前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。
ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。
私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。
そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。
そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。
なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。
「春」は旧暦1月~3月にあたり、「初春」(立春・雨水)、「仲春」(啓蟄・春分)、「晩春」(清明・穀雨)に分かれます。
今回は「晩春」(清明・穀雨)の季語と俳句をご紹介します。
・清明(せいめい):新暦4月4日頃です。「三月節」 すべてのものが生き生きとして清らかに見えます。
・穀雨(こくう):新暦4月19日頃です。「三月中」 穀物をうるおす春雨が降ります。
6.動物
(1)あ行
・合生(あいう):ムギウズラ(麦鶉)の雌のこと
・青虻(あおあぶ):虻の一種
・青目虻(あおめあぶ):青い目の虻 。昆虫綱双翅(そうし)目短角亜目ムシヒキアブ科に属する昆虫。体長20~28mm、黄褐色ないし赤褐色の大形種。複眼は生体では青緑色に美しく光る
・赤魚(あかうお):サクラウグイ(桜鰄)の別称。桜の花が咲くころにとれるウグイ。腹部が赤い婚姻色を帯びるところからいう
・赤っ腹(あかっぱら):サクラウグイ(桜鰄)の別称
・後鰊(あとにしん):漁期の終わりごろの鰊
・虻(あぶ):双翅目の昆虫で、春になると活動を始める。二枚の翅をもっていて全体としては蝿に似る。蜂にも似ているが、蜂は翅が四枚である。花につくのが花虻、牛や馬について血を吸うのが牛虻で人を襲うこともある
花にあそぶ 虻なくらひそ 友雀(松尾芭蕉)
草枕 虻を押へて 寝覚めけり(八十村路通)
藁塚や 四五疋虻の 大唸り(村上鬼城)
・鮎の子(あゆのこ):春先に川にのぼり始める小型の鮎
・烏賊鯛(いかだい):四月下旬に烏賊を餌にして釣る鯛
・玉筋魚/鮊子(いかなご):イカナゴ科の体長20cmほどの細長い魚。晩春の産卵期に浅海に寄せる。関西のいかなごは関東では小女子(こうなご)。5~6cmの稚魚は、佃煮や釘煮にして食べる。四月ころ産卵のために浅海に来るのを捕らえる
いかなごが 烏の嘴に 生きてをり(星野立子)
・いかなご舟(いかなごぶね):イカナゴを取る舟
・鮊子干す(いかなごほす):イカナゴを干すこと
・眠蚕(いこ):眠りに入った蚕
・岩燕(いわつばめ):多くは山地などの断崖につぼ形の巣をつくる燕の一種で体長は15cmくらい。尾の切れ込みが浅く、腰の白い小ぶりな鳥。
三、四月頃に南より飛来する。産卵期は四月から八月にかけて。壷状の巣に一回に三、四個の卵を産む。もともとは山地や海岸の岸壁や洞穴に集団で営巣していたが、最近はビルや橋の下などに巣を作る。「ジュリジュリ、ピィピィ」と早口に濁った声でさえずる
・魚島(うおじま):春、産卵のため海峡を越えて内海に来た鯛・鯖・はまちなどがに内海に入り込んで群がり、水面が島のようになって盛り上がる現象
・魚島時(うおじまどき):四月頃、瀬戸内海で魚島と呼ばれる現象が見られる時期
・浮鯛(うきだい):春、鯛が産卵のため内海にきたとき、うきぶくろの調節がうまく出きず浮き上がってしまう現象
・牛虻(うしあぶ):虻の一種。綱双翅(そうし)目短角亜目アブ科に属する昆虫。日本各地に普通にみられる大形のアブで、体長22~29mm。体は紫褐色を帯びる
