二十四節気の季節感溢れる季語と俳句 晩冬:小寒・大寒(その3)生活

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小寒

前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。

ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。

私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。

そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。

そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。

なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。

季語の季節対比表

二十四節気図

「冬」は旧暦10月~12月にあたり、「初冬」(立冬・小雪)、「仲冬」(大雪・冬至)、「晩冬」(小寒・大寒)に分かれます。

今回は「晩冬」(小寒・大寒)の季語と俳句をご紹介します。

・小寒(しょうかん):新暦1月5日頃です。「十二月節」 寒の入りで寒気が増してきます。

・大寒(だいかん):新暦1月20日頃です。「十二月中」 冷気が極まって最も寒さが募ります。

4.生活

(1)あ行

・アイスホッケー:氷上のスケート競技の一種。六人一組の二チームが、木製のステ ィックを使ってバック(ゴム製の黒い円盤)を敵ゴールに入れ、 得点を競う

・皸(あかぎれ):寒さにより血行が悪くなった手足に乾燥が加わり、皮膚の表面に亀裂が生じ裂けた状態。血が出ることもある

皸や ほそ谷川は 石高み(椎本才麿)

あかがりを いざ灸せばや 苅干火(広瀬惟然)

皸を かくして母の 夜伽かな(小林一茶)

大いなる 皸の手の 尊しや(長谷川櫂)

・皸薬(あかぎれぐすり):あかぎれを治すために塗る薬

・穴施行(あなせぎょう):餌のなくなる寒中に、獣に小豆飯やいなりずしを夜間に置いておいて与えること

・凍豆腐(いてどうふ/しみどうふ):冬の晴れた夜更け、厳寒の戸外で豆腐を凍らせ、天日に乾した食品

・丑紅(うしべに):寒中の丑の日に売り出される寒紅

・梅探る(うめさぐる):晩冬、早梅を探って山野を逍遙すること

(2)か行

・悴む(かじかむ):寒さのために万物がちぢこまった状態

・悴ける(かじける):寒さのために万物がちぢこまった状態

・粥施行(かゆせぎょう):冬に富者が粥をたいて施行する風習

・粥やろう(かゆやろう):冬に富者が粥をたいて施行する風習

・寒泳(かんえい):寒中に行なう水泳。寒稽古の一つ

・寒泳ぎ(かんおよぎ):寒中に行なう水泳。寒稽古の一つ

・雁木(がんぎ):北信越の豪雪地帯で、雪避けのため家屋の前に付ける広い庇のこと

・雁木市(がんぎいち):雁木の通路で開かれる市

・寒灸(かんきゅう):寒中にするお灸をいう。灸は漢方療治法のひとつで、もぐさを肌の灸点に据え、これに火をつけて焼灼するものである。寒灸に対して、炎暑にするお灸を土用灸という

風の子や 裸で逃げる 寒の灸(小林一茶)

・寒厨(かんくりや/かんちゅう):冬の間のさむざむとした台所

・寒稽古(かんげいこ):剣道、柔道、弓道など武術を修める者が、寒三十日間、特に烈しい稽古を行うことをいう。武術のほか、謡曲、音曲などの芸事の寒中の稽古もいう

寒稽古青き畳に擲(なげう)たる
日野草城「青芝」

空を蹴り空を突きては寒稽古
長谷川櫂

・寒声(かんごえ):寒中に喉を鍛えておくといい声が出るということで、寒さ厳しい折に、稽古事の世界では発声修行をする。声を命とする人たちのこの業には気合が入る

寒声や 南大門の 水の月(宝井其角)

寒声の 連衆のそろふ 余波(なごり)かな(浪化)

・寒肥(かんごえ/かんぴ)/寒ごやし(かんごやし):寒中に農作物や庭木などに施す肥料のこと。やがて始まる草木の活発な活動に備えて、土壌に十分に栄養を与えておく

松の木に 寒糞かけて 夜の雨(小林一茶)

風の中 寒肥を撒く 小走りに(松本たかし)

