1.松尾芭蕉の俳句
俳聖と呼ばれる松尾芭蕉(1644年~1694年)の有名な俳句に「物言えば唇寒し秋の風」というのがあります。
これは、彼の「座右の銘」にある句で、この句の前には「人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ」とあります。史記の「言也牙歯寒」から翻案したものと言われています。
「他人の短所を批判したり、自分の長所を自慢したりした後は、必ず『言わなければよかった』という後味の悪い虚しい自己嫌悪に陥るものである。また、そうしたことによって、余計な災難を自ら招くこともある」という意味ですが、口を開くと秋の冷たい風が唇に触れて寒々とした気分になることからこう詠んだものです。
2.本音や正論で物が言えない世の中
この俳句が転じて、「うっかり物を言うと、それが原因となって災いを招く」という「口は災いの元」「雉も鳴かずば撃たれまい」と同じ意味でよく使われるようになりました。
これは、道徳的に正しいことで私も納得できるのですが、今の日本は、本音で物が言いにくい世の中になっていることが気になります。
(1)麻生財務大臣と「老後資金2000万円不足問題」
2019年6月に金融庁の金融審議会のワーキンググループが作成した報告書の中で、「平均的な高齢夫婦の場合、公的年金などでは毎月約5万円の赤字が続き、95歳まで生きるには退職後の30年間で2000万円が不足する」との例が示されました。
この試算数字は2017年の総務省統計局の家計調査報告にも出ている数字で、民間では以前から言われていたことで、目新しいものではありません。
冷静に現実を直視せず、党利党略で政府を批判する材料に用いる野党や、国民の不安を煽り立てるマスコミの責任は重いと私は思います。
(2)橋下徹元大阪市長と「公務員の入れ墨調査問題」
これは、2012年5月に職員約3万3500人を対象に行った「入れ墨調査」で、回答を拒否した513人に対し、職務命令違反を理由に減給か戒告の懲戒処分を決定した問題です。この調査では110人が入れ墨をしていると回答しています。
「タトゥー」が外国ではファッションとして一般的になって来ているそうです。しかし日本では常識的に考えて、普通のサラリーマンが入れ墨をするのは大問題だと思います。ましてや公務員が入れ墨をしているというのは論外です。
ところが、橋下徹元大阪市長が調査しようとすると「人権問題」として反対され、「調査自体」と「回答拒否した職員に対する懲戒処分が違法か否か」が裁判で争われました。「公務員の常識は世間の非常識」の典型的な例の一つです・なおこの問題は、結局最高裁まで行って「調査および懲戒処分は適法」ということで確定しました。
(3)吉村洋文元大阪市長と「学力テスト成績の教員給与への反映問題」
これは、2018年8月に吉村洋文大阪市長(当時)が、大阪市の「全国学力テスト」の成績がずっと最下位を続けていることを問題視し、その対策として、「学力テストの成績が向上した学校の教師には給与を上げ、成績が横ばいないし下落した学校の教師の給与は下げる」方針を打ち出したことに対し、教師側や教育学者が反発した問題です。
これは昔からある学校や教師の「無責任体質」と「保身・隠蔽体質」の端的な表れだと私は思います。「いじめ問題」にも同様の問題があります。
私は、「学力テストの成績が向上したからと言って、それが全て教師のおかげ」だとは思いませんが、大阪市の学力テストが長期低迷しているのは教師の側に問題があると考えた市長の主張には一理あると思います。そして、「学力テストの成績向上」を「業績」とみなして、そのインセンティブとして給与引き上げを掲げたのも、納得できます。
以上のような「まっとうな主張」「正論」が、野党や既得権を持つ人、左翼的な立場の人やマスコミから攻撃や批判を受けたり、問題視される今の日本の風潮は悲しいことだと私は思います。
私は、個人的には橋下徹氏のような人物が再び政界に復帰して「正論」を吐くとともに、「実行力」を発揮してほしいと思っています。