・海栗/海胆/雲丹(うに):浅海に住み、全身が栗のイガのような棘におおわれている棘皮動物。春が産卵期で、卵巣は美味
・馬の仔/馬の子(うまのこ):春に生まれた仔馬。馬は前年の春の発情期に受胎し、約一年間の妊娠期間を得て出産する。出産後は過ぐに立ち上がり、母親について歩きまわるようになる
・馬の子生る(うまのこうまる):春先に馬の子が生まれること
・海鱒(うみます):海で釣れるアメマスとサクラマスのこと
・沖鰆(おきさわら):ウシサワラ・カマスサワラの別名
・お玉杓子(おたまじゃくし):春、孵化した蛙の子のこと。ちょろちょろと泳ぎまわる姿が愛らしく、次第に手足が生え尾がとれてゆく。形が杓子に似ていることからこの名がある
・落し角(おとしづの):春先から初夏にかけ、鹿の角が抜け落ちること。春から初夏にかけて、生え変わるために鹿は角を落とす。新しい角は袋角と呼ばれ、柔らかい皮膚で覆われている。鹿の角は生え変わるたびにその枝が多くなる
角落ちて はづかしげなり 山の鹿(小林一茶)
角落ちて あちら向いたる 男鹿かな(正岡子規)
・親雀(おやすずめ):春に子を持った雀の親鳥
・親鳥(おやどり):春に生まれた子鳥の親
・親猫(おやねこ):春に子を産んだ親猫
(2)か行
・蚕(かいこ):鱗翅目カイコガの幼虫。四月に孵化し、桑の葉を食べて成長し五月に繭を作らせ、そこから絹糸をとる
ことしより 蚕はじめぬ 小百姓(与謝蕪村)
さまづけで 育てられたる 蚕かな(小林一茶)
首あげて 人なつかしの 蚕かな(佐藤紅録)
・蚕ざかり(かいこざかり/こざかり)/蚕時(かいこどき):蚕の五齢期の食い盛り。忙しさが十日ほど続く
・蚕の眠り(かいこのねむり/このねむり):蚕が脱皮の前に一日食物もとらずじっとしていること
・帰り鴫(かえりしぎ):春、北方へと飛び去る鴫のこと
・蛙生る(かえるうまる):蛙が卵からかえること
・蛙子(かえるご/かえるこ):オタマジャクシの別称
蛙子や 何やら知れぬ 水の草(蝶夢)
蛙子の 蛙にならぬ 水もなし(樗堂)
かたまりて 蛙子くもる 沢辺かな(未鳳)
・蝌蚪(かと):蛙の子(オタマジャクシ)のこと。ちょろちょろと泳ぎまわる姿が愛らしく、次第に手足が生え尾がとれてゆく。
この池の 生々流転 蝌蚪の紐(高浜虚子)
川底に 蝌蚪の大国 ありにけり(村上鬼城)
・蛙の子(かわずのこ/かえるのこ):オタマジャクシの別称
・黄虻(きあぶ):キアブ科の昆虫の総称
・蟻蚕(ぎさん):孵化直後の蚕の幼虫。アリのようにみえるためこの名がある
・黄雀(きすずめ):春に生まれて間もない雀の子どものこと
・ぎんぽ:体長20cmほどのニシキギンポ科の硬骨魚。からだは細長く、著しく扁平。潮だまりやごく沿岸の岩礁地帯の藻場に生息する。各地方にいるがあまり利用されることはないが、東京では春にとれたものを天ぷらの材料として珍重する
・汲鮎(くみあゆ):春先、稚鮎が堰堤を遡ることができずにいるところをすくいとること。孵化した鮎の幼魚は川を下り、冬の間、海で育ち、春になると川に戻ってくる。それを一箇所に追い集め、杓や網で掬い上げる。最近では鮎漁は初夏まで禁じられている
汲み鮎や 青山高く 水長し(黒柳召波)
・毛蚕(けご):春、孵化したての黒い毛のはえた蚕の幼虫のこと
・小鮎(こあゆ):若鮎のこと
・甲烏賊(こういか):花烏賊の一種。十腕形上目(イカ類)コウイカ目 に属する頭足類の一種。 日本近海において最も普通のコウイカ類で、水産上重要である
・後架虻(こうかあぶ):ミズアブ科の昆虫。体が細く黒色で、腹に白紋がある。便所やごみ箱付近に普通に見られ、幼虫は汚物を食する。便所蜂