・寒復習(かんざらい)/寒ざらえ(かんざらえ):歌舞音曲などの稽古を寒中に行なうこと。厳しい寒さにたじろがぬ姿勢が精神力を鍛え、技の上達を促すということ

ままつ子や 灰にイロハの 寒ならひ(小林一茶)

旭にあうて みだれ衣や 寒ざらへ(芝不器男)

・寒晒(かんざらし):穀物などを粉にして水に漬けた後、陰干しをして寒気に晒すこと。白玉粉などを作るための作業である。水に漬けるのは不純物を除去するためで、寒い時季にやるのは、雑菌の繁殖を防ぐためでもある

寒晒 土用のなかを さかりかな(森川許六)

手足まで 寒晒しなる 下部(しもべ)かな(小林一茶)

毎夜さの 槙の嵐や 寒晒(子静)

・寒晒粉(かんざらしこ):穀類などを寒の水につけたりして、陰干しにして寒気にさらすこと

・寒相撲(かんずもう):寒中に相撲の稽古をすること。寒稽古の一つ

・寒施行(かんせぎょう):野生の動物に、寒の時期餌を施し与えることをいう。田の畦、山の際などに、豆腐や油揚などを置く。野に置くことを野施行(のせぎょう)、狐や狸などの穴らしいところに置くことを穴施行という

・寒卵(かんたまご):寒中の鶏卵。寒の卵は滋養があると言われる。割ると黄身が盛り上がりいかにもうまそう。これを食べればじきに春がやってくるような気になる。食べ物は何でも命をいただくものだが、寒卵はことにその感が強い

苞(つと)にする 十の命や 寒鶏卵(かんたまご)(炭 太祗)

寒卵 かゝらじとする 輪島箸(前田普羅)

朝の日の 鶏舎にあまねし 寒玉子(星野立子)

寒卵 薔薇色させる 朝ありぬ(石田波郷)

ほのと影 しあうて二つ 寒卵(長谷川櫂)

・寒中水泳(かんちゅうすいえい):川や海で、寒稽古の一環として行う。日本古来の泳法や曲泳等の 形式をもつ流派もある

・寒中見舞(かんちゅうみまい)/寒見舞(かんみまい):寒中に安否を気遣って手紙を出したり、直接訪ねたりすること。暑中見舞いほど一般的ではない

・寒搗(かんつき/かんづき):寒中に米を搗いて精米すること。寒中に搗いた米にはコクゾウムシ(穀象虫)がわかないといわれた。現在ではあまり行われない

・寒造(かんづくり):寒中の水を用い醸造する酒をいう。この酒の味は旨く腐りにくいことから寒造と呼ばれる

奥深き その情こそ 寒づくり(西山宗因)

並蔵(なみくら)は ひびきの灘や 寒作り(宝井其角)

碓(からうす)の 十挺だてや 寒づくり(黒柳召波)

天地(あめつち)の 間(あいだ)香らせ 寒造り(長谷川櫂)

・寒釣(かんづり):寒中に行う釣りのこと。動きの鈍った鯉や鮒を釣ることを詠む場合が多い

・寒天晒す(かんてんさらす):天草(てんぐさ)を煮て凝固させ、厳冬の夜の戸外で凍らせてから干すのを繰り返して寒天をつくること

・寒天製す(かんてんせいす):天草(てんぐさ)を煮た液を木箱に流し込んで凝固させると心太(ところてん)ができる。これを真冬の夜の戸外に出して凍らせ、昼間は解かす。十日ほどその作業をくり返すと寒天ができる。古くは伏見、今は長野、岐阜、三重が産地

