「新型コロナウイルス肺炎」(COVID-19)が流行し始めた2020年から2021年にかけては、「パンデミック」(世界的大流行)という言葉が頻繁に使われました。
ところが「オミクロン株」が優勢となった最近は、「エンデミック」という言葉をよく聞くようになりました。
「オミクロン株」が、「感染力は強いが弱毒性で、無症状か軽症が大半で重症者や死者が少ない」ことや「海外での感染者数の急激な減少」から、「(大流行の)終わりの始まりではないか」という意見がアメリカやイギリスなど海外で出されるようになってきました。
そのため「エンデミック」というのは、「パンデミックの終り(エンド)」という意味の造語と勘違いしている方もおられるかもしれません。
1.パンデミックとエピデミックとエンデミック
ウイルスや細菌などの病原体によって引き起こされる感染症の流行の状態を表す疫学用語として、世界的な流行状態のことを意味するパンデミックという言葉のほかに、エピデミックやエンデミックといった言葉が用いられることもあります。
(1)エンデミック
エンデミック(endemic)とは、感染症の伝播が比較的狭い地域に限定されている状態のことを意味していて、日本語においては地域流行といった言葉に訳されます。
こうしたエンデミックと呼ばれる地域的な流行の状態にある感染症が、そのまま特定の地域に常在化していく場合には、特に、日本語では風土病や地方病と呼ばれることになります。
そして、こうしたエンデミックあるいは風土病の一種として取り扱われることも多い代表的な感染症としては、熱帯地域におけるマラリアや黄熱病やデング熱といった感染症の種類が挙げられます。
日本国内における代表的な風土病としては、日本脳炎や成人T細胞白血病、日本住血吸虫症(現在はすでに撲滅)といった感染症の種類が挙げられます。
(2)エピデミック
エピデミック(epidemic)とは、一つまたは複数の国や地域において一時的に感染が拡大している状態のことを意味しています。
日本語においては流行、あるいは、世界的な大流行にあたるパンデミックとの対比においては、局所的流行や一時的流行といった言葉として訳されます。
そして、エピデミックという表現は、インフルエンザなどの感染症が特定の国や地域において通常の予測の範囲を超えて流行が拡大している状態を指して用いられることがあります。
2002年11月に中国の広東省において発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)も、中国や香港を中心に世界37か国へと感染を拡大していきましたが、それぞれの国における感染の流行は局所的なものにとどまり、流行の期間も半年ほどで収束することになったため、局所的で一時的な流行の拡大を意味するエピデミックの段階にとどまると考えられることになります。
(3)パンデミック
パンデミック(pandemic)とは、世界中のあらゆる地域や国々へと感染が拡大していくことによって世界中のすべての人々が広く遍く感染の危機にさらされている状態のことを意味していて、日本語においては世界流行や汎発流行などと訳されます。
歴史上パンデミックが発生した例としては、天然痘、黒死病(ペスト)、コレラなどがあります。
そして、パンデミックという表現は、近年においては2009年に発生した新型インフルエンザの世界的流行のことを指して用いられました。
なお1918年~1919年の2年間にわたって世界的な大流行を引き起こして当時の世界人口の4分の1にあたるおよそ5億人の感染者と5000万人の死者を出したと推定されているスペイン風邪などもパンデミックの代表的な事例として挙げられます。
2.アウトブレイク
なお上記3つの言葉のほかにアウトブレイクという用語があります。
アウトブレイク(outbreak)とは、 感染症の突発的発生や、集団発生のことです。特に、ある地域や、医療施設内に限って、病気が急増することを指します。前述のエピデミックと似ていますが、「突発的」や、「医療施設内に限って」などのニュアンスがある点がやや異なります。日本語においては感染爆発と訳されることもあります。
1995年に封切られた、ダスティン・ホフマン主演の映画「アウトブレイク」では、エボラ出血熱に似た致死性の高いウイルス感染症に立ち向かう話が話題を呼びました。
3.WHOによるパンデミック期の説明
WHO(世界保健機関)は、2017年に発表された「新型インフルエンザ対応に関する報告書」の中で、パンデミック期についての説明を行っています。それによると、世界全体の平均の患者数をもとに、以下の4つの時期に分けられるもののとして説明が行われています。
- パンデミックの間の時期
新型インフルエンザによるパンデミックとパンデミックの間の段階 - 警戒期
新しい種類のインフルエンザの人への感染が確認された段階 - パンデミック期
新しい種類のインフルエンザの人への感染が世界的に拡大した段階 - 移行期
世界的なリスクが下がり、世界的な対応の段階的縮小や国ごとの対策の縮小等が起こりうる段階