・こうなご:いかなごの稚魚のこと。主に東日本で用いられている呼び方で、漢字では「小女子」と書く。体が小さく女の子のように可愛いという意味で、見た目からこのような名前が付いた。関西ではいかなごの稚魚のことを「しんこ(新米)」と呼ぶ
・仔馬/子馬(こうま):三、四月頃生まれた馬
・高麗鰯(こうらいいわし):鰊(にしん)の別称
・小雀(こがら):シジュウカラ科の小鳥で、九州以北の山地の林に生息し、夏の繁殖期には囀る。四十雀(しじゅうから)より小さく日雀(ひがら)よりやや 大きい13cm。喉と額から頭部までが黒く、ベレー帽をかぶ ったよう。顔から頸は白く背は灰褐色。さえずりは高い声でツチ ーツチー
朝凪や 小雀のとまる みをつくし(大島蓼太)
一本の 木に鈴なりの 小雀かな(小林一茶)
・子鳥(こどり):春に巣立をする子鳥
・子持猫(こもちねこ):春に産んだ子をつれた親猫
・子持鮒(こもちぶな):三、四月ごろのお腹に卵をもった鮒
・権瑞(ごんずい):ゴンズイ科の海水魚で、本州中部地方以南の浅い岩場や汽水域に生息する。からだは暗褐色で全長約30cm。なまずに似ているが、体側の頭から尾部にかけて二本の黄色い線がある。胸びれと背びれをこすり合わせて高い音を出すことからぎぎ、ぐぐと呼ぶ地方もある。背びれと胸びれの棘は鋭くて毒を持ち、刺されると激しく痛む。食用にはほとんどしない
(3)さ行
・桜烏賊(さくらいか):桜の咲くころ取れる甲烏賊などのイカのことで、学名ではない。春に内海に集まり、海藻や流木などに葡萄の実のような卵を産みつける
・桜石斑魚/桜鰔(さくらうぐい):ウグイはコイ科の硬骨魚。春の産卵期に赤々と婚姻色が表れるので「桜うぐい」あるいは「あかはら」と呼ばれる。田楽、塩焼き、甘露煮に適する
湖の けしきはさくら うぐひかな(雲鈴)
散りうかぶ 桜うぐひの 日和かな(大島蓼太)
・桜蝦(さくらえび):サクラエビ科の深海性の小エビ。四月頃が漁期で、干し海老に利用
・桜鯛(さくらだい):真鯛は春、産卵のため内海に集まる。雄の腹は桜色に染まり、それが桜の花時と重なることから桜鯛と呼ばれる
俎板(まないた)に 鱗ちりしく 桜鯛(正岡子規)
こまごまと 白き歯竝や 桜鯛(川端茅舎)
・桜鱒(さくらます):サケ目の魚。全長60cmほど。体は延長し側扁するがサケより丸みを帯びる。体色は背面が濃藍色で小黒点が散在し、腹面は銀白色。淡水で孵化し、2年後に海へ下る。3年目に成熟して産卵のために5~7月頃川を上る。食用として美味。本種の陸封河川型がヤマメ。北洋から関東地方以北の太平洋側と中国地方以北の日本海側に分布。ギンケ。ホンマス。
・狭腰(さごし):鰆(さわら)の小さいもの
・鰆/馬鮫魚(さわら):サバ科。体長約1m。体色は銀灰色。出世魚で、サゴシ、ヤナギサワラ、サワラと名が変わる。味噌漬などにして賞味される
・鰆網(さわらあみ):鰆漁に使う網
・鰆船(さわらぶね):鰆漁に使う船
・山椒喰(さんしょうくい):サンショウクイ科の鳥の総称。春、「ヒリリ」というように鳴きながら飛ぶ。体長は20cmほどの白っぽいスマートな鳥。平地または山地の広葉樹林に生息し、高い木を好む。昆虫類、蜘蛛などを捕食する。鳴き声がヒリリと聞こえることから、「ピリリと辛い」山椒を食べたと想像されてこの名がついた
・塩屋虻(しおやあぶ):ハエ目(双翅目)ムシヒキアブ科の昆虫。「塩屋虻」という名前は、成虫のオスの腹の端に白い毛が密生し、塩を吹いているように見えることに由来する
・鹿の角落つ(しかのつのおつ):春先から初夏にかけ、鹿の角が抜け落ちること
・数珠子(じゅずこ):オタマジャクシの別称
・春蝉(しゅんせん/はるぜみ):季節にさきがけ最も早く鳴き出す蝉。赤松の林に棲息し、四月から六月にかけて鳴く声は松風のよう。夏の季語である松蝉と同じ蝉であるが、鳴き出す時期をとらえて春蝉とよぶ。蜩(ひぐらし)を小さくしたような形で、春の柔らかい情感をまとっている
