1.昭和40年代に市電(路面電車)が相次いで廃止される
私が若い頃にはまだ京都市内を「チンチン電車」(市電)が走っていましたが、1978年(昭和53年)9月末に全廃されました。
大阪市電は1969年(昭和44年)に全線廃止、神戸市電も1971年(昭和46年)に全線廃止となっています。
昭和40年代の急速なモータリゼーションの進展、バスや地下鉄への転換に伴い、市電(路面電車)が相次いで廃止されました。京阪神では現在、大阪市内と堺市内を結ぶ「阪堺電気軌道」が走っているだけです。
平成25年12月末時点で、路面電車は、全国17都市20事業者、路線延長約206kmが営業しているだけです。
ひと頃もてはやされたLRT(ライトレールトランジット)ですが、最近はほとんど聞かれなくなりました。それはなぜでしょうか?
2.LRTの導入
(1)LRTとは
「LRT」は「輸送量が軽量級な公共交通機関」のことです。
「LR」とは Light rail の頭文字で「輸送力が軽量級な」、「T」はTransit の頭文字で「公共交通機関」ということです。
「新型路面電車」とか「スーパートラム」と呼ばれていますが、訳語としてはほかに「軽量軌道交通」があります。
(2)世界での導入状況と日本での導入
1980年に入った頃から世界でLRTが導入され始めました。
「クルマ社会からの見直し」が迫られ、「人と環境に優しい公共交通」として、路面電車が廃止された都市を中心に、新たなLRT路線建設で導入されて来ました。
およそ20年間に欧米を中心に55もの都市に導入された潮流は「トラム革命」とも呼ばれました。欧米ではLRTは今も続々と開業されています。
日本では、2006年(平成18年)4月に富山市で初めて本格的なLRTが導入されました。
熊本や広島、岡山など既存路面電車線に「低床LRT車両」(LRV)が続々と導入されていますが、今のところ新線を建設して新規にLRTを導入したところはありません。
そんな中、栃木県宇都宮市が「LRTで交通が不便なが町の汚名返上」のために、全くゼロからのLRT整備を計画しており、2022年の開業を目指しています。
(3)従来の路面電車との違い
路面を主に走行する点では従来の路面電車と同じですが、速度が速くなったほか、車内の段差のない低床車両を使い、走行時の騒音や振動が少なく快適性に富んでいるのが特徴です。
車内の段差のない低床車両(バリアフリー)のため、LRTは「街の中を水平に動くエレベーター」とも呼ばれます。
3.LRTのメリット・デメリット
(1)メリット
①地下鉄と比べて建設コストが格段に低く、開業が極めて早くできる
②線路の幅(ゲージ)が同じであれば、JR線や地下鉄線との相互乗り入れも可能
③車両編成を長くし、高頻度運行をすれば地下鉄とほぼ同等の輸送能力がある
④地下のホームまでの乗り降りがなく、アクセスが容易
⑤バスと違って乗り心地が良く、公害となる排ガスを出さない
(2)デメリット
①車や人との錯綜・混雑に機敏に対応できない
②都市機能の変化に伴う輸送実態の変化に即応できない
③臨時の経路変更などの対応ができない
④追い越しができない
⑤急な臨時便の設定が難しい
⑥停車設備が必要なので、「駅」の配置に制約がある
⑦イベントなどの際の輸送力ではバスに劣る
⑧病院玄関前に乗り付けたり、多様な派生路線を設定できない
⑨路線の設定によっては、乗り換えが増えて不便になったり、運賃が上がったりする
⑩対自動車や対歩行者の安全性確保に懸念がある
⑪都市部の道路にLRT用の新線路建設の余地が少ない
⑫路面電車事業者の多くが大規模な投資を行う財政的余力を持たない
⑬交差点などで交通障害になりやすい
⑭混雑時など乗降時間がかかる
⑮「表定速度」(*)が新交通システムやモノレールに比べて著しく低い
(*)表定速度:「運転区間の距離」を「停車時間を含めた所要時間」で除したもの
以上のメリット・デメリットを総合的に見ると、LRTは非効率で、やはり現在の日本では普及はなかなか難しいと思います。