「メリヤス」のことを「莫大小」と書く書き方が、かつて町工場や商店の名前などによく使われていました。
今では「ニット」という言い方が普通になったため、「メリヤス」という言葉自体があまり聞かれなくなりました。
1.メリヤスとは
「メリヤス(莫大小・目利安)」とは、編み物(ニット)の古い呼び名です。メリヤス編み(平編み・天竺編み)で編んだ生地、またはそれらの生地を使用した製品を指します。
通常の織物が縦糸と横糸で作られているのに対し、メリヤスは糸の屈曲によるループの集合で布状をなすものです。
伸縮性に優れ、靴下類や下着類、手袋や帽子など日常衣類の多くに利用されています。
この織り方が日本に伝わったのは江戸時代初期のことで、ポルトガル人やオランダ人が持ち込んだと伝えられています。
「メリヤス」という言葉は、ポルトガル語やスペイン語で「靴下」を意味するポルトガル語の「メイアシュ(meias)」やスペイン語の「メディアス(medias)」が訛ったものです。
2.「メリヤス」を「莫大小」と書く理由
「莫」という漢字は、漢文で「無」や「勿」などと同様に、「・・・なし」と訓じられる文字で、「莫大小」は「大小(の区別)なし」という意味です。
メリヤスの肌着は伸縮性と柔軟性に富み、絹や木綿を使った製品に比べると身体にぴったりフィットするので、LサイズもSサイズもなくほとんどフリーサイズと言えるからです。
3.「莫」という漢字の成り立ち
「会意文字」(艸+日+艸)です。「草むら」の象形と「太陽」の象形から、太陽が草原に沈むさまを表し、そこから「日暮れ」を意味する「莫」という漢字が成り立ちました。
しかしこの「莫」という漢字がやがて、「・・・なし」という意味で使われるようになったので、本来の意味を示すために「莫」にさらに「日」を付け加えた「暮」という漢字が作られたのです。
4.「莫」を含む言葉
(1)落莫(らくばく)
もの寂しいさま。寂寞 (せきばく) 。
(2)莫逆(ばくげき/ばくぎゃく)
「心に逆らうこと莫 (な) し」の意。非常に親しい間柄のこと。「莫逆の交わり」などと使う。
出典:「荘子」大宗師。
(3)莫大(ばくだい)
「これより大なるは莫 (な) し」の意。程度や数量がきわめて大きいさま。
5.「莫」を含む四字熟語
(1)干将莫邪(かんしょうばくや)
古代中国にあったとされる名剣の名前。
「干将」は中国の春秋時代の呉の国の刀工の名前。「莫邪」はその刀工の妻の名前。
干将は呉の王に剣を作るように言われ、剣を作り始めましたが、上手くいきませんでした。
炉に妻の髪と爪を入れてみると、二振りの名剣が完成して、その剣に「干将」と「莫邪」と名 づけて献上したという故事から。
「干将莫耶」とも書きます。
(2)秋風索莫(しゅうふうさくばく)
勢いが弱くなって、物寂しい様子のこと。
夏が過ぎて、秋の物寂しい風が吹くという意味から。「索莫」は物寂しい様子。
「索莫」は「索漠」、「索寞」とも書きます。
(3)秋風落莫(しゅうふうらくばく)
勢いが弱くなって、物寂しい様子のこと。
夏が過ぎて、秋の物寂しい風が吹くという意味から。「落莫」は物寂しい様子。
(4)諸悪莫作(しょあくまくさ)
悪事を働くことを戒める言葉。様々な悪事を悪い行いをしない、してはならないということ。
「莫」は否定を意味する言葉。「七仏通戒偈」の冒頭の一句。
(5)莫逆之契(ばくぎゃくのちぎり)
互いに争うことがなく、気心の知れた関係。親友。
「莫」は否定を意味する助字で、「莫逆」は逆らうことがないという意味
「莫逆之友(ばくぎゃくのとも)」「莫逆之交(ばくぎゃくのまじわり)」とも言います。