先日、「もう秋の虫が鳴きだしたな」と妻に話すと、「何も聞こえませんよ」と言われて愕然としました。「耳鳴り」の前兆だったのかもしれません。
私は高校生の時に罹った「若年性再発性網膜硝子体出血」の後遺症で、蚊が飛んでいるように感じる「飛蚊症」です。
「目には蚊を耳には蝉を飼っている」というシルバー川柳を思い出して、「言い得て妙」と感心しました。
この川柳は、公益社団法人「全国有料老人ホーム協会」主催の「第11回シルバー川柳」(2011年)入選作で、中村利之さん(大阪府・67歳・無職)の作品です。
1.「加齢黄斑変性症」と「飛蚊症」
(1)加齢黄斑変性症(かれいおうはんへんせいしょう)
①症状
「加齢黄斑変性症」は、加齢に伴い、モノを見る際に大切な働きをする「黄斑」という組織がダメージを受けて老廃物を処理する能力が衰えることで機能が低下し、「視力低下や視野が欠けてしまうなどの症状」を引き起こすのです。
「加齢黄斑変性症」でも、次に述べる「飛蚊症」の症状を感じることがあるそうです。
日本人の中途失明原因の第4位になっています。なお欧米では、中途失明原因の第1位です。
「加齢黄斑変性症」は、日本では50歳以上の80人に1人が発症しています。そして、歳を重ねるごとに発症率は高くなり、患者数は年々増えてきています。
視界の中心部分が見にくくなるため、文字が読みにくい、人の顔が識別できない、手元や足元が見にくいなど、日常生活に支障が出てしまうのが症状の特徴です。
②種類
「委縮型」と「滲出型(しんしゅつがた)」があります。
「委縮型」は、黄斑の組織が加齢とともに委縮する現象です。症状はゆっくりと進行し、急激に視力が低下することはありません。
「滲出型」は、網膜のすぐ下に新しい血管(新生血管)ができて、この血管が黄斑にダメージを与えます。新生血管は正常の網膜にはない血管で、非常にもろく成分が漏れ出て溜まる、あるいは出血を起こしやすいという特徴があります。この血管から出た液体が黄斑の組織にダメージを与えて、視覚障害を引き起こすのです。
③原因
主な原因は、「加齢による目の老化」ですが、ほかには「光線によるダメージ」「遺伝」などがあります。
年々強くなってきている紫外線、パソコンやゲーム、スマホ習慣による近赤外線やブルーライト、また高エネルギー可視光線(HEV)などの光線のストレス(光ストレス)も黄斑部にダメージを与えます。
親族に「加齢黄斑変性症」が多いと発症しやすい傾向があり、遺伝的要素も含んでいると言われています。ただし、家族であれば生活習慣や環境が似ていることもあり、遺伝によるものかどうかは、はっきりとわかっていません。
誘因になるものとしては、「生活習慣(特に喫煙習慣)」「高脂肪食など食生活の変化」が挙げられています。
欧米化した脂肪の多い食事、それに伴う肥満、コレステロール過多の脂質異常、塩分の取り過ぎによる高血圧なども一因と言われています。
④治療
「委縮型」については、現在まだ有効な治療法はないそうです。
「滲出型」については、「レーザー光凝固術」「光線力学的療法」「抗VEGF薬治療(新生血管阻害薬治療)」があります。
⑤予防法
・禁煙する
・肥満にならない
・光ダメージを防ぐ
・食生活の改善
ほうれん草など「緑黄色野菜」に多く含まれている「ルテイン」という成分の摂取量が少ないと、加齢黄斑変性症を発症しやすいと言われています。
目や身体全体の健康維持のためにも、普段から緑黄色野菜を十分にとり、バランスのとれた食生活を心掛けましょう。
・サプリメント
(2)飛蚊症(ひぶんしょう)
「飛蚊症」は、人間の眼球の「硝子体内の混濁によって視覚に起こる現象」で、「視界内に小さな薄い影(蚊や糸くずなどにも見える)のようなものが現れるもの」です。
網膜上では特定の位置に影が存在しますが、眼球運動による視界の移動によって、この影は相対的に動き回っているように当人には感じられます。
私も、室内で蚊が飛んでいるように錯覚し、手で追い払おうとすることがよくあります。
「硝子体内の混濁」の原因は次のようなものが挙げられています。
①生理的飛蚊症:病的ではないもので生来のもの
②後部硝子体剥離:病的ではないもので加齢・強度近視・打撲などによるもの
③その他:網膜裂孔・網膜剥離・硝子体出血・ぶどう膜炎などの病的なもの
2.耳鳴り
(1)症状
「耳鳴り」は、「実際には音がしていないのにも拘わらず、何かが聞こえるように感じる現象」です。
一般に耳鳴りは、「難聴」とともに現れることが多いとされています。耳鳴りは軽い不快感から、不眠やうつ状態など大小のストレスを引き起こします。
耳鳴りの原因となる病気としては、「突発性難聴」「急性低音障害型感音難聴」「メニエール病」「中耳炎」「耳管狭窄症・耳管開放症」「外リンパ瘻」「聴神経腫瘍」があります。
耳の病気以外の原因としては、「薬の副作用」「高血圧」「自律神経失調症」があります。
(2)種類
耳鳴りには、本人にしか聞こえない「自覚的耳鳴り」と、外部から聴取可能な「他覚的耳鳴り」とがあります。
(3)原因
①内耳が原因
「蝸牛性耳鳴り」には次の原因が考えられています。
・蝸牛有毛細胞の異常運動
・伝達機構の障害
・信号変換機構の障害
②脳が原因
近年の研究では、「脳のいわば誤動作で耳鳴りが認識される」という説も有力視されています。
加齢などで聴覚細胞がダメージを受け、その音高の信号を出さなくなる→脳はその音高の信号が来ないため感度を上げる→それでも信号は来ないので一層感度を上げる→信号のハウリングのような現象が起き、すなわちこれが耳鳴りのように認識されるというものです。
この原因の場合、補聴器を使用し、認識しにくい音高の部分を増幅してやれば、内耳で聞こえるようになり、脳もむやみに感度を上げることはなくなり、耳鳴りも消失するという例が報告されています。
(4)治療
急性期には、まず難聴の原因となる疾患ごとに推奨されている治療を受けることになります。突発性難聴であれば、ステロイドの内服や点滴、高気圧酸素療法などがあります。
慢性化した耳鳴りには、漢方薬の内服、安定剤の内服、局所麻酔薬の注射、鍼灸などがあります。
(5)予防法
①大きな音を聞き過ぎない
②ストレスや疲労を溜め込まない
③十分な睡眠をとる