・寒天造る(かんてんつくる):天草(てんぐさ)を煮て凝固させ、厳冬の夜の戸外で凍らせてから干すのを繰り返して寒天をつくること

・寒天干す(かんてんほす):天草(てんぐさ)を煮て凝固させ、厳冬の夜の戸外で凍らせてから干すのを繰り返して寒天をつくること

・寒豆腐(かんどうふ):凍豆腐(こおりどうふ)の別称。冬の晴れた夜更け、厳寒の戸外で豆腐を凍らせ、天日に乾した食品

・寒取(かんどり):寒中に相撲の稽古をすること。寒稽古の一つ

・寒習(かんならい):日本の音曲・声曲の鍛練法のひとつで、冬の朝早くまたは夜遅くに厳しい寒さの中で烈しい練習をすること

・寒の餅(かんのもち):寒餅のこと

・寒乗(かんのり):寒中に鮮魚を運んだ、江戸時代の船乗りの仕事をいう。瀬戸内などで獲れたものを大阪に運んだ。海が荒れることも多く、危険な仕事であったという

・寒弾(かんびき):三味線の寒稽古。義太夫、長唄、常磐津、清元などの師匠は、寒の内の早朝から弟子に三味線の稽古をさせる。他の寒稽古と同様、寒中の厳しい稽古は芸を磨くとともに、精神的な強さも身に付くとされた

・寒紅(かんべに):寒中に造られた紅は品質が良く、美しいとされる。特に寒の丑の日のものは丑紅と言って最も上質とされた。俳句では、寒中に女性が用いる紅一般をも指す

笑み解けて 寒紅つきし 前歯かな(杉田久女)

古妻の 寒紅をさす 一事かな(日野草城)

寒紅の 皓歯にすこし うつろへる(久米三汀)

寒紅を 買ふ妻をみし 小路かな(長谷川櫂)

・寒紅売(かんべにうり):寒紅を売る人

・寒見舞(かんみまい):寒中に安否を気遣って手紙を出したり、直接訪ねたりすること。暑中見舞いほど一般的ではない

・寒餅(かんもち):冷房や暖房など温度の管理が出来なかった昔は、自然の温度を利用しさまざま生活に役立ててきた。特に寒は一年でも最も気温が低く、細菌が発生しにくいことから水や風を生かし、酒をはじめ味噌など多くの食品が作られてきた。寒中に搗くもちはカビの発生を防ぐとされ、貯蔵用やかき餅としても用いられてきた

・寒餅搗く(かんもちつく):正月餅の後、寒に入ってから餅を搗くこと

・寒やいと(かんやいと):寒中にすえる灸のこと。四季の中で最も効能が多いといわれる

・狐施行(きつねせぎょう):餌のなくなる寒中に、獣に小豆飯やいなりずしを夜間に置いておいて与えること

・葛晒し(くずさらし):葛根を細かく砕いて水槽の中に入れ、分離した澱粉が固まるまで水を替えつつ晒すこと。寒中の水がよいとされる

・ゲレンデ:スキーの練習場。スキー場

・高野豆腐(こうやどうふ):凍豆腐(しみどうふ)の別称。和歌山・高野山でつくられる凍豆腐が有名だったため

・氷切る(こおりきる):冬の間に湖・池・川などの天然氷を鋸で切り採って、夏用に氷室で貯蔵する作業

・氷蒟蒻(こおりこんにゃく):蒟蒻を厳冬の夜の戸外で凍らせてから干すのを繰り返して作るもの。精進料理などに用いる

・氷蒟蒻造る(こおりこんにゃくつくる):「蒟蒻凍らす」に同じ

・氷滑(こおりすべり):スケートのこと

・氷豆腐(こおりどうふ):凍豆腐(しみどうふ)の別称。冬の晴れた夜更け、厳寒の戸外で豆腐を凍らせ、天日に乾した食品

・氷挽く(こおりひく):冬の間に湖・池・川などの天然氷を鋸で切り採って、夏用に氷室で貯蔵する作業

・氷餅(こおりもち):寒中に凍らせておいた餅

・氷餅造る(こおりもちつくる):寒餅を紙でつつんでわらで連ね、戸外に出して寒夜に凍らせてから長期間乾燥させたもの

・凍え死(こごえじに):冬の寒さに凍え死ぬこと

・凍ゆ(こごゆ):寒さのために、からだが冷えきって固くなり、自由がきかなくなること

・蒟蒻凍らす(こんにゃくこおらす):寒中の夜間作業である。煮た蒟蒻に水をかけて氷らせ、次の夜もまた水をかけては氷らせる。ひと月ほどこの作業を繰り返すことで、乾燥した氷蒟蒻ができる。出汁ををよく吸うため、普通の蒟蒻よりうま味がある。精進料理などに使われる