春蝉や 虎杖(いたどり)しやぶる 山家(やまが)の子(栖乙)
春蝉の 声引き潮の 音もなく(臼田亜浪)
春蝉の ひやひやと鳴くや 山の松(河東碧梧桐)
・姿見の鯛(すがたみのたい):春、東京湾口から鴨居、走水沖に乗込む鯛
・雀子(すずめこ)/雀の子(すずめのこ):雀は人の住むところにはどこにでも住み、人家の軒や屋根などに藁で巣をつくる。春には卵がかえり雛になる。まだよちよち歩きの雛は親に見守られて遊ぶ
人に逃げ 人になるるや 雀の子(上島鬼貫)
雀子と 声鳴きかはす 鼠の巣(松尾芭蕉)
大仏の 鼻で鳴くなり 雀の子(小林一茶)
雀の子 そこのけそこのけ 御馬が通る(小林一茶)
雀子や 走りなれたる 鬼瓦(内藤鳴雪)
・雀交る(すずめさかる):春、雀が発情期に入ること
・雀の雛(すずめのひな):春に生まれて間もない雀の子どものこと
・巣立(すだち):春に生まれた鳥の雛が、成育して巣を離れること
・巣立ち鳥(すだちどり):春に生まれた鳥の雛が、成育して巣を離れること
其夜から 雨に逢ひけり 巣立鳥(小林一茶)
・捨蚕(すてご):病気の蚕
・背張鱒(せっぱります):カラフトマスの別名
(4)た行
・中鰊(ちゅうにしん):中間期にとれる鰊
・鶴の舞(つるのまい):春の繁殖期になり、鶴の雄が雌の前で舞踊すること
・鳥交る(とりさかる)/鳥つるむ(とりつるむ):春から初夏にかけて鳥は美しい声で囀ったり、強く羽搏いたりして様々な求愛行動をする。繁殖期を迎えたのである。雄鳥が雌鳥を誘う姿はとても愛らしく春の訪れを感じさせる
海士(あま)が家の 穂垣に高し 鳥交る(道彦)
鳥交み 人の睡りの うつくしき(松瀬青々)
・鳥つがう(とりつがう)/鳥の妻恋(とりのつまごい):春から初夏にかけ、鳥が発情期に入ること
(5)な行
・菜種河豚(なたねふぐ):菜種の花が咲くころの河豚の総称。毒がもっとも強いとされる
・春告魚/青魚/鯡/鰊/黄魚(にしん):ニシン科の硬骨魚。全長35cm程。三、四月頃産卵のため北海道沿岸の浅所に群れをなして回遊する。産卵期の春から初夏にかけて脂がのりおいしい。塩焼き、フライのほか身欠きニシンなどに加工される。卵巣は数の子になる。日本人には馴染み深い魚である
・鰊釜(にしんがま):鰊を煮る釜
・鰊群来(にしんくき):産卵期の鰊の大群集
・鰊焚く(にしんたく):鰊を煮ること
・鰊場(にしんば):鰊のとれる漁場
・猫の子(ねこのこ):春に生まれた猫の仔をいう。生まれたばかりの仔猫の愛らしさは無類である。これから味わうであろう世の荒波を思えば哀れでもある
猫の子や 秤にかかり つつじやれる(小林一茶)
猫の子の くんずほぐれつ 胡蝶かな(宝井其角)
捨仔猫 地に手をついて もうこれまで(中村草田男)
百代の 過客しんがりに 猫の子も(加藤楸邨)
・猫の産(ねこのさん):春の猫の出産
・残る鴨(のこるかも):春深くなっても北へ帰らず、居残っている鴨のこと。鴨は冬鳥として日本に渡来し、春になると北方へ帰ってゆくが、帰る時期の遅い小鴨などは五月ころまでとどまることもある。軽鴨(かるがも)は留鳥なので残る鴨とは言わない
・残る雁(のこるかり):越路に残る雁。春に見る雁であり、病気やけが等で群からはずれ、仲間が北方へ 帰った後も残っている雁をもいう
・乗込鯛(のっこみだい):春、産卵のため海峡を越えて内海に来た鯛
・乗込鮒(のっこみぶな):冬眠していた鮒が、春の産卵期に小川や水田にはいり込み、盛んに餌をとるようになること
・上り鮎(のぼりあゆ):若鮎のこと
(6)は行
・蠅生る(はえうまる):春、初めて成虫になって飛ぶ蠅のこと。「蠅生る」は厳密にいえば、羽化のことであるが、ここでは羽化に限るのではなく、春、初めて成虫になって飛ぶ蝿のこともいう。
