漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「人間関係」を表す四字熟語のうち、「夫婦・男女の愛」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.合縁奇縁(あいえんきえん)
不思議なめぐり合わせの縁のことです。人と人とが互いに気心が合うかどうかは、みな因縁という不思議な力によるものであるということです。
人と人の結びつきについていいますが、特に男女の間柄についていいます。
「合縁」はもと仏教語で、恩愛から起こる人と人の結びつきの意です。「奇縁」は不思議なめぐり合わせ、または思いがけない不思議な縁の意です。「愛縁機縁」「相縁機縁」とも書きます。
2.愛及屋烏(あいおくきゅうう)
溺愛、盲愛のたとえです。
その人を愛するあまり、その人に関わるもの全て、その人の家の屋根にとまっている烏(からす)さえも愛おしくなるということから。
「屋(おく)を愛して烏に及ぶ」と訓読します。
3.異体同心(いたいどうしん)
肉体は違っても、心は一つに固く結ばれていることで、関係がきわめて深いたとえです。
身体は異なるが、心は同じという意から。特に、夫婦や非常に親しい人の間柄に多く用います。
4.盈盈一水(えいえいいっすい)
水が満ちあふれた一筋の川にへだてられた意から、男女が思いを交わしながら会うことのできない苦しみやつらさをいうたとえです。
「盈盈一水の間」の略。また「盈盈たる一水」と読み下します。
「盈盈」は、水が満ちあふれるさま、または女性の容姿がしなやかで美しい形容です。「一水」は、一筋の川のことです。
天の川でへだてられた牽牛(けんぎゅう)と織女(しょくじょ)の七夕伝説に由来する言葉です。
5.割臂之盟(かっぴのめい)
非公式にひっそりと結婚の約束をすることです。
「割臂」は腕に傷をつけることで、「盟」は誓い、約束のことです。
中国の春秋時代の魯の荘公が、孟任を嫁にしようとしたときに、その誓いとして荘公は自身の腕に傷をつけて、それをすすったという故事から。
6.関関雎鳩(かんかんしょきゅう)
夫婦の仲がよいことです。
「関関」は鳥がむつまじく鳴く声のたとえで、「雎鳩」は水鳥のみさごの別名です。
みさごのつがいが、仲良く和らいで鳴き交わしているということから。
7.関雎之化(かんしょのか)
夫婦仲がよく、家庭がうまく治まることのたとえです。
8.挙案斉眉(きょあんせいび)
妻が夫に礼儀を尽くし尊ぶたとえです。また、夫婦が互いに礼儀を尽くし尊敬して、仲がよいたとえです。
膳(ぜん)を眉(まゆ)の高さまで挙げて、両手でうやうやしくささげ持つ意から。
「案」は膳、「挙案」は膳を挙げ持つ意で、「斉眉」は眉の高さと同じくしてささげることです。「斉」は等しい意です。
「案を挙(あ)ぐるに眉に斉(ひと)しくす」と訓読します。
9.琴瑟相和(きんしつそうわ)
人と人の仲、特に夫婦の仲がむつまじいことのたとえです。
「琴」は、小型の琴で、「瑟」は、大型の琴です。琴と瑟とは常に合奏し、音がよく調和するの意から。
「琴瑟相(あい)和す」と訓読します。
10.形影一如(けいえいいちにょ)
仲むつまじい夫婦のたとえです。また、心の善し悪しがその行動に表れるたとえです。
からだとその影は常に離れず寄り添い、同じ動きをすることから。
「形影」はからだとその影のことで、互いに離れることがないことから、密接な関係のたとえです。「一如」は一体、、不可分の意です。
11.合歓綢繆(ごうかんちゅうびゅう)
男女が親しく愛し合うさまです。
「合歓」は喜びをともにすること、男女が交わることです。「綢繆」はもつれ合う、まつわる意です。
12.三千寵愛(さんぜんちょうあい/さんぜんのちょうあい)
