ホトトギス派以外の俳人(その11)鷹羽狩行:知的な構成でウィットに富む句風

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鷹羽狩行

高浜虚子渡辺水巴村上鬼城飯田蛇笏前田普羅原石鼎水原秋桜子阿波野青畝山口誓子高野素十山口青邨富安風生川端茅舎星野立子高浜年尾稲畑汀子松本たかし杉田久女中村汀女などの「ホトトギス派の俳人」については、前に記事を書きました。

このように俳句の世界では、「有季定型」「花鳥諷詠」「客観写生」を旨とする「ホトトギス派」が伝統的に一大勢力となっており、上記のように有名な俳人が多数います。

しかし、最初ホトトギス派に所属したものの後にホトトギス派を離脱した「元ホトトギス派」をはじめ、ホトトギス派に反発した「反ホトトギス派」、独自の道を歩んだ「非ホトトギス派」の俳人もいます。

そこで今回から、このような「ホトトギス派以外の俳人」を順次ご紹介していきたいと思います。俳句に興味をお持ちの方なら、名前を聞いたことのある俳人が必ず何人かいるはずです。

なお、日野草城加藤楸邨・中村草田男河東碧梧桐荻原井泉水種田山頭火尾崎放哉などの「ホトトギス派以外の俳人」については、前に記事を書いていますので、それぞれの記事をぜひご覧ください。

1.鷹羽狩行とは

鷹羽狩行(たかは しゅぎょう)(1930年~ )は、山形県出身の俳人で、日本藝術院会員です。山口誓子に師事、「狩」を創刊・主宰。本名・髙橋行雄(たかはし ゆきお)。

秋元不死男の「氷海」にも拠りました。知的な構成でウィットに富む句風で現代社会を描いています。

第一句集『誕生』(1965年)のほか、『月歩抄』(1977年)、『十五峯』(2007年)など。

俳人協会名誉会長、日本文藝家協会常務理事、日本現代詩歌文学館振興会常任理事、国際俳句交流協会顧問。「狩」門下に片山由美子など。

2.鷹羽狩行の略歴

鷹羽狩行は、山形県新庄市に生まれました。父は土木技師です。

1943年、旧制尾道商業高校に入学し、1946年に同校の教師新開千晩の教えを受け、校内俳句雑誌「銀河」で俳句を始めました。

1947年より佐野まもるの「青潮」に投句しています。1948年、山口誓子の創刊の言葉に共感し「天狼」に入会しました。

1949年、尾道商業を卒業して中央大学法学部入学し、1951年「青潮」同人となりました。

1953年、中央大学を卒業し、プレス工業株式会社に入社しました。加藤かけい主宰の「環礁」に同人として参加しています。

1954年、秋元不死男が創刊した「氷海」に同人参加し、上田五千石、堀井春一郎らと氷海新人会を結成しました。

1958年に結婚しました。1959年、前年の結婚を機に、誓子から本名をもじった「鷹羽狩行」の俳号を貰い、以後これを用いています。

1959年より「氷海」編集長となり、1960年に第11回天狼賞を受賞し、「天狼」同人となっています。

1965年には第一句集『誕生』を上梓し、第5回俳人協会賞を受賞しました。

1966年に俳人協会幹事となり、1968年にはスバル賞(「天狼」同人賞)を受賞し、草間時彦、岸田稚魚らと超結社「塔の会」を結成しました。

1975年に句集『平遠』で第25回芸術選奨文部大臣新人賞を受賞しました。

1976年に毎日俳壇選者となり、1977年には会社を退職し俳句専業となりました。

1978年に俳誌「狩」を創刊、主宰しました。

2002年に句集『翼灯集』『十三星』で毎日芸術賞を受賞し、同年俳人協会会長に就任しました。

2008年に句集『十五峯』で第42回蛇笏賞および第23回詩歌文学館賞を受賞しました。

2009年には神奈川文化賞を受賞しました。

2015年には日本芸術院賞を受賞し、同年、日本藝術院会員となりました。

2019年(平成31年)には歌会始の召人となりました。

3.鷹羽狩行の句風

躍動的な現代生活を描き出した師・山口誓子の影響を受けつつ、その知的写生に独自の叙情性を加えています。

外光性や自己肯定性、ユーモアやウィットを持つ句風で、「社会性俳句」以後の新しい世代を担う俳人として期待を受けました。

その詩的技巧は一時期、理知が勝ちすぎている、あるいは思想性がないといった批判も受けましたが、その後はこうした狩行の技法にこそ新しい思想性への道筋がみられるとの再評価も受けています。