・蠅の子(はえのこ):春になり生まれ出た蠅の子ども
・走り鰊(はしりにしん):初物の鰊
・初蚊(はつか):春になって初めてみる冬越しの蚊
・初鰊(はつにしん):初物の鰊
・初鮒(はつぶな):冬、水温の低い間は餌もほとんど食べず冬眠状態だった鮒が春になり、水温が上がってくると活動を始める。産卵のため浅瀬に寄り、食欲も旺盛になって漁によい季節となる。春となり、はじめてとれた鮒ということから初鮒という
初鮒や 昨日の雨の 山の色(視山)
・花虻(はなあぶ):①花に集まるアブの総称。ハナアブ科の昆虫が多い、② 双翅 (そうし) 目ハナアブ科の昆虫。頭が大きく複眼も発達し、ミツバチに似るが、翅 (はね) は2枚しかない。体は太く、黄色の地に黒色や橙色の縞模様がある。蜜や花粉を求めてよく花に集まる。幼虫は水中にすみ、長い呼吸管をもち、おながうじとよばれる。ひらたあぶ
・花烏賊(はないか):桜の咲くころ取れる甲烏賊などのイカのことで、学名ではない。春に内海に集まり、海藻や流木などに葡萄の実のような卵を産みつける
花烏賊の 腸ぬくためや 女の手(原石鼎)
・花うぐい(はなうぐい):桜時のウグイのこと。 桜鯛などと称するのと同じであるが、4、5月ごろの産卵期になると、雄の体側に紅色の婚姻色が走り、腹部も赤味がさすため、この名がある
・花見鯛(はなみだい):桜鯛の別称
・孕み馬(はらみうま):春の妊娠中の馬
・春蚊(はるか)/春の蚊(はるのか):蚊は夏のものであるが春でも気温が上がると蚊を見かけることがある。これは春に羽化したものでなく成虫のまま越冬した蚊である
春の蚊の 行灯にとまる 雨夜かな(桍仙)
観音の 腰のあたりに 春蚊出づ(森澄雄)
・春蚕(はるご):春に飼われる蚕
・春駒(はるごま):春の野に放たれて、のびのびと遊ぶ馬。若駒はそのなかでも、一歳馬、二歳馬の若い馬をいう
・春蝉(はるぜみ)/春の蝉(はるのせみ):季節にさきがけ最も早く鳴き出す蝉。赤松の林に棲息し、四月から六月にかけて鳴く声は松風のよう。夏の季語である松蝉と同じ蝉であるが、鳴き出す時期をとらえて春蝉とよぶ。蜩(ひぐらし)を小さくしたような形で、春の柔らかい情感をまとっている
・春の馬(はるのうま)/春の駒(はるのこま):春の暖かな日差しの下の馬のこと
・春の鴨(はるのかも):春になっても北方へ戻らず残っている鴨
・春の雁(はるのかり):春に見る雁であり、病気やけが等で群からはずれ、仲間が北方へ 帰った後も残っている雁をもいう
・春の鴫(はるのしぎ):春になっても北方へ戻らず残っている鴫
・春の雀(はるのすずめ):子を育てたり、せわしく動き回る雀のこと
・春の鮒(はるのふな):春さき水のぬるむころ、冬眠からさめたフナが泳ぎ出すこと
・春鮒釣(はるぶなつり):春に行なう鮒釣りのこと。春になって水が温かくなると、産卵のため鮒の動きも活発になり、針にかかりやすくなる
・鰉(ひがい):コイ科の淡水魚。全長約15cm。体は細長く、暗褐色で小黒斑が散在。短い口ひげが一対ある。湖沼・河川の砂礫 (されき) 底にすみ、二枚貝に産卵する。本州中部以西に分布したが、関東・東北地方にも広がる。美味。名の字は、明治天皇が賞味したことに由来
酒少し 淡海(おうみ)の鰉 雛の夜(森 澄雄)
・ひかり蝦(ひかりえび):桜蝦の別称。サクラエビ科の深海性の小エビ。四月頃が漁期で、干し海老に利用
・ひひ鳴き(ひひなき):鶉(うずら)の雌がヒヒと鳴くこと
ひひ鳴や まだ穂に出でぬ 麦鶉(巴静)
・姫虻(ひめあぶ):アブ科の昆虫
・紅鱒(べにます):ベニザケの別名