たくさんの侍女にかける寵愛のことです。宮中に仕える女性三千人にかける寵愛という意味から。
元来は、たくさんの女性にかけるべき愛情を一人だけに向けてしまうという意味です。
中国の唐の玄宗皇帝の後宮には、三千人ほどの美女がいましたが、楊貴妃はその美女たち全員の寵愛を独り占めしたという故事から。
13.寸歩不離(すんぽふり)
距離をおかずすぐそばにいること、また非常に密接な関係にあることです。夫婦仲むつまじく、一歩も離れないことです。
「寸歩」はごく少しの歩みの意です。「寸歩離れず」と訓読します。
14.糟糠之妻(そうこうのつま)
貧しいときから一緒に苦労を重ねてきた妻のことです。貧しさを共にしてきた妻は、自分が富貴になっても大切にするという意です。
「糟糠」は酒かすと米ぬかのことで、貧しい食事の形容です。「糟糠の妻は堂より下(おろ)さず」と常用されます。
15.相思相愛(そうしそうあい)
互いに慕い合い、愛し合っていることです。
「相思」は相手を慕い合うことで、「相愛」は互いに愛し合うことです。多く男女間に用いますが、自分の入りたいチームなどが自分を獲得したがっている状態などにも用います。
16.双宿双飛(そうしゅくそうひ)
夫婦の仲がよく、常に離れることがないことです。雄と雌が寝るときも起きているときも、いつも寄り添って一緒にいることです。
「双」はつがいのことで、「宿」は住むことです。つがいが一緒に住み、一緒に飛ぶという意です。
17.束髪封帛(そくはつふうはく)
妻が貞操をかたく守ることです。
「束髪」は、髪を束ねることで、「封帛」は、白い絹の布で封印することです。
中国・唐の時代、賈直言(かちょくげん)が罪に問われ左遷される時に、年若い妻が、髪を束ね、それを白い絹の布で包んで、貞操を誓った故事に由来します。
18.大衾長枕(たいきんちょうちん)
同じ布団で寝るほどに兄弟や夫婦が仲睦まじいことのたとえです。
「衾」は夜着や掛け布団のことです。
元は夫婦仲がよいという意味の言葉でしたが、玄宗皇帝が、息子兄弟が仲良く寝られるように大きな布団と長い枕を作らせた故事から、兄弟の仲がよいこともいうようにもなりました。
19.中冓之言(ちゅうこうのげん)
夫婦や男女が寝室で語り合うことです。
「中冓」は家の奥にある部屋ということから、夫婦の寝室のことです。
20.喋喋喃喃(ちょうちょうなんなん)/喃喃喋喋(なんなんちょうちょう)
男女がむつまじげに語り合うさま、また小さい声で親しそうに語り合うさまのことです。
「喋喋」は口数の多いさま、「喃喃」は小声でしゃべる意です。
21.殢雨尤雲(ていうゆううん)/尤雲殢雨(ゆううんていう)
男女の情交のことです。
「尤」はもたれかかること、またはまとわりつくことです。「殢」は寄り添って親しむことです。
「雲」と「雨」は楚の国の懐王が巫山にいる巫女と情交を交わしたという故事から、男女の情交のたとえです。
22.投瓜得瓊(とうかとくけい)
男女が愛情の誓いの品を互いに贈ること、または少しの贈りもので多くの贈りものを受け取ることです。「瓊」は宝玉のことです。
古代中国の習慣で、女性が木瓜(ぼけ)などの木の実を投げて求愛して、男性は応じるときに宝玉を贈っていたということから。
「瓜を投じて瓊を得(う)」と訓読します。
23.同衾共枕(どうきんきょうちん)
男女が同じ布団で睦まじく寝て、情愛を交わすことです。
「衾」は布団や夜具のことです。同じ布団で枕を共にするという意味から。
24.洞房花燭(どうぼうかしょく)/花燭洞房(かしょくどうぼう)
新婚のこと、または新婚の夜のことです。
「洞房」は、奥深い婦人の部屋のことで、女郎屋の意味もあります。「花燭」は、婚礼の儀式などに使う華やかなろうそくのことです。
25.柏舟之操(はくしゅうのそう)
夫を亡くした妻が貞操を守って、二度と結婚しないことです。
