「セミの寿命は1週間」と思っている人も多いかもしれませんが、「セミの幼虫の地中での生活」は日本のセミで1年間~7年間にも及びます。
多くの人が考えている「セミの寿命」は、「成虫のセミの寿命」ですが、これもある高校生が追跡調査した研究で、成虫で1ヵ月ほど生きるセミもいることが分かりました。
1.セミは昆虫の中でも長生き
(1)セミは「不完全変態」
昆虫は普通、カブトムシやチョウ、ハチ、ハエのような「完全変態」(卵→幼虫→蛹→成虫)のものでも、セミやトンボ、バッタのようは「不完全変態」(卵→幼虫→成虫)のものでも、寿命は大体1年以内です。
余談ですが、昆虫には「完全変態」「不完全変態」のほかに、「無変態」のものもいます。シミ(紙魚)やイシノミ(古顎)のような原始的な昆虫が「無変態」です。
(2)各種のセミの寿命
昔は「セミが地中で幼虫として過ごす期間は約7年」と言われていました。
しかし現在では、種類によって異なり、ツクツクボウシは1~2年、ミンミンゼミが2~4年、アブラゼミ・ヒグラシ・エゾゼミは3~5年、クマゼミ・ニイニイゼミは4~5年と言われています。
セミは人工飼育が難しい昆虫ですが、最近は人工飼育技術の進歩により、種類ごとに正確な年数がわかってきたようです。
種類によって年数にばらつきがあるのは体長の大小に関係があるのかもしれませんが、小さなニイニイゼミが大きなクマゼミと同様に4~5年となっていますので、一概には言えないようです。
また同じ種類でも年数にばらつきがあるのは、セミの幼虫は木の根から樹液を吸って生活していますが、栄養の良い樹液がたっぷり吸える木の根に取り付いた幼虫は早く成虫になり、そうでない幼虫は長い年月がかかるということのようです。
(3)セミは昆虫の中では長寿
昆虫は一般的に短命です。昆虫の仲間の多くは、1年間に何度も発生して短い世代を繰り返します。寿命が長いものでも、卵から孵化して幼虫になってから、成虫となり寿命を終えるまで1年に満たないものがほとんどです。
カブトムシやチョウ、トンボ、バッタは1年の寿命です。なおクワガタムシは成虫で越冬するものがあり、オオクワガタは成虫で3年以上生きると言われています。
そのような昆虫の中では、セミは何年も生きる実に長生きな昆虫です。次にご紹介するアメリカの「13年ゼミ」と「17年ゼミ」も幼虫で13年、17年を過ごします。
なお、「昆虫の長寿ランキングベスト3」は次の通りです。
1位:ナスティテルメス・シロアリ(女王)、100年
オーストラリアに生息するこのシロアリ女王は、生きている間卵を産み続け、生涯に50億個の卵を産むそうです。
2位:アメリカアカヘリタマムシ、50年以上
北アメリカ原産のタマムシです。木に産卵し、幼虫はそのまま成長します。その木材が家の柱などに加工されて使われ、ある日突然タマムシが羽化するというわけです。
記録では、築51年の家でこのタマムシが羽化したそうです。
3位:ナタールオオキノコシロアリ(女王)、50年
アフリカに生息するこのシロアリ女王も、50年間卵を産み続けたそうです。
2.超長生きのアメリカの「13年ゼミ」と「17年ゼミ」
なおアメリカには、地中で17年間とか13年間も過ごし、周期的に大発生する「17年ゼミ」や「13年ゼミ」という「周期ゼミ」がいます。
どちらもよく似ていて、ほとんど区別がつきません。
(1)周期ゼミ(しゅうきぜみ)とは
「周期ゼミ」とは、セミのうち Magicicada 属に属する複数の種のセミの総称です。
毎世代、正確に17年または13年で成虫になり大量発生するセミです。その間の年には、その地方では全く発生しません。ほぼ毎年どこかでは発生しているものの、全米のどこにも周期ゼミが発生しない年もあります。
周期年数が「素数」(*)であることから、「素数ゼミ」とも呼ばれます。
(*)「素数」とは、「1より大きい自然数で、正の約数が1と自分自身のみであるもの」のことです。「正の約数の個数が2である自然数」と言い換えることもできます。
17年周期の「17年ゼミ」が3種、13年周期の「13年ゼミ」が4種います。なお、17年ゼミと13年ゼミがともに生息する地方はほとんどありません。不思議なことですね。
(2)17年ゼミ(じゅうしちねんぜみ)が今年(2021年)大発生
2021年5月、アメリカでは17年かかって地上に現れる「17年ゼミ」が、東海岸や中西部で大発生し、首都ワシントンも大きな鳴き声に包まれたそうです。
発生するセミの数は、最大で数兆匹に達すると推定する研究者もいます。
(3)周期的に大発生する理由
「17年ゼミ」や「13年ゼミ」が、決まった周期で大量に発生するのは、鳥などの天敵に食べ尽されたり、寄生虫に寄生されたりすることを防ぎ、生存するチャンスを高めるためだと考えられていますが、どのようにして17年を数えて一斉に地上に出てくるのか、詳しい仕組みはわかっていません。
17年ゼミの成虫の寿命は3週間から4週間で、5月下旬~6月中・下旬まで大きな鳴き声を響かせるそうです。
(4)「素数ゼミ」は氷河期を生き延びる生存戦略だった!?