4.鷹羽狩行の俳句

紅梅

<春の句>

・紅梅や 枝々は空 奪ひあひ

・春昼(しゅんちゅう)や 魔法瓶にも 嘴(はし)ひとつ

・薪割つて 鶏とばす 西東忌

・風光り すなはちものの みな光る

・啓蟄の 土つけて蟻 闘へり

・蜂が来る 火花のやうな 脚を垂れ

・誓子忌の 夜は万蕾(ばんらい)の 星となれ

・手に受けて 少し戻して 雛あられ

・鶯の こえのためにも 切通し

・麦踏みの またはるかなる ものめざす

・人の世に 灯のあることも 春愁ひ

・一本も なし南朝を 知る桜

・一寸に して火のこころ 牡丹の芽

<夏の句>

・天瓜粉(てんかふん) しんじつ吾子(あこ)は 無一物(むいちぶつ)

・摩天楼より 新緑がパセリほど

・母の日の てのひらの味 塩むすび

・金魚売 過ぎゆき水尾(みお)の ごときもの

・南天の 花にかくれて 人嫌ひ

・虹なにか しきりにこぼす 海の上

・麦の秋 朝のパン昼の 飯焦し

・昼寝より 覚めてこの世の 声を出す

・雀しきりに 砂を浴び 原爆忌

・水着まだ 濡らさずにゐる 人の妻

・甘露忌(かんろき)の 蝉と怠けて 山の中

・手渡しの 重さうれしき 鰻めし

・ラムネ店 なつかしきもの 立ちて飲む

・家ぢゆうが 仏間(ぶつま)の暗さ 土用干(どようぼし)

・うすものの 中より銀の 鍵を出す

・海からの 風山からの 風薫る

・炎熱(えんねつ)の 地獄円形 競技場

・世に遠く 咲き遠く散り 蓮の花

・海の雲 海へしりぞけ ダリヤ園

・芒種はや 人の肌さす 山の草

<秋の句>

・一握の 灯が汽車となる 豊(とよ)の秋

・露の夜や 星を結べば 鳥けもの

・旅に出て 忘れ 勤労感謝の日

・藁塚は 集つて墓 ちらばつて

・紅葉(もみじ)して 汝(な)は何といふ 水草ぞ

・昼もなほ 露けき荒木田 守武忌

・葛の花 むかしの恋は 山河越え

・素十より 継ぎし選して 素十の忌

・破船(はせん)より 翔(た)ちて帰燕(きえん)に 加はれり

・全長に 回りたる火の 秋刀魚かな

・年上の 妻のごとくに かぼすかな

・竿燈が 揺れ止み天地 ゆれはじむ

・膝までの 秋の七草 分けすすむ

・描く撮(と)る 詠むそれぞれに 秋惜しみ

・ことごとく 秋思(しゅうし) 十一面観音

・胡桃割る 胡桃の中に 使はぬ部屋

・村々の その寺々の 秋の暮

・色変へぬ 松したがへて 天守閣

・うつくしき 世をとりもどす うろこ雲

<冬の句>

・一枚を 灯下に仕上げ 畳替へ

・午後といふ 不思議なときの 白障子

・日の当たる 方へと外(そ)れて 探梅行(たんばいこう)

・山影を 日暮とおもひ 浮寝鳥

・しづけさに 加はる跳ねて ゐし炭も

・わかたれて 湯気のつながる のつぺい汁

・まなこまで 北窓塞ぎ たるおもひ

・手さぐりの 寝酒の量を あやまたず

・薪割りの 枕がとんで 雪催(ゆきもよい)

・隙間風 屏風の山河 からも来る

・入口の 遠くに出口 冬構(ふゆがまえ)

・数へ日(かぞえび)の 数へるほども なくなりぬ

・寒泳の 古式ゆたかに 波立てず

・暗闇の かぶさり牡丹 焚火(たきび)果つ

・日と月の ごとく二輪の 寒牡丹

・みちのくの 星入り氷柱(つらら) われに呉れよ

・鳴り出づる ごとく出揃ひ 寒の星

・スケートの 濡れ刃携へ 人妻よ

・一対か 一対一か 枯野人

・人の世に 花を絶やさず 帰り花

・注連飾る 間も裏白(うらじろ)の 反(そ)りかへり

・年惜しむ 眼鏡のうちに めをつぶり

・山国の 山うごきだす 除夜の鐘

<新年の句>

・伊勢といふ 字のさながらに 飾海老(かざりえび)

・塩味の 醤油味のと 女正月(めしょうがつ)

・注連縄(しめなわ)の 逞しき縒(より) 男(お)の子産め

・出初式(でぞめしき) ありたる夜の 星揃ふ

・七草粥 欠けたる草の 何何ぞ

・数といふ うつくしきもの 手毬唄