「柏舟」は『詩経』の中にある篇の名前です。
古代中国の春秋時代、衛の国の太子だった共伯の妻の共姜は、共伯が亡くなった後に再婚を勧められても断り、「柏舟」の詩を作って、貞操を守り続けることを誓ったという故事から。
26.比翼連理(ひよくれんり)
男女の情愛の深くむつまじいことのたとえ、相思相愛の仲・夫婦仲のむつまじいたとえです。
「比翼」は比翼の鳥のことで、雌雄それぞれ目と翼が一つずつで、常に一体となって飛ぶという想像上の鳥です。
「連理」は連理の枝のことで、根元は別々の二本の木で幹や枝が途中でくっついて、木理が連なったものです。男女の離れがたく仲むつまじいことのたとえです。
27.巫雲蜀雨(ふうんしょくう)
離れ離れになって暮らしている夫婦がお互いのことを思いやることのたとえです。
「巫雲」は中国の巫山という名前の山の雲で、「蜀雨」は中国の蜀という名前の国に降る雨です。
28.夫妻牉合(ふさいはんごう)
夫婦はそれぞれ半分ずつで、二つ合わせて一つになるということで、夫婦は一体であることです。
29.巫山之夢(ふざんのゆめ)
男女の交わり、情交のたとえです。
「巫山」は中国の四川省と湖北省の間にある、女神が住んでいたとされる山のことです。
中国の戦国時代の楚の懐王が昼寝をした際、夢の中で巫山の女神と情交を結んだが、別れ際に女神が「朝には雲となって、夕方には雨となってここに参ります」と言ったという故事から。
30.夫唱婦随/夫倡婦随(ふしょうふずい)
夫婦の仲が非常に良いことです。夫が言い出し妻がそれに従う意から。
「唱」は言い出すことです。
31.瓶墜簪折(へいついしんせつ)
男女が離れて二度と会うことができないことのたとえです。
「瓶」は井戸のつるべ、「簪」は玉のかんざしのことで、つるべの縄が切れて、縄が井戸の底に落ち、かんざしが二つに折れてしまうという意味から。
32.鳳凰于飛(ほうおううひ)
①おおとりの雌雄のように、夫婦が仲むつまじいこと。
②鳳凰が飛ぶと他の鳥も従って飛ぶ意から、聡明な天子のもとに、賢者が多く集まることのたとえ。
「鳳凰」は、想像上の鳥で、おおとりのこと。聖天子が現れるときに出現するという伝説があります。「鳳」が雄で、「凰」が雌。「于」は、語調を整える助字で、「ここに」の意。おおとりが仲良くつがいで飛ぶことの意。
「鳳凰于(ここ)に飛ぶ」と訓読します。
33.鳳友鸞交(ほうゆうらんこう)/鸞交鳳友(らんこうほうゆう)
男女の肉体関係のたとえ、また男女が結婚することのたとえです。
「鳳」と「鸞」はどちらも中国の伝説の鳥で、「鳳」は鳳凰、「鸞」は鳳凰に似ている霊鳥です。それらの美しい鳥の交わりを人の男女にたとえた言葉です。
34.踰牆鑚隙(ゆしょうさんげき)
男性と女性が他人に見られないように会うことのたとえ、または、だらしない付き合いをすることです。
「踰牆」は垣根を越えることで、「鑚隙」は細長い穴をあけることです。
入り口から入らず、垣根を越えて密かに会ったり、壁に穴をあけて覗き合うという意味から。
不当なやり方を使うことのたとえとしても使われます。
「牆(しょう)を踰(こ)え隙(げき)を鑚(うが)つ」と訓読します。
35.落花流水(らっかりゅうすい)/流水落花(りゅうすいらっか)
落ちた花が水に従って流れる意で、ゆく春の景色です。転じて、物事の衰えゆくことのたとえ、時がむなしく過ぎ去るたとえです。
別離のたとえ、また男女の気持ちが互いに通じ合い、相思相愛の状態にあることです。
散る花は流水に乗って流れ去りたいと思い、流れ去る水は落花を乗せて流れたいと思う心情を、それぞれ男と女に移し変えて生まれた語です。
転じて、水の流れに身をまかせたい落花を男に、落花を浮かべたい水の流れを女になぞらえて、男に女を思う情があれば、女もその男を慕う情が生ずるということです。