これは理論生態学・進化生物学が専門の静岡大学教授吉村仁(よしむらじん)(1954年~ )氏の仮説です。
地球上にセミが登場したのは、2億年以上前と言われています。多様な生物が存在し、恐竜の闊歩していた頃です。
比較的温暖な気候だったこの頃は問題なかったのですが、その後何度かの氷河期を経た200万年前にはセミが土中にいる期間がとても長くなっていったと見られています。
氷河期で多くの生物が絶滅する中、北米のある地域では暖流や地形の影響であまり気温が下がらないところがあり、セミたちはその土中で10年以上かけてゆっくりと成長し、成虫になっていったそうです。
しかし、長い年月を経てようやく地上に出ても周囲に交尾可能な異性がいなければ意味がありません。生息範囲が狭い範囲に限られていればなおさらです。ばらばらの年に少数のセミが地上に出ても繁殖できず、結局絶滅してしまいます。
さらに、セミが土中にいる期間は種によってさまざまですが、それらが交雑するとせっかく合っていた周期が乱れて、次世代が交尾の機会を得にくくなってしまいます。
たとえば、14年ゼミと15年ゼミが交雑すると、その子供が土中にいる期間は15年になるかもしれませんし、14年になるかもしれません。結果として、長い時間をかけて交雑が続き、種が絶滅してしまいます。
そこで「素数ゼミ」の登場です。たとえば12年と18年のセミは、その最小公倍数である36年に1度、同じ年に地上に出て交雑してしまいます。「素数ゼミ」はその問題を解決しているのです。
12年~18年の周期で地上に出てくるセミが何年周期で交雑することになるかを表したのが下の表です。この表では13年と17年が素数、つまり「素数ゼミ」です。
青色のセルを見ると、「素数ゼミ」は交雑の周期が他と比べて長いことがわかります。
「素数ゼミ」が入ると最小公倍数が大きくなるので、周期年数の違う群れと交雑しにくいのです。
こうして、何万年何十万年も過ぎると、最小公倍数が小さい周期のセミは減っていき、最小公倍数が大きい「素数ゼミ」が生き残ったというわけです。
18年ゼミと12年ゼミは36年単位で交雑しますが、18年ゼミと17年ゼミ(素数ゼミ)はなんと306年年に一度しか交雑しません。
最も周期の短い13年ゼミ(素数ゼミ)と12年ゼミでも、156年に一度だけです。
これは「複数の数字に素数が含まれると、最小公倍数が大きくなる」という特性によるものです。偶然か意図的にかわかりませんが、この特性を利用して素数ゼミは交雑を避け、13年と17年に一度、一斉に地上に出て同じ種と交尾して子孫を残すことで繁栄してきたと考えられるということです。
3.セミの一生は地中と地上のどちらが長い方が幸せか微妙
「セミの一生」を考えると、地中での幼虫としての生活と、地上での成虫としての生活の合計ですが、地中でゆっくり幼虫生活を満喫したセミが幸せなのか、早く地中生活から脱して地上に出たセミが幸せなのか微妙なところです。
夏を謳歌するように見えるセミですが、地上で見られる成虫の姿は、長い幼虫期を過ごすセミにとっては、子孫を残すためだけの存在でもあります。
繁殖行動を終えたセミには、もはや生きる目的はありません。セミの体は繁殖行動を終えると、死を迎えるようにプログラムされています。
木につかまる力を失ったセミは地面に落ちます。飛ぶ力を失ったセミにできることは、ただ地面に仰向けにひっくり返っていることだけです。
僅かに残っていた力もやがて失われ、つついても動かなくなります。ハチやアリなどに胴をくり抜かれ、胴体や翅がばらばらになった「セミの骸(むくろ)」を見かけるようになると夏も終わりです。
セミの幼虫の抜け殻を「空蝉(うつせみ)」と言いますが、それよりも「セミの骸(むくろ)」の方が哀れを誘うように私は感じます。
余談ですが、セミは「不完全変態」なので、幼虫から成虫に羽化します。セミの幼虫はセミの抜け殻とそっくりそのままです。
夜の8時~9時頃に近くの公園の林を歩いていると、クマゼミの幼虫があちこちの地面の穴から、ぞろぞろ出てきて歩いているのに出会います。踏みつぶしてしまいそうなくらいです。
彼らはやがて木に登り始め、羽化の時期が来るのを待ちます。羽化して透き通った白い翅を乾かしているのを見るのは神秘的で感動的です。
皆さんも一度セミの羽化を観察してみてはいかがでしょうか?