(3)さ行

・採氷(さいひょう):沼や湖などの氷を切り出して、氷室に貯蔵すること。昔は、貯蔵された氷が夏に宮中に献上された

たてよこと 氷伐り行く 人数かな(広江八重桜)

・採氷車(さいひょうしゃ):冬、湖や池・川などの天然氷を鋸で切り採ったものを運搬する車

・採氷場(さいひょうじょう):冬、湖や池・川などの天然氷を鋸で切り採って貯蔵する場所

・砕氷船(さいひょうせん):氷った海の氷を砕きながら進む船。北極海や南極海などで航行する。軍用船、探査船が主である

・採氷池(さいひょうち):冬、湖や池・川などの天然氷を鋸で切り採る池

・採氷夫(さいひょうふ):冬、湖や池・川などの天然氷を鋸で切り採る人

・札幌雪まつり(さっぽろゆきまつり):2月上旬に札幌・大通公園を中心に行われる雪まつり。巨大な雪像が並び、世界から観光客が来る

・凍豆腐(しみどうふ/いてどうふ):冬の晴れた夜更け、厳寒の戸外で豆腐を凍らせ、天日に乾した食品

・凍豆腐造る(しみどうふつくる):茄でた豆腐を寒気にさらして凍らせ、その後天日干しにして作る。 栄養価が高く長期保存がきき、食べるときはぬるま湯でもどす。味噌汁の具や、煮物の具などになる。関西では、高野豆腐とも呼ばれる

・霜腫(しもばれ):霜焼のこと

・霜焼(しもやけ):強い寒気にあって生じる軽い凍傷のこと。患部にかゆみを感じ、物にすれたり掻いたりすると、血が出ることもある

霜やけや 武士の娘の 水仕事(正岡子規)

霜やけの 手より熬豆(いりまめ) こぼしけり(正岡子規)

・霜焼薬(しもやけぐすり):霜焼を治すための薬

京も終(はて) 霜やけ薬 貝に盛る(石橋秀野)

・シャンツェ:スキーのジャンプ台。助走路・踏み切り台・着陸斜面からなる。飛躍台

・シュプール:スキーで滑ったときに雪上に残る跡

・春信(しゅんしん):早咲きの梅など、春の近いのを知らせるもの

・消雪パイプ(しょうせつぱいぷ):道路の中央にパイプを走らせ、一定間隔のノズルから地下水を噴出させて雪を消す装置

・除雪(じょせつ):降り積もった雪を取り除くこと

・除雪車(じょせつしゃ):ラッセル車のこと。除雪をするための機関車

・除雪隊(じょせつたい):雪搔をする一隊

・除雪夫(じょせつふ):雪搔をする人夫

・新海苔(しんのり):冬に採れた海苔のこと。色が濃く柔らかで、香り高い

・すが漏り/すが洩り(すがもり):寒地で雪が氷結したものが、室内の暖房や寒気の緩みで融け、小さな隙間から屋内に流れこみ、壁や天井裏を伝って室内に洩れて染みをつくること

・スキー:雪上の交通手段として靴に細長い板を取り付けて、雪の上を歩いたり、滑ったりして進むための道具。日本には1911年新潟県上越市(旧高田)で軍隊用とし初めて取り入れられた。現在ではおもに冬のスポーツとして親しまれている。オリンピックではアルペン、ノルディックをはじめ種目も多彩である

・スキー場(すきーじょう):スキーをする場所

・スキー帽(すきーぼう):スキーをするときかぶる帽子

・スキーヤー:スキーをする人

・スキー宿(すきーやど):スキーヤーの泊まる宿

・スキー列車(すきーれっしゃ):スキー場にいく列車

・スケーター:スケートをする人

・スケート:靴の底に金属の刃を取り付けた氷上を滑走するための道具。狩や生活の交通手段として発達した。現在はおもにスポーツや遊具として用いられる

スケートや 右に左に 影なげて(鈴木花蓑)

鳶の翼 スケートの人ら 遥か下に(渡辺水巴)

滑り出て 氷の上に 女の子(長谷川櫂)

