに良いとされる日」です。「大いに安し」の意味です。
(2)友引(ともびき)
「勝負の決着がつかない良くも悪くもないとされる日」です。
(3)先勝(せんしょう/せんかち)
「早く事を済ませることが良いとされる日」です。「先んずれば即ち勝つ」の意味です。
(4)先負(せんぷ/せんぶ/せんまけ)
「急用は避けるべきとされる日」です。「先んずれば即ち負ける」の意味で、「先勝」に対応します。午前は「凶」、午後は「吉」と言われます。
(5)赤口(しゃっこう/しゃっく)
「正午の前後を除いて凶とされる日」です。午の刻(午前11時ごろから午後1時ごろまで)のみ吉で、それ以外は凶とされる日です。
(6)仏滅(ぶつめつ)
「六曜」における大凶日です。
もとは「虚亡」といい勝負なしという意味で、さらに「空亡」とも称されていましたが、これを全てが虚しいと解釈して「物滅」と呼ぶようになり、仏の功徳もないという意味に転じて「仏滅」の字が当てられたものです。
字面からブッダ(釈迦)が入滅(死亡)した日と誤解されることが多いですが、六曜は仏教に由来するものではなく無関係です。確かにブッダ(釈迦)が亡くなった日がたくさんあったらおかしいですよね。
釈迦の入滅日とされる2月15日が、旧暦では必ず「仏滅」となるのは、不思議なことではありますが、全くの偶然です。
また旧暦8月15日は必ず「仏滅」になることから、「中秋の名月」には「仏滅名月」の別名もあります。
上記の二つの日(2月15日と8月15日)が必ず仏滅になる「種明かし」は次の通りです。
六曜 は旧暦の月と日にちを足した数を6で割り、1余ると 赤口 、2余ると先勝、3余ると友引、4余ると先負、5余ると仏滅、割り切れると大安になるのです。
言い換えると、「旧暦の月日から六曜を求める公式」は次の通りです。
5.「六曜」の歴史
(1)起源
「六曜」は中国で誕生したものです。起源については、「孔明六曜星」とも呼ばれ諸葛亮(諸葛孔明)が発案したとの俗説もありますが、いつの時代から「暦注」として確立したのかは、はっきりしていません。
(2)日本へは鎌倉時代に伝来し、江戸時代に流行
14世紀の鎌倉時代に日本に伝来しました。江戸時代に入ると「六曜」の「暦注」が流行するようになりました。
しかし、その名称や解釈・順序は少しずつ変化し、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の術語が確定したのは江戸後期のことです。
「仏滅」や「友引」など仏事と関連がありそうな言葉ですが、仏教との関係はありません。仏教では「占いを盲信して本質が疎かになればかえって悪い結果になる」として、占いを否定しています。
なお浄土真宗では開祖親鸞が「日の吉凶を選ぶことは良くない」と和讃で説いたため、迷信・俗信一般を否定しています。
(3)近世以降の日本での六曜に対する考え方
明治維新による西洋化の一環として、明治政府は1872年に太陰暦を太陽暦に改めるに当たって、「吉凶付きの暦注は迷信である」として、吉凶に関する暦注を一切禁止し、尋常小学校の教科書にも「迷信を信じるな」と記載されました。
福沢諭吉も「改暦」について次のように述べています。
且又これまでの暦にはつまらぬ吉凶を記し黒日の白日のとて訳もわからぬ日柄を定たれば、世間に暦の広く弘るほど、迷の種を多く増し、或は婚礼の日限を延し、或転の時を縮め、或は旅の日に後れて河止に逢ふもあり。或は暑中に葬礼の日を延して死人の腐敗するもあり。一年と定めたる奉公人の給金は十二箇月の間にも十両、十三箇月の間にも十両なれば、一箇月はたゞ奉公するか、たゞ給金を払ふか、何れにも一方の損なり。其外の不都合計るに遑あらず。是皆大陰暦の正しからざる処なり。…故に日本国中の人民此改暦を怪む人は必ず無学文盲の馬鹿者なり。これを怪しまざる者は必ず平生学問の心掛ある知者なり。されば此度の一条は日本国中の知者と馬鹿者とを区別する吟味の問題といふも可なり。— 福沢諭吉「改暦辨」
しかし「暦注の廃止」は人々の反発を招き、1882年頃から「オバケ暦」と呼ばれる暦注満載の民間暦が出回るようになりました。
政府が発行する官暦となった「神宮暦」も、新暦(太陽暦)と天文・地理現象のほかは国家神道の行事等のみを載せ、吉凶の暦注は一切廃止されるはずでしたが、六曜と旧暦を略本暦に付すという形で存続しました。
暦注追放によって、かえって六曜が重視されるようになったとも言われています。
第二次大戦後は、政府による統制も廃止され、六曜などの暦注を付けたカレンダーや手帳も一般に販売され、広く用いられるようになりました。
「六曜」は今日の日本においても影響力があり、「結婚式は大安がよい」「葬式は友引を避ける」など、主に冠婚葬祭などの儀式と結びついて使用されています。
これは、自分は気にしなくても、両親や祖父母、あるいは世間体を気にして「六曜」を考慮しているケースもあります。
ただし、最近は「六曜」の記載のないカレンダーが増えてきたことや、スマホの普及でカレンダーを買わない若者も増えていることから、「六曜」を知らない人もいるほどです。
かつて細木数子(1938年~2021年)がテレビに出演したり、六星占術の本を出したりして大変な「占いブーム」になったことがあります。
若い人でも、心に迷いを生じたり悩み事があったりすると、宗教や占いに頼ったりするもので、だからこそ新興宗教や占いが流行するわけです。
今後「六曜」はだんだん廃れて行くとしても、別の形の迷信や俗信は残るような気がします。