・頬白(ほおじろ):スズメ目ホオジロ科の鳥。赤褐色で雀よりもやや大きい。顔は黒色だが、頬が白いことからその名がついた。古来、美声を賞玩さ れてきた。鳴き声は「一筆啓上仕候」「源平つつじ白つつじ」と 聞こえるという
・蛍烏賊(ほたるいか):体長6~7cm以下の小さな烏賊で、腹や頭部、腕の先などに発光器を持つ。産卵期には特に美しく発光する。群をなした蛍烏賊の発光した様は幻想的で美しい。日本特産で、特に富山県滑川 は産地として有名
・本鱒(ほんます):桜鱒の別称
・本むつ(ほんむつ):ムツゴロウの別称
(7)ま行
・鱒(ます):サケ科に属する硬骨魚の総称。北米からの外来種で釣りの対象魚。種類も多く、古くから日本人に食されてきた。体全体に黒点、側部に赤紫の模様がある。繁殖期のオスに見事な虹色の光沢が発色する。桜鱒などは三月から五月にかけて海で獲れる高級魚であり、鱒鮓の材料にもなる
鱒閑に 空しき岸を 泳ぎけり(松瀬青々)
・鱒釣り(ますつり):鱒を釣ること
・鱒之介(ますのすけ):サケ科の海水魚。全長はふつう約1mであるが、2mに達するものもある。体色は黒みがかり、黒色斑点が散在。北太平洋に分布し、大きな河川を遡 (さかのぼ) って産卵するが、数は多くない。美味。キングサーモン
・鱒上る(ますのぼる):鱒が春の産卵のため、川にのぼってくること
・松蝉(まつぜみ):春蝉の別称。日本で一番早く(四月下旬頃)鳴き声を聞くことのできる蝉。よく松林などで鳴いている。小型で黒い身体。羽根は透き通っている
・麦鶉(むぎうずら):晩春の頃、麦の中で雛を育てる鶉。鶉はキジ科の渡り鳥。草原などで繁殖する。晩春、麦の伸びる頃、繁殖期に入る。この時期の鶉をとくに「麦鶉」という。雄は「グ ワグルルー」雌は「ヒヒ」と大きな声で鳴く
麦鶉 露けき鳥は 先づこれか(寥松)
麦鶉 畦をよぎりぬ 庵の前(鈴木花蓑)
・鯥掛け(むつかけ):ムツゴロウを竿先のかぎ釣でひっかけてとる漁
・鯥五郎(むつごろう):ハゼ科の泥魚で、九州の有明海のみに生息。体長15~20cmになる。淡褐色から暗緑色で、全身に白または青の斑点をもつ。両目が頭頂部にあり、眼瞼が発達。干潮時には胸鰭で干潟を這いまわる。晩春から初夏にかけて旬を迎え、蒲焼などにして賞味する
・むつ飛ぶ(むつとぶ):ムツゴロウが干潟で飛びはねること
・鯥曳網(むつびきあみ):ムツゴロウをとる引網のこと
・鯥袋網(むつぶくろあみ):ムツゴロウをとる袋網のこと
・鯥掘る(むつほる):干潟の泥の中にいるムツゴロウを掘り出すこと
・戻り鴫(もどりしぎ):春、北方へと飛び去る鴫のこと。鴫はチドリ目シギ科の鳥の総称。タシギ、イソシギ、アオシギ、ダイシャクシギなど種類が多い。四、五月と九、十月頃の二回日本に来ては去ってゆくが、晩春から初夏にかけての滞在の時を戻り鴫という。「鴫」だけでは秋の季語になる
(8)や行
・呼子鳥(よぶこどり):人を呼ぶような鳴き声の春の鳥。「万葉集」や「古今集」にも出てくるが、貎鳥同様、この鳥も何の鳥であるかはわかっていない。鶫、鶯、郭公など諸説あるがどれも不確か。猿の声という説もある
雫たる 山路のません よぶこ鳥(重頼)
むつかしや 猿にしておけ 呼子鳥(宝井其角)
役なしの 我を何とて 呼子鳥(小林一茶)
(9)ら行
・駱駝鱒(らくだます):鱒の一種
(10)わ行
・若鮎(わかあゆ):海で育った鮎は二、三月頃から群れを成して川を遡る。これが若鮎である。体長4~6cmくらい。琵琶湖で生まれた子鮎を捕らえしばらく育ててから各地の川へ放流するのを放ち鮎という
挑灯で 若鮎を売る 光かな(炭太祇)
若鮎や 谷の小笹も 一葉行く(与謝蕪村)
若鮎の 鰭ふりのぼる 朝日かな(大島蓼太)
若鮎の 二手になりて 上りけり(正岡子規)
・若駒(わかごま):春に生まれた元気な仔馬
・忘れ角(わすれづの):春先から初夏にかけ、鹿の角が抜け落ちること