・スケート場(すけーとじょう):スケートをする場所

・スノーチェーン:自動車やオートバイで積雪路や凍結路、泥濘地(でいねいち)を走行する際、タイヤの外周に装着する滑り止め用の器具

・スノーポール:雪棹(ゆきざお)のこと

・スノーモービル:1人または2人乗りの小型雪上車である。積雪地域の日常的な交通手段として用いられるほか、スキー場を始めとする雪山での監視や捜索救難、冬季のアウトドア・レジャーなどにも広く用いられる

・雪上車(せつじょうしゃ):雪の上を走る乗用兼牽引用で、タイヤのかわりにキャタピラーを用いた自動車をいう。人や物の運搬、また吹雪の中の緊急活動などに使用される。また、雪上車の一種としてキャタピラー付きのオートバイ型の橇をスノーモービルという

・雪像(せつぞう):雪でいろいろな物の形態を模して造った像

・雪像展(せつぞうてん):雪像の展覧会

・雪盲(せつもう):雪に反射される強い紫外線のため、目の結膜や角膜がおかされること

(4)た行

・探梅(たんばい):春を待ちかねて、まだ冬のうちに早咲きの梅を求めて山野に入ること。枯れ尽くした大地の中に春の兆しを探す心映えを尊ぶ。寒気の残る山野を、一輪の梅を探し求める姿は、人生の真を追い続ける心の旅にも似ている

香を探る 梅に蔵見る 軒端哉(松尾芭蕉)

打ち寄りて 花入探れ 梅椿(松尾芭蕉)

探梅の 人が覗きて 井は古(ふ)りぬ(前田普羅)

大仏の うしろの山の 梅探る(長谷川櫂)

・凍死(とうし):凍傷のため、全身の組織が壊死して命を落すこと。冬山での遭難でおこることが多い

・凍傷(とうしょう):寒気のために皮膚の血行が極端に悪くなること。軽いのは霜焼ほどですむが、重くなれば組織の壊死を起こし、それが全身に及べば死を招く

・凍瘡(とうそう):霜焼のこと

・豆腐氷らす(とうふこおらす):冬に凍豆腐をつくること。晴れた冬の夜更けに厳寒の戸外で豆腐を凍らせ、天日に乾すもの

(5)な行

・野施行(のせぎょう):餌のなくなる寒中に、獣に小豆飯やいなりずしを夜間に置いておいて与えること

野施行を 覗く雑木の 鴉(からす)かな(庄司瓦全)

(6)は行

・排雪車(はいせつしゃ):ラッセル車のこと。除雪をするための機関車

・排雪夫(はいせつふ):雪搔をする人夫

・初海苔(はつのり):新海苔のこと。色が濃く柔らかで、香り高い

・春の便り(はるのたより):早咲きの梅など、春の近いのを知らせるもの

・避寒(ひかん):冬の寒さを避けるために温暖な地や温泉などへ出向いて一時期を過ごすこと。夏場の避暑のようには混雑しない。老人や病人向けといえる

大浪の 打つ暖かき 避寒せり(河東碧梧桐)

舟寄せて 漁翁の見舞ふ 避寒かな(河東碧梧桐)

縋り乗る 避寒の宿の 馬かりて(河東碧梧桐)

橙に 天照る日ある 避寒かな(松本たかし)

佳きひとの 髪を結はざる 避寒かな(日野草城)

・避寒宿(ひかんやど):冬の避寒をするための宿

・胼(ひび):手足などの皮膚の表皮が寒さの為に乾燥して細かい亀裂が生じたもの。ひどくなると熱を持ったり血が滲んだりする。グリセリンなどを塗って保湿する

勤行に 腕(かいな)の胼や うす衣(炭 太祇)

胼の手を 真綿に恥づる 女かな(高井几菫)

競べあふ 胝の手先や 寮の尼(黒柳召波)

な泣きそと 拭へば胼や 吾子の頬(杉田久女)

・胼薬(ひびぐすり):化粧用クリーム、ワセリン、ビタミンAを含む軟膏など胼をなおす薬

・吹雪倒れ(ふぶきだおれ/ふきだおれ):吹雪の中で往生し、行き倒れてしまうこと。平野部であっても、雪に覆われた遺体が、春まで見つからないというようなこともある

・踏俵(ふみだわら):雪踏み(道に積もった雪を踏み固める作業)をするための俵のような沓(くつ)。わらで小さい俵のように編んだものを二つ作り、上から足を入れて歩きながら雪を踏みかためる。上部に握り縄をつける

踏み俵

・ボブスレー:前後に滑走部があり、ハンドルとブレーキを備えた鋼鉄製の橇(そり)。また、それを用いて斜面に設けた氷のコースを滑り降りる競技。四人乗りと二人乗りがある

(7)ま行

・丸太出(まるただし):冬に伐採した丸太を橇にひかせて運搬すること

・丸太曳(まるたひき):伐採した丸太を筏場まで運ぶこと。雪の斜面を滑らせたり、牛馬に曳かせたりする

・水餅(みずもち):暮に搗(つ)いた餅のカビを防ぐために、水に漬けて保存すること。こうしておけば餅が乾燥して干割れ(ひわれ)することもない。主には保存のためであるが、寒餅をついてそれを水餅とすることもある

・水餅造る(みずもちつくる):黴(かび)や干割れを防ぐために、餅を冷たい水に漬けること。寒の水がよいという

(8)や行

・八目鰻取る(やつめうなぎとる):八目鰻の漁のこと。冬、凍結した川の底にいる八目鰻を取ること。寒中に多くとれる。新潟県、山形県、秋田県などの日本海に注ぐ河川で多く獲れる

・藪出(やぶだし):冬に伐採した丸太を橇にひかせて運搬すること

・融雪溝(ゆうせつこう):道路の側溝に温水を流し、路上の雪を側溝に投入して融かす装置

・雪遊び(ゆきあそび):雪を使った野原やグランドでの遊び。雪合戦や雪の上での相撲など、真っ白な息を吐きながら、子供たちが動き回る

・雪兎(ゆきうさぎ):盆に雪の塊をのせ、目は南天の実の赤を、耳には南天や笹の葉をつけ兎の形にする。雪達磨とともに子供のころの郷愁を誘う

雪兎

・雪下し/雪卸し(ゆきおろし):屋根などに積もった雪を掻き下ろすこと。雪の重みで戸の開け閉(た)てがきつくなったり、ひどい時は家が倒壊したりするので雪下しは不可欠。危険な力仕事である

雪下ろし

飛びたつは 夕山鳥か ゆきおろし(加舎白雄)

雪卸し 能登見ゆるまで 上りけり(前田普羅)

暮れそむる 奥山見えて 雪おろす(前田普羅)

・雪返し(ゆきがえし):雪掻きの道具の一つ

・雪掻(ゆきかき):シャベルやこすきなどを使って積もった雪を掻きのけること。今は除雪車などで広い範囲の除雪が出来るようになったが昔は大変な作業だった

・雪掻人夫(ゆきかきにんぷ):雪掻きをする人夫

・雪掻箆(ゆきかきべら):雪掻きの道具の一つ

・雪合戦(ゆきがっせん):雪玉を投げ合う遊び

・雪消し(ゆきけし):互いに食品を贈り合って雪害の無事を念ずること

・雪こかし(ゆきこかし):雪の小さい塊をころがして、だんだん大きくする遊び

・雪ころばし(ゆきころばし)/雪転(ゆきころがし/ゆきまろばし):雪の小さい塊をころがして、だんだん大きくする遊び

・雪棹(ゆきざお):積雪量を測るため、雪に立てておく目盛のついた棹のこと。道路 と側溝の境に立てて目印としたり、校庭などでは、百葉箱の脇に 立てられたりする

雪竿や 船路(ふなじ)に倦(う)みし 佐渡が島(東几)

・雪獅子(ゆきじし):雪で作った獅子

・雪尺(ゆきじゃく):積雪量の測定のために、目盛をつけて地上に立てておく竿

・雪鋤(ゆきすき):除雪用の鋤

・雪捨(ゆきすて):門口や庭、店先に積もった雪を、通行のためシャベルやスコップで取り除くこと

・雪達磨(ゆきだるま):雪をころがしてかたまりを二つ作り、達磨のかたちにしたもの。木の葉や玩具などで目鼻をつける。昔は木炭や炭団を目鼻にした。雪達磨作りは子供の遊びだが、大人もときに夢中なれる

家々の 灯るあはれや 雪達磨(渡辺水巴)

雪だるま 星のおしやべり ぺちやくちやと(松本たかし)

・雪礫(ゆきつぶて):雪玉を投げ合う遊び

・雪投げ(ゆきなげ):雪遊びの一つ。雪合戦のこと

・雪の友(ゆきのとも):雪見をする人

笠ぬぐや 出あひがしらの 雪の友(西山宗因)

・雪の人(ゆきのひと):雪見をする人

鍋提げて 淀の小橋を 雪の人(与謝蕪村)

・雪踏(ゆきふみ):雪の深い地方では、雪沓などで新雪を踏み固めて歩きやすいようにする。道の確保は生活、交通のため欠かせない

・雪箒(ゆきぼうき):雪搔きをする箒

・雪布袋(ゆきほてい):雪達磨の一種

・雪仏(ゆきぼとけ):雪で作った仏像

此の下に かくねむるらん 雪仏(服部嵐雪)

御ひざに 雀鳴くなり 雪仏(小林一茶)

月さえて 二日になりぬ 雪仏(蒼虬)

・雪丸げ(ゆきまるげ/ゆきまろげ):雪の小さい塊をころがして、だんだん大きくする遊び

・雪まろばし(ゆきまろばし):雪の小さい塊をころがして、だんだん大きくする遊び

・雪見(ゆきみ):雪景色を愛でつつ、料亭、舟上などで酒宴などを催すこと。花見、月見と同じように風流を楽しむ

いざさらば 雪見にころぶ 所まで(松尾芭蕉)

花はしろく 鼻はあからむ 雪見かな(北村季吟)

雪見とて 出づるや武士の 馬に鞍(炭 太祇)

思はずの 雪見や日枝(ひえ)の 前後(まえしりえ)(内藤丈草)

ころぶ人を 笑うてころぶ 雪見かな(加賀千代女)

いざ雪見 容(かたちづくり)す 蓑と笠(与謝蕪村)

・雪見笠(ゆきみがさ):雪見に使う笠

・雪見行(ゆきみこう):雪の降った中、散策しつつ雪景色を賞すること

・雪見酒(ゆきみざけ):雪見をしながら飲む酒

・雪見の宴(ゆきみのえん):雪見の時に行なう宴会

・雪見船(ゆきみぶね):雪見のために乗る船

・雪見舞(ゆきみまい):雪害に見舞われた人の安否を尋ね、見舞うこと。豪雪地帯ではどの家にも等しく雪が降るので、人を見舞っている余裕などない。雪の比較的少ない地方で、思わぬほどの雪が降った折の習慣であろう

・雪眼(ゆきめ):晴天の日、積雪のあるところでは光の乱反射が起こる。そのため、紫外線が放射され目の結膜が炎症をおこす。これが雪眼である。目が赤くなり涙が出る。ひどくなると視力に支障をきたす

・雪眼鏡(ゆきめがね):雪眼になるのを予防するためにかける眼鏡

・雪焼(ゆきやけ):日光の直射と雪の反射によって紫外線を受け日焼けすること。冬に真っ黒に雪焼しているのは、山男、スキーヤーの勲章のようである

・雪を掻く(ゆきをかく):門口や庭、店先に積もった雪を、通行のためシャベルやスコップで取り除くこと

・雪を掃く(ゆきをはく):門口や庭、店先に積もった雪を、通行のためシャベルやスコップで取り除くこと

(9)ら行

・ラッセル車(らっせるしゃ):除雪をするための機関車。先頭に三角形の雪除けが付いている

ラッセル車

・リュージュ:そりの前方に足を乗せる状態で仰向けに乗って氷上を滑る速さを競うウィンタースポーツ。元はフランス語で「木製のそり」の意味

・ロータリー車(ろーたりーしゃ):雪を遠くに吹き飛ばす装置のある除雪車

ロータリー車

(10)わ行